3‐4 小脳は修正する
運動に代表される「言語化できない学習」の過程で大活躍するのが小脳です。小脳は潜在意識下で、以下を比較します。
1:運動イメージを基に、小脳に直接入力された運動計画の情報
2:実際に遂行された運動の身体からの情報
前頭前野で想起された運動イメージを実際に筋に出力してみると、転倒したり、ふらついたり、力み過ぎでブレたり、狙った軌道からズレたりします。いわゆる「思い通りの動きにならない」っていうやつですね。
小脳はこれら1と2、つまり意図的な運動の「意図」と「運動」を比較して、間違った動きをした筋肉に対して運動の指令を出した神経の働きを抑制します。
運動は「失敗ありき」で向上していく。
ここは非常に重要なポイントです。小脳は邪魔する指令を抑制したいわけですから「少ない回数ですぐにマスターしてしまうセンスの塊」よりも「私は不器用だから数を重ねるしかないと考えている人」のほうが、技術的な高みに至る可能性がありそうですね。
小脳の修正には「時間」が必要です。
ジョンズ・ホプキンズ大学(アメリカ)のシャドメア博士らは、「目標に向かって腕を伸ばすときに邪魔する力が加わっても、動きを修正して腕を伸ばす」という実験を行いました。
その際、「4秒の休み」を入れた場合と「14秒の休み」を入れた場合を比較し、14秒の群のほうが早く上達した、という実験結果を得ました。(これは14秒がベストという意味ではなく、4秒より14秒のほうが効果的だったという意味です)
「上手くなるには、とにかく回数を積み重ねなければ」と考えてしまうと、修正する時間がないまま、次の回の運動をやってしまうことになります。そうならないように「小脳に時間を与える」を忘れずにおきたいところです。
一流のアスリートやパフォーマーたちが、鏡の前でフォームの習得に十分な時間をかけるのも、小脳による修正という意味で実に理に適った行為ということになります。
前述のマイケル・ジャクソンは来日時、宿泊先のホテルの部屋の鏡の前に水溜りができるほど、フォームチェックを繰り返したそうです。
前頭前野における運動イメージからスタートした意図的な運動は、回数を重ねるごとによりシンプルに、滑らかに、巧みに、スムーズになっていきます。そうやって完成した運動のプログラムは「運動モデル」として小脳にコピーされると考えられています。
いったん運動モデルがコピーされると、「ここをこうやって、そこはこう動かして」といった手順を意識せずに、「気がついたら勝手に動いていた」「何も考えずに反応していた」「身体に完全にまかせて動けた」といった感じで、潜在意識下で運動を遂行できるようになります。
小脳に任せる。身体に任せる。その領域に至るための3つの要素、失敗、修正、時間。パフォーマンス向上を目指す皆さんと共有しておきたい背景です。 (『可能性にアクセスするパフォーマンス医学』より)
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