町工場の人材確保の難しさ(後編)
前編を読んでいただいた皆様には感謝の気持ちしかありません。そして、twitterでの 安藤剛 さん のいわゆる「安藤砲 (the cannonball of Ando)」によって急激に増えたフォロアーの皆さんのお陰で、投稿のたびに減り続けた「スキ!」がようやく増加傾向に戻りました。安藤さん、フォロアーのみなさんありがとうございます。
本当に嬉しいです。そしてTwitterでは割と低レベルな事を呟いているのですが、noteの反響の方が如何せん良いので、もしかしたらmuracoを運営している経営者としての話を聞きたいと思っている方がいるのかなと思ったりもしているので、なるべくその方向で調整してみます。
さて、小規模製造業(いわゆる町工場)における人材獲得の難しさについて前編では触れました。当社と同じような規模の工場は恐らくほとんどが同様の悩みを持っていて、「若い子が入ってこない」、「入ってきても定着しない」のような状態を常に持っているのではないかなと感じています。
前編読んでない!という方は是非、いや絶対、前編を読んでみてください。そして絶対「スキ!」しておいてくださいね。
企業の事業変革の歪み
今まで、ハローワーク、縁故採用、求人広告(大手、中堅媒体)での採用活動を経験してきました。ハローワーク経由では誰も採用できませんでしたが、縁故、求人広告経由では割と人材確保はできたと思っています。
ちなみに僕が入社した後に、新たに当社に籍をおいた従業員の数は今日まで19名います。その内7名もの人が既に退職しています。すごい退職率(36.8%)です。退職理由は前編に記載した内容ですが、辞めた7名の内6名はmuracoの事業が成長軌道に乗る前に辞めていったという状況です。muracoの事業が本格的に成長し始めてからはそこそこ良い定着率になっていると感じます。
muraco事業部の準備から立上げ期(2015年〜2018年頃)においては、会社が新しい事業に取り組み初めて、過去に誰も経験したことのない大変革の中にあり、組織の中にも、個人の中にも、もちろんmuraco事業立上げの当事者である僕自身にも、それぞれ色々な想いが渦巻き、それが歪みとなって、不安や、不満として表に現れてきていました。そしてその歪みに耐えられなくなり辞めていったメンバーが多かったと感じます。しかしながら、その過程を経て、今なお残ってくれているメンバーは、会社や業務に対して非常に意識が高く、事業貢献度もとても高いものがあります。これからも主軸として活躍してくれるでしょう。
ちなみに売上規模としてはmuraco事業部が製造事業部を昨年くらいから上回って来ていて、今後は現在のメンバーを軸に継続的な成長を目指しています。
働く理由
当社には工場長以外に2名、旧日高工場時代(埼玉県日高市)から勤務してくれている従業員がいます。工場移転、muraco事業部立ち上げ、コロナ禍での受注激減などを経験しても尚、頑張ってくれている2人には、辞めていった従業員とは違う理由があるのではと感じ、直接話を聞いて来ました。
定着している理由1:製造事業部製造課 山下(ヤマ)
僕「もう入社して6年も経つのか」
ヤマ「早いっすね」
僕「なんでヤマは辞めないの?」
ヤマ「辞めて欲しいんすか!?」
僕「違う違う。うちの会社では結構古株になってきたけど、いっぱい辞めていった社員がいる中で残れてる理由ってある?」
ヤマ「そうっすね、前の会社はとにかく作業が単調で毎日同じことしかできなかったんですけど、今は1日に何回も段取り替えもあるし、そこは楽しいですね。技術的にも積み上げていかないと通用しないので、充実しています。あと、前の会社は全然給料上がらなかったのも大きいです」
僕「人間関係とかはどう?」
ヤマ「工場長とかミキさん(総務の女性)とか話しやすいから居心地いいですよね」
と、答えが返って来ました。現在彼は、当社の看板設備のひとつである、特注のmuracoブラックに塗装された森精機のNLX1500を主に担当しています。
定着している理由2:製造事業部総務課 金嶋(みきさん)
僕「もう入社して7年も経つのか」
ミキさん「まだそれだけでしたっけ??」
僕「案外ね・・・。で、なんでミキさんは辞めないの?」
ミキさん「辞めて欲しいの!?」
僕「違う違う。辞めそうな雰囲気全然出てないから、会社に残れてる理由が何かあるのかなって思って」
ミキさん「そんなの前から言ってるじゃないですか」
僕「そうだっけ?」
ミキさん「新しい事業は始まるし、毎日いろんな人来るし、雑誌とか取材いっぱいされるし、この会社がどこまで行くのか、中にいて当事者として見られるんですから辞めたいなんて思いません」
と、このような返答が返って来ました。印象を脚色したくないので、そのまま(に近い形で)書き起こしました。
