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僕がグロービスでソーシャル・ベンチャー・マネジメントの講師を続ける理由

千年建設という名古屋の建設会社を経営している岡本です。

家を借りられないシングルマザーに低価格で物件を貸す会社と、シングルマザーの自立を支援する認定NPO法人LivEQuality HUBも経営しています。

ここ数年、グロービス経営大学院で「ソーシャル・ベンチャー・マネジメント」講座の教員をしています。

僕は大学院も出ていないし、海外留学もしていない。

最初に就職した会社はPwCなのでコンサル出身とはいえ、今は地方の中小企業とNPOとソーシャルスタートアップを運営する経営者です。

そんな僕がグロービスで講師を務めるなんて、思いもしなかった。

このnoteでは、僕が講師を続ける理由について書いてみたいと思います。

グロービスの講師になることは、まったく想定していなかった

僕がグロービス経営大学院の講師になったきっかけは、2015年頃までさかのぼります。

グロービスは日本最大のビジネススクール。経営学を学びビジネススキルを磨きたいという、全国のビジネスパーソンが集っています。

僕がソーシャルベンチャー・パートナーズ東京で代表をしていた当時。グロービスの方から「これからはソーシャルベンチャーについて学ぶことが大事だと思っているので、新しくプログラムを作りたい。相談にのってもらえないか」と連絡をもらいました。

ソーシャルベンチャーとは、社会課題をビジネスの手法で解決しようとする事業のこと。相談の主旨は、ソーシャルベンチャーについて学ぶカリキュラムの中で、僕を主人公にしたケースを取り上げたいということでした。

色々とお話して、ソーシャルベンチャーの経営に携わっていた僕が主人公になったケース教材ができました。

自分が主人公になったグロービスのケース教材

この時点では、自分が講師になることは想像もしていませんでした。

自分で自分が主人公のケースを教えるなんて、普通はありえません。

僕は現場側の人間として教材づくりに協力しましたが、講師はほかのアカデミックな方がアサインされていくものだと思っていました。

グロービスから「ソーシャル・ベンチャー・マネジメントの講師もやってほしい」とお声がけいただいたのは、2021年。

ソーシャルベンチャーの代表をバトンタッチし、地元名古屋にもどって父がつくった建設会社を継いだ後のことです。

コロナ禍で困窮するシングルマザーを支援するNPO法人を立ち上げようとしていたタイミングでした。

やることは山積みです。

ほかの経営メンバーからも「さすがに忙しすぎてそんな時間はないんじゃないか?」と言われました。それはその通りで、かなり悩みました。

でも結局は「やってみたい」という気持ちが強かったので、引き受けることにしたんです。

講師をはじめたときに自分がつづった気持ち

教育は100人の1歩を後押しすることで、社会をよりよくしていける

僕は世の中の人々のマインドセットが変わることで、じわっと社会がよくなっていくといいと考えています。

1人のイノベーターの力で社会を変えるというよりも、一人ひとりがソーシャルマインドをもち、それぞれが自分の半径5メートルの手が届く範囲でアクションを起こすことで、社会がよくなる。

1人の100歩よりも、100人の1歩によって社会全体がよくなっていくことを理想としています。

そのためには、一人ひとりのマインドセットに変化を生み出すことが必要です。それは教育にほかならないと思っています。

グロービスに集う将来経営ポジションを担うようなビジネスパーソンが、ソーシャルの世界感にふれてマインドセットが変わる。自分の持ち場にもどって変化を起こす。

これを続けていけば、自分だけではできないインパクトをみんなで起こしていける。そんな未来を想像して、ワクワクしました。

なにしろグロービスの講座は、ソーシャルセクターのことをほとんど知らない人たちが対象です。

ソーシャルビジネスやNPOのことを理解して、チャリティとしての側面だけでなく、ビジネスと結びついてインパクトが起きていることを知ってもらえたら。きっと受講者の心に変化がおこるはず。

