muracoの“outdoor guild”のビジョン
「outdoor guild」 の考え方が生まれるまで
協力企業を探して
muracoは”outdor guild”をブランドコピーとして、2016年から5年間ブランド運営をしてきました。一方、僕の会社は1974年の創業から一貫して金属加工業として、旋盤やマシニングセンタを主力設備とした金属切削加工の工場を営んでいます。当社は、muracoブランドの運営を司る「ムラコ事業部」と金属加工業として受託案件を取り扱う「製造事業部」の2事業部からなります。
ブランド立上げ当初は、製造事業部の客先に行けば、営業担当がニヤニヤしながら「テントはどう?」と、半ば遊びなんだろうと感じているようなニュアンスで聞かれたり、「コツコツ精度を求めてやるのが金属加工だよ」とか寸法交差のそれほど厳しくないmuraco製品を、レベルの低い物として評価したような言葉もかけられたものですが、事業の立ち上げに邁進していた僕にとっては、非常に危険な考えだなと思っていました。
しかし、当社がmuracoの事業を進めていくにあたり、協力企業を募る際、「遊びじゃない感」を出すのが難しく、どうしてもそこそこ若い経営者が好きなことしてる感じ、が出るのは仕方のない事なのかなとも思っていました。
そんな中でも、自社工場で対応可能な金属切削加工以外の金属加工や、繊維、樹脂関連の協力工場を探し、なんとか部材調達を実現しなければならず、仕事を出す当社側が逆にmuracoの事業の営業をして、なんとか作って欲しいと頭を下げて回っていました。それでも、なかなか協力先が見つからず当初は苦労しました。
大和精工 小宮社長との出会い
当時パイプ材の加工が得意な企業を探している時に、当社に飛び込みで営業を掛けてきたアルミ系に強い材料屋から、アルミ合金のパイプ加工が得意な会社を聞きだして、紹介してもらったのが、埼玉県朝霞市にある、大和精工の小宮社長でした。
大和精工の小宮社長は、当社と同様に小さい事業規模ながら、大手カメラ三脚メーカーの下請けとして活躍していて、部品加工だけでなく、組立て工程から、パッケージ調達までを一貫して行える非常に稀有な存在です。小宮社長は、先に紹介した“GUILD”のインタビューでも答えていただいていますが、僕が初めて案件の相談をさせていただいた際に、当社からの2回目のオーダーは無いだろうと感じていたそうです。
ちなみに大和精工にお願いしたプロダクトは、タープポールシリーズのデビュー作の「NORTHPOLE 200」でした。シンプルな商品ながら部品点数は多く、組立工程も比較的煩雑な商品で、大袈裟ではなく、大和精工の存在無くしては生まれ得なかった商品です。
その後も大和精工との連携の中で生み出された商品は非常に多く、完成品や部品供給意外にも、他のサプライヤーの開拓や、当社が苦手とする加工の相談までも広い知見でサポートしていただける関係性を築いています。
社内で使ってはいけない言葉
僕の会社では、自分たちから発信する言葉に対してルールを決めています。使うべき言葉や表現と、使うべきではない言葉や表現を定めています。その一つに「協力工場・会社」というワードがあります。ちなみに「協力工場・会社」に対応する使うべきではない言葉は「下請け」「外注」「業者」です。
大和精工をはじめとした取引先について語る時、「下請け」や「外注」などと呼ぶことに対して、僕は非常に違和感を感じます。信頼関係にある企業や人に対して上下関係を感じるような表現を社内で使うことを禁じています。
取引関係を超えた信頼関係
僕の会社は約半世紀もの間、下請けとして生きてきました。能動的に営業する事もなく、淡々といただける仕事をこなし、値下げ要求も、厳しい納期も全てを受け入れ、1番の取引先には、お中元は7月1日に、お歳暮は12月1日に真っ先に行き、お正月明けの仕事始めには、朝一番で新年の挨拶に行きました。とある年に、どうしても予定がつかずに挨拶が1日でも遅れると、その会社の社長から「あれだけ仕事出してるのに、遅いのね」と小言を言われることもありました。それでもその会社と仕事をしていくことが、自分達の生活を守ることだと信じていたので、嫌な気になる事もなく、自分達の責任だと考えていました。