簡単なインタビューでしたが、2人とも、給与、人間関係ももちろんですが、それ以上に会社で働く意味や魅力を持ってくれているなと感じました。
前編でも述べたように今までの採用では、新しい社屋、手に職がつけられる、未経験でも高い基本給、経験者はもっと高い基本給を謳い、求人広告を出していました。結果、その流れで採用した従業員の働く理由は「給与」になってしまっていたのかもしれないなと感じます。シンワに入れば高い給料がもらえるぞと。
当社のような小規模の事業者は、従業員の昇給を検討する際、業績が伸びていることが前提条件です。
大企業は、定年退職で複数の人員が退職していき、人件費に毎年増減があります。その増減幅で昇給をする事ができるので、必ずしも業績が上向いてなくとも、昇給は可能です。しかしながら、小規模事業者は毎年のように定年退職する人員がいるわけではないので、そのメンバーで業績を伸ばし続けなければ、従業員の昇給はありません。
特に会社の業績が伸び悩んだ時、能動的に業務を遂行し、自分の為、組織の為に、どれだけ自らを律し、精一杯仕事と向き合えるかが重要です。その為にも先に書いた「働く理由」は給与ではないところに持っていた方が良いです。
大企業でも、小規模企業でも景気の浮き沈みは避けられません。その中でいかにして自分の存在価値を高め、会社の成長と共に自分も成長させられるかが、本当の仕事の面白さだと思います。
ですので、仕事のモチベーションが給料だけ、もしくは給料が1番重要だという従業員は小規模事業者では厳しいのかなと感じます。(多分大企業でも)
定着する人材をどう獲得するか
定着する人材を獲得する事ができる方法論はこれですよ。なんて大それたことはもちろん言えません。
しかも企業が求人を出すのと同じタイミングで、欲しい人材も転職を考えているとは限りません。転職で入社して定着し、継続的に活躍できる人材を迎え入れられる事は実は奇跡的なことではないかと感じる事があります。
でもその奇跡的な出会いの確率を上げるためにできることは幾つかあると思います。人事部を持つ大企業ではできても、小規模企業ではできないと諦めていてはダメです。お金を掛けずとも、できる事はたくさんあると思います。おそらくそんなに難しいことではないと思います。
端的に言うと「エントリーする方が入社前に感じとる、会社の価値観・強み・働くポジション・仕事の中身などのイメージが、入社後もあまり変わらない事」が非常に重要だと感じます。
無料で出来る事としては、求人広告に書かれる情報だけではなく、その他にも会社に興味を持ってもらえるようなコンテンツを日頃から発信し続けることではないかと考えています。媒体はSNSでもオウンドメディアでもなんでもいいと思います。無ければ作ったほうがいいです。無料です。
・従業員が働いている風景(綺麗事だけではない)
・自社製品やサービスの話(綺麗事だけではない)
・働いている人の考え方、経営者・部門長・従業員(綺麗事だけではない)
・実態に則したキャリアアップの事(綺麗事だけではない)
・従業員それぞれの1日を密着取材(綺麗事だけではない)
・社会人インターン制度
・工場・職場見学会
など簡単にできるWebまわりの事だけではなく、もっといろいろありそうです。とここまで書いてきたのですが、とどのつまり会社そのもののブランディングです。
人材獲得と商品のブランディングは一緒
今の時代は良いものを作っただけでは売れません。良いものを作るのは大前提で、その商品やサービスの内側に存在するヒト・モノ・コト(ちょっと古いな)に共感していただくことが、継続的にブランドに関わってくださるファンを獲得するポイントだと信じています。会社も一緒で楽しいよ、稼げるよだけでは、会社に興味を持ってもらえなくなって来ているのかも知れません。
ちょっと気がついたので「人材」と「商品」を同じ文書で書いてみました。
人材
人材獲得も同じで、この会社で働いてみたいと思っていただくまでの過程の中に、会社の良い所だけではなく、ある程度のマイナス面も含めた、色々な要素をできるだけ多く理解していただく事が、会社の特徴を理解しつつ長く勤務してもらう上で、とても重要なんだと感じます。
商品
商品も同じで、この商品を使ってみたいと思っていただくまでの過程の中に、その商品の魅力だけでなく、ある程度のマイナス面も含めた、色々な要素をできるだけ多く理解していただく事が、商品の特性を理解しつつ長くお使いいただく上で、とても重要だなと思います。
と、最後締まったのかどうか良くわかりませんが、とにかく採用に関して、応募が来ない、入社しても定着しないをただ嘆いているだけではなく、何かアクションをすれば、「答えの可能性」のようなものが見えてくるのではと感じます。
僕の会社なりの答えは書いたつもりです。乱文乱筆ご容赦ください。