そんな火種をつくって育むことで、じわっとインパクトを広げていけるんじゃないかと思いました。

もちろん僕は講師にすぎないので、社会の変化やインパクトをつくるわけではありません。

でも講座をきっかけにうまれる変化があるならば、それはとてもやりがいのあることです。

それに、現場の経験者が教壇に立っていないとも思いました。

コンサルティング会社の経営者やコンサルタントはいるけれど、事業会社かつソーシャルベンチャーを経営している講師はグロービスにはいないんじゃないか?と。

現在進行系でチャレンジしている僕の姿から現場のリアリティを知ってもらうことは、大事な学びの機会になるかもしれない。

僕が教えることに意味があると思えたし、それをたのしめそうな予感もある。なにより教育を通じて自分がつくりたい社会のあり方に近づける機会になる。

そんな風に感じて、無理をしてでもやってみようと講師の依頼を引き受けることにしました。

リアリティのある学びが、自分の人生を考えるきっかけになる

僕が担当する「ソーシャル・ベンチャー・マネジメント」は3ヶ月間・全6回のプログラムです。オンラインのクラスもありますが、リアルクラスを担当しています。

セオリーオブチェンジ、レバレッジポイントなどのフレームワークを学ぶ時間もあります。

でも僕はソーシャルビジネスを経営する現場にいるので、リアリティをどう伝えるかにこだわりたい。

なので、たとえばこのnoteでも書いた、NPOでの「メンバー全員から糾弾され、誰もついてきてくれなかった」というマネジメントの失敗経験も率直に話しています。

なぜそんな状況になったのか、僕のなにが悪くてどうすればよかったのか、赤裸々に話すようにしています。

仕事は自分のメインの活動時間を相当使うわけなので、仕事を充実させることは人生を充実させることに直結する。

つまり、どう生きるか、ということだと思っています。

特にソーシャルベンチャーは、「稼ぐことよりも、お金というエンジンをつかってどこに行くかを重視した経営」を体現する存在です。

フレームワークやケーススタディもやりますが、受講生自身にも、どこに行きたいのか・どう生きたいのかを考えてもらう時間にしたいと思っています。

プログラムの最後には、自分のソーシャルアクションをプレゼンしてもらっています。

大きな社会課題に対する解決策を考えるのではなく、自分の半径5メートルを幸せにできるアクションを考える。

そうすると、例えば奥さんがずっとうつ病で苦しんでいるので…とか、シングルマザーの家庭で育ったので…とか、子どもが自閉症なので…といった、その人の人生そのものに関わるテーマを話してくれる。

多くの受講生が、自分に深く根ざしたところにある課題感とつながったアクションプランをプレゼンしてくれます。

僕は教えるプロじゃありません。

実践者だから伝えられることを全力で伝えて、受講生と真剣に向き合うようにしています。

23年の夏には、僕のクラスを受講してくれた歴代の受講生が集まる会を開催してくれました

想像を遥かにこえたアクションが次々にうまれる

金融機関に勤めるAさんは、プログラム終了後に自分で希望してサステナビリティファイナンスの部署に異動しました。

彼が執筆するインパクトレポートに、授業で学んだセオリー・オブ・チェンジの概念を盛り込んだそうです。

セオリー・オブ・チェンジは、社会的な目標を達成するための道筋を論理的に示す考え方。

「この言葉は一般的には伝わりにくいから使わない方がいい」と言われたそうですが、「これこそが重要だ」と主張して死守したそうです。

大阪校の受講生たちは授業をきっかけに「もっと何かしたい」と沖縄の地域課題解決プログラムに参加しました。

地域に関わる中でやりたいと考えたリトリートプログラム。このプログラムを実際に沖縄で開催して、数年たった今も継続して活動しています。

老舗菓子店の7代目として家業を再生した人もいます。

Bさんは受講当時は専門商社に勤めていました。彼女の実家は京都の祇園にあるお菓子屋さん。色々と課題があり一度閉じてしまったそうです。

でも授業の最終プレゼンテーションで、「家業を私が再生します」と宣言。勤めていた会社を辞めて、不動産を買い戻すところからはじめて、本当に家業を再生させました。

グロービスに社会貢献に取り組むクラブをつくった人たちもいます。

グロービスには「ソーシャルアクションクラブ」というものがあります。これは6日間のプロボノプログラム。

プロボノというのは、社会的な目的のために、職業上のスキルや経験を活かして取り組む社会貢献活動です。

僕たちLivEQualityもグロービスの「ソーシャルアクションクラブ」の支援をうけていて、プロボノに来てもらっています。

この取り組みは、僕のクラスを受講した一期生たちがはじめた活動なんです。

支援先のNPOを自分たちで選定して、プロボノをしたい人たちを集めてマッチングする。一期生3名が、このプログラム全体をオーガナイズしています。

これがグロービスの中でも結構な勢力になってきているみたいで。運営を続けることはかなり大変なはずで、すごいことだと思っています。

こんな風に、授業をきっかけに生まれた変化は、僕の想像を遥かに超えるものばかり

みんなの行動変容を感じられることは、ものすごくうれしいです。

社会課題の解決といっても、多くの人は聞いたことはあってもどうすればいいか分からないものだと思います。「何かできないか」というもやもやした気持ちを抱えながら働いている人もたくさんいます。

そういう人は、よかったらぜひ「ソーシャル・ベンチャー・マネジメント」を受けてみてください。

必要なのは壮大な計画やアクションじゃありません。自分の半径5メートルの大切な人たちのために何をするか?が見つけられると思います。

もちろんソーシャル領域に興味がない人でも歓迎です。働くということは生きることでもあります。キャリアに真剣に向き合っている人であれば、得られるものがあると思います。

それに、経営ポジションについているすべての人に学んでほしいことでもあります。

これからはビジネスをするうえで社会性と事業性を両立することが求められます。地球環境は限界に近い状況で、社会の分断と格差も拡大がつづき限界に近い。

経営者にとって「ソーシャル・ベンチャー・マネジメント」は必須スキルになると思っています。

僕はこれからも年に1回は講師を続けていけたらと思っています。教壇に立ち続けることで、僕一人ではつくれないインパクトを生み出せる。

この社会には多くの課題があります。でも一人一人が自分にできることから始めれば、必ず変化は起こせる。その小さな一歩を後押しして、大きなムーブメントにつなげていく。

一人一人の小さな変化がやがて大きなうねりとなるその連鎖を、これからも見届けたいと思っています。

このnoteを読んで授業に興味をもってくれたあなたと、いつか講義でお会いできたらうれしいです。

2021年、はじめての受講生たちと

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