視る‐01 生存戦略の後継者
第1章では、脳と身体をつなぐ「運動」に着目しながら、『パフォーマンス医学』を実践する上でベースとなる医学的背景を共有しました。これらを前提として、第2章ではいよいよ「視る」「呼吸する」「筋肉を動かす」「重力を感じる」など、より身体的、具体的な側面からパフォーマンスを紐解いて参ります。知れば、何かが変わります。
視る‐01 生存戦略の後継者
「視る」はパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。それもそのはず、私たちは視機能を高度に発達させてきた種族の末裔であり、ある意味、最終進化形だからです。
地球に最初の生命である、原始海洋微生物が誕生したのが39億5000万年前。10億年前にナマコやクラゲのような多細胞生物が出現しました。でもまだこの時代の生物は「眼」をもっていませんでした。
約5億4千万年前から5億年前頃、「カンブリア大爆発」と呼ばれる生物学史上最大のビッグバンが起きたと考えられています。
生物の種類が多様化し、現生生物の祖先が誕生した時代、遂に「眼をもった生物」が出現したのです。(新発見によって学問は書き換えられる、という前提はありますが)現在のところ、三葉虫が眼をもった最初の生物だとされています。こうなったら敬意を込めて三葉虫先輩と呼んだ方がいいくらいです。
カンブリア大爆発以降、眼をもった生き物たちは地球生命体の中のメジャーになります。もちろん眼をもたない種、眼が退化した種もいますが、ミツバチ、クワガタ、ブラックバス、トビウオ、タツノオトシゴ、シーラカンス、フナムシ、カタツムリ、アマガエル、キツネ、シマウマ、クジラ、ツバメ、ステゴサウルス、プテラノドン、サーベルタイガー、マンモス……「生物」という括りで新旧思いつく限りの種類を列挙してみれば、そのリストは眼をもつ生物が大半を占めることになるでしょう。
視機能を有するとは
1:まだ十分な距離がある段階で天敵を見つけられる。
2:餌や食料を視覚でとらえ、捕獲・採集できる。
3:生物的に優れた個体(栄養状態のよい相手)と共に種族を残すことができる。
など、過酷な自然淘汰に対して圧倒的なアドバンテージがある、ということになります。
現存する生物の中で最も大きな眼球をもつのは、深海に生きるダイオウホウズキイカで、その眼球のサイズはサッカーボールほどです。その大きな受信機で、天敵であるマッコウクジラが泳いだ際に発光する微生物の光を遠くから感知し、マッコウクジラとの接触を避けるのです。
逆に、眼をもっていたのに退化した種もいます。ブラインドケーブ・カラシンという魚は暗い洞窟の中に住んでいるのですが、光が無い環境では、視覚的に餌となる食料を捉えることができません。またそのような環境ではブラインドケーブ・カラシンを餌にして食べようとする天敵も存在しません。
事実上、水中洞窟内の食物連鎖の頂点に君臨しているため、眼が必要ないのです。自然は案外合理的で、もともとあった眼も生きる環境によって退化させ、視覚によらない生存の能力を高める方向で進化してきました。
私たち人間は、「眼」を発達させてサバイヴしてきた優秀な先輩たちの後継者です。ここでは生存戦略の証である「眼」そして「視る」をテーマにパフォーマンス向上のヒントを探してみたいと思います。(『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』より)
医学背景を共有しています。