見出し画像

マラソンの足のつり対策(後編)

前編では、8ケ月にわたる攣りの克服のケースレポートを紹介しました。ですが皆さんはきっと、そんなに時間がない!原因を調べてくれる施設もない!どうすればいい!?と言われると思います。

そこでランニングの足のつりに対して、とりあえずの対応方法を列挙しました。多くはしっかりとした研究に基づかないものですが、実際に試してみて効果があればいいんです。しっかり走り切れればいいんです。
脚の攣りで困ったことがある方は、是非試してみて下さい。

1.ランニング中の補給

1-1.水分塩分の補給

水分塩分不足が足の攣りの原因というのは、昔から長く言われていました。ですが最近は、原因の一つに過ぎないという考え方が主流となっています。

とはいえ暑い季節や、冬でも暖かい服装で走った時は、水分塩分不足で足に熱けいれんが起こることがあります。

熱けいれん:日本スポーツ協会「熱中症予防ガイドブック」より

(上の記述より)熱中症は16度以下でも数件おきています。特に熱けいれんは脚にきますが、脚以外のところにも生じます。それを含めた低ナトリウム血症を想起させる症状(嘔気や強い倦怠感のある人)がある人、秋や春のマラソンでよく攣る人は、水分塩分の摂取を心掛けるのがよいと思います。というのも暑熱のなかでの運動では、経口補水液は足の攣りを低下させるという文献があります。
余談ですが、体の水分を2%程度喪失するとパフォーマンスが低下すると言われています。そして冬の方が、夏よりもパフォーマンスの低下が大きいと言われています。足の攣りの目的だけでなく最後までしっかり走りきるために、冬でもしっかりと経口補水液を摂取するようにしましょう。

それではどのくらい摂取したらよいのでしょうか?

〔ランニング学会の見解〕 マラソンレース中の適切な水分補給についてより

(表左)各国のスポーツ団体の水分摂取勧告は曖昧なニュアンスになっています。これは脱水や水中毒を予防するため、ほど良い量を体感で判断するのが難しいからだと思います。そこでここでは、「脚の攣りにならないために」の摂取水分量を発汗量から考えてみます。
脱水の程度は足の攣りとは関連なかったとの文献もありますが、他の文献では体重の1.5-2.0%減るとある程度攣りやすさが出てしまうようです。体重減には尿や呼気中水蒸気なども含まれるので、実際には(汗)ー(飲水量)を体重の1%程度に抑えるのがよいと思います。

(表右)から、例えば体重70kgのランナーが、東京マラソンを4時間で走るとします。
(汗の量)391ml×4時間×1.01g/ml(汗の比重)=1580g
(摂取する水分量)1580g-700g(体重の1%)=880g
を摂取した方が良い訳です。

東京マラソンの給水は8ケ所あるので、すべての給水で110ml程度が目安になります。人間は1口が20mlと言われていますので、5口半です。

そして東京マラソンのエイドにあるのは、スポーツドリンクです。塩分は経口補水液より少な目となってしまいます。経口補水液と違って1回の給水あたり、0.165gの塩分が不足します。塩飴2個、人形焼き1.5個、梅干し0.2個などをエイドの度に補給しないといけません。

これは体重が70kgで、気温14℃・湿度 70%のレースを4時間で走る場合ですから、もっと体重がある方、もっと暑いレース、もっと速い方は、さらに水分・塩分が必要です。そして低ナトリウムの症状は、不足してすぐ症状がでるわけではなく、だいぶ枯渇してしまってから症状が出ます。そして補給してもすぐには改善しません。足が攣ってからではなく、序盤から水分とともにセッセと塩分を補給しましょう。

1-2.マグネシウム

高齢者や妊婦さんなど、様々な攣りに対してマグネシウムは用いられていますが、予防効果は乏しいとされています。また運動時の足の攣りについては、RCT自体が行われていません

とはいえ、効果があったと実感している方も多いと思います。試してみてもよかもしれません。
低マグネシウムを想起させる症状(全身の攣り、嘔気や強い倦怠感のある人:低ナトリウムと似た症状です)がある人や、マグネシウムは発汗とともに失われるミネラルですので、秋や春のマラソンでよく攣る人、塩分摂取で改善しない人は試してみるとよいかもしれません。
そしてお酒飲みは、マグネシウムが不足しがちです。

ランナー以外では、肝硬変の方や妊婦さんに投与された研究があります。いずれもマグネシウムを1日数百mg服用していますが、あまり効果がなかったようです。
ランナーのサプリでは、Mag-onがマグネシウム50-200mg程度。一般のサプリメントでは、例えばNature madeのマグネシウムサプリでは、マグネシウムクエン酸塩が一回分2錠で250mgとあります。スタート前にサプリメント、レース中にMag-onを試すとよいでしょう。お腹が緩くなりやすいので、お腹の弱い方は要注意です。そして腎臓が悪い方は、マグネシウムが蓄積しやすいのでご注意下さい。

1-3.ピクルスジュース、マスタード!?

