短足のバラード
ご覧の通り、僕は比較的手足が短い。写真を載せてるわけじゃないから、わからないかもしれないけれど。比率として、胴見ても長くはない。
打撃系格闘技において、リーチが短いというのはほとんど、
「日本刀」VS「タコ焼きひっくり返すヤツ」
である。お客様、青のりはおかけしてよろしいでしょうか?
こっちは相手にほとんど触れられないのに、一方的にリーチのある相手に好き勝手にやられる、ということもある。
「長いリーチを生かす戦い方ができる」これは後天的なスキルの獲得の結果だけど、「リーチそのもの」はやはり先天的というか、もって生まれた設計図たるDNAの功績だろう。
「あの、すいません、僕のDNAは不利ですので、ちょっとそのあたり加減してもらえますか?」
という丁寧なエクスキューズを考えついたとしても、
「あの、すい、ま、せん」
の間に少なくとも5発はもらう。BPM高めの相手ならその倍は来る。それが勝負の世界。口だけじゃなくて、持てる全てで会話する、それが格闘技だ。
というわけで、結構手足の短い僕は、選手生活においてはリーチの無さに苦しめられてきた。
拙書の「はじめに」にも出てくる、187センチのアフリカ系アメリカ人との試合でも、もう、距離感が全く違うのだ。
少しでも中に入ろうと(距離を詰めようと)前に出た瞬間、相手の前足の蹴りが顔面に連続して飛んでくる。むこうはずっと制空権を保ったまま。僕がバリアをかいくぐるのに四苦八苦している時間は、向こうは負けようがない。なんとかバリアをかいくぐって接近したときには、向こうのパンチが待っている。お待たせしました。
相当リーチの短い僕にとっては「離れた場所から試合がスタートする」という決まりごと、それ自体が既に不利っす。
しか~し!
僕の中でその認識が覆った試合があった。
大学の時、関西で開催されたトーナメントに出場した時のこと。相手は僕よりも身長も高く、手足の長い選手で、最初から蹴りとパンチの雨あられ。ボコボコに打たれまくった僕は、「下がる」なんてもんじゃない、なかば「逃げる」ように、場外に2回出された。
直接打撃制のカラテの場合、場外に出されるというのは非常に印象が悪く、判定にモロに響く。戦いというのは前線の奪い合いが基本だから、押し負けてるのは、約イコール負けとなる。
相手の攻撃力はおさまることなく、どんどん加速する一方。このままいけば、負け200%確定。
そんな流れの中、相手の右のパンチが伸び切る瞬間に、僕は苦し紛れに左足をサッと挙げた。蹴ったんじゃない、左足の先の方で、相手のお腹をチョコンと触った。触ってみた、に近い。
向こうは凄い攻撃力でパンチを打ってきてる、その前進力のおかげで、僕の左足が相手のボディにサッと刺さり、相手は「うぅーーーー」となって倒れた。
「うわ!倒れた!」
ビックリしたのは僕だ。結局、逆転で勝ってしまった。
「チョコン、サッ、うぅーーー」
全く想定もしていなかったし、1秒も練習してなかった、本番中に起きた出来事。
「相手の長い腕」に対して「いい感じで刺さる短い足」をもっていたのだ、僕は。
・技術は「適材適所」で成り立つ。
・切羽詰まった状況で身に着けた技術は脳と身体に刻まれる。
・打撃とは相手を叩きのめすものではなく、自分と相手に架ける「ブリッジ」である。
・長い足と短い足を比べると落ち込むしかないが、長い手と短い足を比べれば道が拓ける。
そうだ、老子の言った「足るを知る」も、気づかない限り「足りてない」だもんな。
そんなことを教えてくれた、僕の短い腕よりも長い足。
青のり多めでお願いします。
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