見出し画像

マスクの効果~スパコン「富岳」の飛沫のシミュレーションより~

厚生労働省では現在、屋外はマスク原則不要、屋内ではマスク着用推奨としています。マスクには以前から、感染予防効果、感染拡大抑制効果が期待されるからです。

ですが、「マスクは不要だ!」「もはや海外では誰もしていない!日本だけだ!」という声も聞かれます。本当にマスクは効果がないのでしょうか、マスクは不要なのでしょうか。

そこでマスクの効果をまとめた東京都新型コロナウイルス感染症モニタリング会議の資料の、「第八波にむけた感染拡大抑止のための 「富岳」飛沫シミュレーション」の情報をまとめていきます。

1.マスクの効果

マスクは感染防御効果も多少はあるとされていますが、それよりも大事なのは飛沫の拡散量を減らす効果です。

マスクの有無による飛沫の飛散(左)と、不織布マスクの⿐の⾦具の効果(右)

「富岳」のシミュレーションでは、不織布マスクをしっかりすると飛散する飛沫の量が1/3程度になりました。ただ尾翼の金具をしっかり鼻にフィットするように装着しないと、効果は2-3割減弱してしまいました。

さらに周囲の環境によっても飛沫の拡散する様子は異なります。

周囲の気流の有無による飛沫の飛散(左)と、湿度による飛沫の飛散の変化(右)

屋外や換気のよい屋内のような、多方面からの気流が得られるところでは飛沫が分散するようです。さらに冬季のような乾燥した時期や、暖房が効いて乾燥している室内では、飛沫が遠方まで飛散することが示されました。
結論:特に冬季では感染者も多くなることが予想されている。飛沫が拡散しやすい環境では、不織布マスクを顔との隙間を少なく装着することが大切。

2.屋内環境でのマスクの効果

2-1.小規模店舗(マスクなしでの感染リスク)

小規模な飲食店を想定した飛沫の飛散状況の研究です。そのモデルとなった店では、換気装置、厨房排気ダクト、エアコン、ドア隙間換気などを組み合わせた換気を行っています。

小規模店舗の換気・空調(左)と、飛沫の分布(右)

複数の換気を組み合わせると、かなり換気のムラがでることが分かります。そして飛沫による感染リスクを簡易的に評価するためには、⼆酸化炭素濃度計が有効であることが分かりました。
これは飲食店に限ったことではありません。自分のオフィスでも試してみるといいかもしれません。

そして感染リスクを席・対策別に分析してみました。

感染リスクマップによるリスクの可視化(左)と、各種リスク低減対策の効果(右)

当然ですが換気装置・ドア隙間換気の給気装置の付近では感染リスクが少なく、逆に排気装置の付近では感染リスクが高くなっています。分析では、最も感染リスクが高かった席(感染者1人がどこかの席にいた場合20%程度)と最も低かった席(同0.2-4%)とで、数十倍の差が出ています。
上からソヨソヨと風が来る席は比較手安全なのかもしれません。そして排気装置付近は極力避けましょう。

さらにキッチンでの換気扇やエアコンの稼働、さらにパーティションの設置で、店舗全体 の感染リスクは三分の⼀程度まで下げられることが分かりました。当然ながら換気をしっかりすると寒くなります。少し寒めの店の方が安全なのかもしれません。
結論:キッチンでの換気扇やエアコンの稼働、さらにパーティションの設置で、店舗全体 の感染リスクは三分の⼀程度まで下げることができる。気流の下流では感染リスクが上がる。

2-2.宴会場

宴会場のようなしっかり設計された換気システムの場合、ムラのない優れた換気能力があるようです。検証されたのは帝国ホテルの舞の間、68人収容の宴会場です。

評価対象とした帝国ホテル・舞の間(左)と、宴会場の換気能力(右)

飲食店とは異なり、換気の場所による優劣はなく、平均すると一時間で3〜4回空気が入れ替わりました。その良好な換気能力により、感染のリスクの範囲は感染者の周囲のみに絞られ、室内全体に感染させるリスクは低減しました。

宴会場でのマスク着用によるリスク低減の効果(⼀時間、感染者と同席した場合の感染確率)

感染リスクが高い3席で検証すると、マスクがない場合は飛沫がテーブル付近を漂い、やがて天井に吸い込まれていきました。マスクをしている場合は飛沫が感染者の顔周囲を漂い、やがて天井に吸い込まれていきました。
結果マスクをしなくても他テーブルの感染リスクは低かったようです。が、感染者の隣席はマスクをしないと感染リスクが高く(74.7-98.5%)、マスクをすることで感染リスクをかなり下げることができるようです(0.01-2.3%)。
結論:宴会場は良好な換気により、感染者の周囲のみに感染リスクが絞られる。マスクは感染リスクを低減する。

2-3.公共の交通機関

公共の交通機関では、現在換気がしっかりなされています。ここではその中で、バスの感染リスクを検証しています。

バスにおけるリスクの⾼い場所(一名の感染者が乗車し、1時間大声で会話した際の感染リスク)

例えば大手の現行モデルの観光バス車両では、窓を閉めた状態で空調装置を外気導入モードで使用すれば、車両内の空気は約5分で換気されるそうです。宴会場より優れた換気能力ですね。そんなバスの中で、感染者1名が大声で1時間会話した際の感染リスクを検証しています。

観光バス内の感染リスク評価と対策(感染者が4B(左上)、9B(右上)、9C(右下))

感染リスクが高いのは主に隣席で、マスクなしで大声で1時間会話すると、優秀なバスの換気下でも73.3-97.8%感染させてしまうようです。ですがマスクをすることで1.0-25.5%まで減少しました。
さらには空調の流れにしたがい、前方座席に感染者が座った場合は感染者の前方の座席に、後方座席に感染者が座った場合は感染者の後方の座席に感染者が広まる傾向が見られました。
結論:観光バス等の⻑時間におよぶ接触かつ会話が伴う場合は、マスクの着用が有効である。さらにマスクをしていないと、その下流で感染リスクが生じる。

3.最後に

「マスクをしても感染するときは感染してしまう」
それはそうなんですが、それよりも自分がもしコロナだったら・・・周囲の人を守るためにマスクは必要です。そして屋内でマスクを外している人がいても、距離をおけば比較的安全であることがわかります。

「海外ではみんなノーマスクだ!」「マスクしているのは日本だけ!!」そういう意見もあります。

ですがそれは欧米の高い抗体保持率と、感染状況のためです。例えば日本で感染免疫を持っている人は27%程度なのに比べ、イギリスでは8割の人が持っています。結果感染が拡大しにくい社会になっています。

今アメリカ・ニューヨーク州では感染状況により、公共交通機関でのマスクを推奨or不要(個人の判断)と決めることとしています。結果現在、マスクは不要(個人の判断)とされています。そのような感染対策でも感染拡大しにくいため、現在のニューヨーク州の人口10万人あたりの新規感染者は22人程度です(12月3日現在)。
一方感染免疫の低い東京では、屋内はマスク推奨、屋外でもマスクをしまくっているにも関わらず、人口10万人あたりの新規感染者は84人と4倍近い人数です。まだまだ日本では感染が拡大しやすいため、屋内マスクを推奨しないといけないわけです。

やがて日本でも、感染の拡大に伴う集団免疫の強化の次第では、ノーマスクとなる世の中が来るかもしれません。ですが少なくともこの冬は、屋内でのマスクはした方が良さそうです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?