以前のnoteの記事で書きましたが、その会社の担当者の方とは「信頼関係」で結ばれていると感じていましたが、その担当者からの一言で、僕の経営に関する考え方は大きな転換をする事となりました。(今では非常にありがたい言葉だと思っています。)
その言葉の詳細は↓こちら。
僕はこの経験から、仕事をお願いする相手に多くの要求をするのであれば、必ず相応の収益で返す。取引が大きくなればなるほど、その会社に与える影響は大きくなり、その影響は=責任なんだと考えるようになりました。そして、その影響を相互に作用させながら連綿と醸成されるのが信頼関係です。
当社と取引関係にある全ての企業の関係性に上下関係は存在せず、お互いの事業運営に必要な「協力企業」であると考えています。建物がなければ、機械がなければ、材料がなければ、工具がなければ、加工できなければ、仕入れていただけなければ、買っていただかなければ、我々の仕事は成り立ちません。企業の基本的な受給サイクルの中に不要なものは無いので、企業同士が協力し合う関係に基づいて、収益が発生し、従業員の生活が成り立っています。
この基本的な事を理解できない相手とは気持ちの良い取引はできませんし、特に会社の大小の論理で、要求を押し付けてくるような企業担当とは、当社は取引をしていません。この部分に関しては僕の会社の従業員にはしっかりと伝えているつもりです。
製造業の共存共栄のプラットフォームに
大和精工の小宮社長は、上で紹介したインタビューでも語っていただいている通り、NORTHPOLEのリピート注文には期待していなかったと言っています。これは東武東上線、朝霞駅前のスターバックスでも話してくれました。
muracoブランドの立ち上げや成長に対して、収益になるかもわからない状態にも関わらず、力を貸してくれた協力工場や企業に仕事以上の何かを還元したいという思いがブランド立ち上げ当初からあります。
muracoの事業を成長させていく中で、発信力を高めながらそれら企業の技術や強みを共有できるプラットフォームのような存在となることを目指しています。それは熱っぽい言い方をするならば、上下関係ではなく、共存共栄の関係です。要は、実際に手を動かした人が動かした分だけ、正当な収益を得られ、また発注した人がその手を動かした人の分だけ費用を発生させられる状態を作りたいと思うのです。
本来であれば、この取引関係を開拓した我々がイニシアチブを取り、受託案件をコントロールして、商社的な振る舞いの中で、様々な協力工場・企業に仕事を振りつつ、自社でもマージンをとるというのが一般的でしょう。
しかし、それでは、仕入れ原価は下がりませんので、売り物にならず、仕入れ前に断念してしまいます。このようなケースはmuracoのプロダクト開発の中でも経験していて、結果的に調達先を海外に切り替えたケースは非常に多く存在します。
我々自身もGUILDの一員
この状況をmuracoのプラットフォーム化により改善し、我々自身も金属加工業としてこのGUILDのプラットフォームに乗りながらさまざまな企業との協業を進めていく事で、自社の強みを活かした事業成長を実現できるのではと考えており、今後この概念を更に深掘りして展開し、自社工場を持つアウトドアブランドとしての強みを最大限に活かせるような、事業構造の構築、サービスの提供を進めていきたいと考えています。
この部分は今後社内外と色々とディスカッションしながらどのような形でOpenにできるか検討を進めますが、このnoteを読んでいただいた皆さんの中で、「こんな商品を作りたい」、「こんな加工ができるところを探している」などがあれば是非お問合せください。既にGUILDのネットワーク自体は存在しているのですから。