以前のNoteで書いた通り、温度感覚性受容体を刺激すると、運動関連のけいれんの頻度を低下させる可能性があると言われています。
具体的には酢、シナモン、カプサイシン、ショウガなどの成分がそれにあたります。受容体への影響が強力であれば、けいれんを低下させる可能性があります。
最も信頼性のあるデータがあるのはピクルスジュースで、単盲検試験では、少量 (<100 mL) のピクルス ジュースを摂取すると、水を摂取するよりも 37% (49.1 秒) 速く、何も摂取しない場合よりも 45% (68.6 秒) 速く痙攣が緩和されました。酢と塩から造られるようなので、ない場合は酢で代用もいいかもしれません。

そして運動を解説している海外のサイトでは、酢とマスタードとピクルスジュースがいいよ!なんて書いてあったりします。特に長距離レースを走る人はよくマスタードを食べている。無料だし持ち運びにいいし防水性もあるから、脚の攣りに対して人気だなんて書いてあります。文献では、激しい運動のあとに135.24±22.8gのマスタードを摂取して、本当に安全なのかを試した研究があります。 残念ながら足の攣りに対する効果は示されていませんが、一応大丈夫だったと報告されています。
You tubeには筋肉の攣りの治療目的で、マスタードを口にするアイスホッケー選手の映像もあります。

2.内服薬

2-1.芍薬甘草湯

クスリというと、まずは芍薬甘草湯(コムレケア)という方が多いと思います。病院でも、足の攣りに対して第一選択で使う医師が多くいます。

芍薬甘草湯は神経筋シナプスのアセチルコリン(ACh)受容体に作用して、筋弛緩作用を発現する薬剤です。結果過剰な筋収縮を抑制して、こむら返りに対して効果を発揮します。
臨床試験では、肝硬変の方や腰部脊柱管狭窄症の方に投与した3本の文献があります()。いずれも日本からの報告です。
1998年の文献では、肝硬変の方に投与した結果、プラセボ(36.7%)に対して芍薬甘草湯(67.3%)は有意に改善が見られました。
また2000年の文献では、同じく肝硬変の方に投与した結果、五車腎気丸(60.5%)の方が芍薬甘草湯(40.5%)より有意に改善していました(ただし牛車腎気丸は体力の低下した高齢者に用いる漢方であり、ランナーには効果がないんじゃないかな?と思います)。
さらに2015年の文献では、腰部脊柱管狭窄症の方の足の攣りに対してのもので、筋緊張症候改善薬エペリゾン(28.6%)に対して芍薬甘草湯(87.5%)は有意に改善が見られました。
なお、運動時の足の攣りに対する研究はありません。

数字はばらつきがあるものの、自分も肝硬変患者や高齢者の足の攣りに対して使ってみると、90%程度は効果がある印象です。ですが、ランナーの足の攣りに対しての効果を聞いてみると、30%程度しか効果がないように感じます(自分も効果はありませんでした)。

2-2.疎経活血湯

芍薬甘草湯の他、病院では足の攣りに対して五車腎気丸、柴苓湯、八味地黄丸、柴胡加竜骨牡蛎湯、四物湯、疎経活血湯などを使います。それらを患者の基礎疾患や、体力の有無などで使い分けるのです。先ほど書いた通り、体力が低下した方に用いる五車腎気丸や八味地黄丸、四物湯はランナーにはおすすめできません。

その中で、芍薬甘草湯が効果のないランナーであれば、次に試す漢方は疎経活血湯だと思います。疎経活血湯はもともと関節痛や神経痛に用いる漢方薬ですが、芍薬甘草湯の効かない足の攣りに対して効果があったとする症例報告()もあります。

もともと神経痛や関節痛があって、それが攣る原因にもなっている方は、是非試してみて下さい。ちなみにびっくりするほどマズイです。口直しの補食も携帯必須です。

2-3.鎮痛剤

もともと痛みのあるランナーであれば、痛みが原因で神経の過敏な状態作り出し、それが足の攣りを産み出す可能性があります()。また痛みがあって無理なフォームで走っていると、逆の足に負担がかかり攣りやすくなるかもしれません。そこで鎮痛剤を服用することにより、痛み→攣り→痛みの悪循環を断ち切ることができるかもしれません。また正しいフォームで走ることができれば、脚への負担も軽減できるかもしれません。

服用するとすれば、副作用の危険性を考慮してアセトアミノフェンがいいでしょう()。

2-4.エペリゾン(ミオナール®)

