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心臓震盪(1)心臓への外力は危険

心臓震盪(しんぞうしんとう)という言葉をご存じでしょうか?
脳震盪(のうしんとう)なら知ってる、という方が多いかも知れませんね。

まずは以下の3つの記事の見出しをご覧ください。

1:太宰府高校の野球部員、ピッチャーライナーが胸に当たり死亡…他校との練習試合中(2023/05/17、読売新聞)

本文中には

「野球部員は福岡県久留米市での練習試合で投手を務めていたところ、ピッチャーライナーが胸に当たり、救急搬送されたが、死亡が確認されたという。」

と記載されています。野球で高校生が命を落とす。なんともいたたまれない事故です。なんとか防ぐ手立ては無かったのでしょうか?

2:中2に暴行 心臓震盪死?(2011年10月22日名古屋)

「胸付近を3回くらい蹴り、心肺停止させた」

家庭内の暴行で胸部の打撲からの心臓震盪の発生→心停止が強く疑われる症例です。この少年の心を想像すると・・・・言葉を失います。

3:「腹パンしていた」殴られた男性(18)が “心臓震とう” で意識不明 友人の大学生2人を逮捕 広島

 男性はその場で意識を失い、病院に搬送されていました。男らはケンカではなく「腹パンをしていた」などと供述しているということで、警察がいきさつを調べています。

と記載されています。腹パンとは腹部へのパンチのことだと思われます。「ふざけて」「あそびで」とか、「格闘技で打たれ強さを養うために」とか、そういうシチュエーションで腹部へのパンチはあるとはいえ・・・。


 このような悲惨な事例が実際にある、という事実は飲み込んでおきたいところです。今まで自分に、家族に、周囲に、生徒に起きなかったのは「たまたま」であり、「起きうること」と認識しておくべきではないでしょうか?

 私は格闘技ドクターとして、2010年より心臓震盪に関するの講義や実習を行ってきました。

 専門誌、メディア、SNSでも情報発信を行ってきましたが、悔しいかな、この「心臓震盪」は、お世辞にも「世間一般に危険性が認知されているとは言い難い状況」なのです。

 試しに「心臓震盪って知ってる?」と周囲に訊いてみてください。「病態をきちんと説明できる人」は少ないのではないでしょうか?もしかしたら名前も知らない人のほうが多いかもしれません。

では心臓震盪とはどんな病態なのでしょうか?

心臓震盪(しんぞうしんとう)とは、

心臓に加えられた機械的刺激により誘発され、もともと心臓に異常のない者(主に子供や若者)の、胸にボールが当たったり、胸に肘や拳、膝などが当たったり、投げられて背中を打ったりして、致死的不整脈が発生してしまう病態のことです。

心臓震盪の定義(difinition of cardiac concussion)
A cardiac concussion is caused by a sudden, nonpenetrating, localized impact to the chest that is theorized to result in almost simultaneous sudden death from a disruption to the conductive system. (National Library of Medicineより)

致死的不整脈とは、心臓が規則正しく拍動せず、そのままなら死に至る不整脈のことです。 

 心臓震盪はアメリカで1990年代後半から注目されるようになりました。AEDの開発および普及で、それまでは急死の経過を辿っていた心臓震盪の救命例が報告されるようになり、アメリカ国内での認知が拡大したという背景があります。

アメリカでの診断基準は以下の通り。

1.心停止の直前に前胸部に非穿通性の衝撃をうけている
2.詳細な発生状況が判明している
3.胸骨、肋骨および心臓に構造的損傷がない
4.心血管系に奇形が存在しない

これらからも心臓震盪は「もともと正常な心臓に衝撃が到達して起きる」ことがわかります。

「心臓への外力は危険」


まずこの認識からスタートしたいところです。(続く)











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