他の薬剤は、運動時の足の攣りの研究はありませんが、脊椎疾患や肝硬変患者や透析患者の足の攣りについての研究はあります
サプリメント的なものとしてはタウリン、Lカルニチン、亜鉛、BCAA、ビタミンD、ビタミンE。ゴリゴリな医薬品としてはエペリゾン(ミオナール®)、プレガバリン(リリカ®)、バクロフェン(リオレサール®)、メトカルバモール(ロバキシン®)、オルフェナドリン(国内未発売)があります。

その中で強いていうと、エペリゾンです。
主には肩こりや腰痛など、筋肉のこわばりに対して使う筋緊張症候改善薬です。なのでランナーが使うとすると、腰が悪かったり脚の怪我のため、もともと筋肉がこわばった方が服用するとよいのかもしれません。
脊椎疾患の腰痛・攣りがある方の研究で、8週投与で18人中11人の攣りが消失、6人の攣りが減少したとの報告()があります。
単回の使用では効果がないかもしれません。また骨格筋弛緩作用があるので、走力は落ちてしまうかもしれません。使うとすれば血中濃度が服用から2時間後にpeakとなりますので、それを計算して服用するタイミングを考えるとよいかもしれません。

公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)ではアンチ・ドーピング使用可能薬とされていますが、医師の処方箋がないと手に入らない薬です。

2-5.他の薬剤

他の薬剤はあまりおすすめできないかもしれません。
プレガバリンは、肝硬変の患者に徐々に増量しながらの投与したところ、36%減少した()とあります。が単回75mgを服用するのは嘔気の副作用が心配です。
バクロフェンは、肝硬変の患者に3ケ月投与したところ72%で消失、20%で減少したとの報告()はあります。どちらかというと数か月飲まないと効果乏しいようで、おすすめはできません。
メトカルバモールも肝硬変の患者に1ケ月間投与したところ、攣りの頻度・時間・強さとも有意に減少した()とあります。ですが有料文献なので、詳細はつかめません。なのでおすすめができません。

3.塗る薬/スプレー

3-1.ツルノーニ マグネシウムマッサージスプレー

ツルノーニ マグネシウムマッサージスプレー(amazonのページ)
マグネシウムのスプレーですが、もちろん臨床研究などはありません。マグネシウムの服用が効果・エビデンスともにいまいちなのに、スプレーとか効果あるのか?というのが、自分の意見です。

なので自分の意見としては、こういうのがありますよ!という程度です。自分もツルノーニではないマグネシウムのローションを使ったことがありますが、もちろん効果はありませんでした。

効いた!よかった!という方がいたら、是非教えて下さい。

3-2.コムレケア ヨコヨコ

コムレケア ヨコヨコ(Amazonのページ)
芍薬甘草湯のコムレケアが、鎮痛剤フェルビナク+末梢循環改善薬トコフェロール(ビタミンE)を配合した塗り薬をだしました。痛みや冷えによるこわばりから来る足の攣りにいいかもしれませんが、ランニング時の足のつりの時の効果は・・・謎です。

同じく、効いた!よかった!という方がいたら、是非是非教えて下さい。

4.着用するものなど

4-1.スポーツタイツ(例:スポーツタイツ C3fit コンプレッションロングタイツ)

スポーツタイツ C3fit コンプレッションロングタイツ(Amazonのページ)
トコフェロールが足の攣り予防になるのであれば、物理的に血行を改善させる可能性がある(サイズがあっていなければ悪化させる可能性も!?)のがスポーツタイツです。脚の攣りを温めて予防・症状を改善させるというのは、文献的な裏付けはありませんが、以前から慣習的に行われていました。
でも血行障害で攣るランナーは、割合としては多くないと思っています。

なので、特に寒いレースで足が攣る人におすすめします。

4-2.Xテープで足首を固定

Xテープ(Amazonのページ)
自分が足の攣りのNoteをFacebookで宣伝したときに、共有して頂いたランナーのコメントにあった対策です。びっくりしました。そんな対策があるのかと。ふくらはぎを使わなければ攣らないということですね。

理に適っていますが、試したことはないので効果は不明です。走りにくくはなりますが、強引ながらお尻の筋肉を使う攣りにくい走りになるのではないでしょうか。

何をやっても良くならない!という方は試してみる価値はありそうです。
ウルトラマラソンのレジェンド岩本 能史さんのRunnetの記事を貼っておきます。

5.まとめ

要は春~秋の暑い時につりやすい人は、水分・塩分・マグネシウム。
冬の寒い時に攣りやすい人は、スポーツタイツ、コムレケアヨコヨコ。
腰痛やケガ、走りすぎで筋肉が強張っている人は、鎮痛剤のアセトアミノフェンやミオナール、芍薬甘草湯。
他、色々試すなら、ピクルスジュース(酢)、マスタード、芍薬甘草湯や疎経活血湯、エックステープ。

これでダメであれば前編で取り上げたように、ランニングフォームの修正やトレーニング再考するのがよいでしょう。

※(文)は引用文献、(出)は出典元の略です

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?