1万人以上の受験生が殺到する私立中学校の集客戦略を診断士視点で見てみた
ただいま、中学受験シーズン真っ盛りです。
我が家にも受験生がいて、最後の追い込みにてんてこ舞いです。
東京・神奈川は2月1日が入学試験の開幕日なのですが、千葉や埼玉は1月から開始されています。
千葉や埼玉の学校は、近隣の児童が第一志望として受験するのはもちろんですが、東京・神奈川の児童が本番前の「お試し受験」として遠征し受験しています。
お試し層を含めた出来るだけ多くの児童に受験してもらうことに注力しつつ、優秀な生徒を集めて進学実績も伸ばしている、そんな学校が埼玉にあります。
栄東(さかえひがし)中学校です。
この学校の高等部の生徒が、テレビのクイズ番組で大活躍しているので、ご存知の方も多いと思います。
栄東中学校では、4日間の日程で、なんと延べ1万人以上が受験します。
この栄東中学校、診断士視点で、ブランド戦略やサービスマーケティングがうまいなと思いましたので、今回はその話を書いてみたいと思います。
ブランド戦略
栄東中学校は「東大クラス」を売りにしています。
中学校にもかかわらず、出口である大学受験を意識したそのものズバリのネーミングです。
さらに、入学試験の成績優秀者には特待生制度があり、1年もしくは3年間の授業料等が無料になります。
優秀な生徒を囲い込み、結果を出してさらに優秀な生徒を集める正のスパイラルが構築できています。
ただこれだと腕に自信のある少数の受験生しか集まらず、多くの人に受験してもらいたい栄東としては得策ではありません。
そこで受験生を多く集めるために通常のクラスである「難関大クラス」も設置しています。
ブランドイメージを高めつつ、多くの受験生がチャレンジできる全方位戦略をとっています。
受験日程の巧妙さ
栄東中は、試験日として4つの日程を準備しています。
順に、以下の通りです。
受験料は、2回まで25,000円、3回以上は30,000円です。
A日程を除いて、試験結果を見て後からでも追加出願可能です。
追加出願の場合は2回目ならそのまま無料で、3回以降はプラス5,000円を追加で支払えばOKです。
この日程の構成は巧妙に作られていることが分かります。
つまり、学力の差に応じて、第一志望でも、お試し受験でもあらゆる層にマッチする受験機会を提供しています。
お試し受験の場合は①のみで十分でしょう。追加料金は不要なので②③④のいずれかにも出願するのもありだと思います。
東大クラス狙いの場合、①②④の順で、合格するまで受験する戦略が考えられます。
①で成績及ばず難関大クラスのみ合格だった場合や、特待合格が取れなかった場合でも、②④の日程で再度、東大クラスや特待合格を狙うことも可能です。
また、初めから難関大クラス狙いの場合は、日程①③の順で受験する日程になるでしょう。
①でダメだった場合でも③で得点+30の権利を得て、有利に進めることができます。
すべての顧客層にマッチする間口の広い①を最初にもってきて、その後に顧客ニーズに合わせて分岐させることで、どの層の児童でも複数回受験したくなる仕組みになっています。
サービスマーケティング
中学受験は人生で1回限りですので顧客との関係性は構築できません。
その1回の受験機会を気持ちよく受験してもらい、特定顧客ではなく顧客層全体からの評価を高める必要があります。
そのためには入学試験を「サービス」としてとらえ、サービスマーケティングをしっかりやっておく必要があるのですが、栄東中はきちんと対応できています。
サービスには独自の特性があり、これを考慮し対応していくことで顧客支持を目指すのがサービスマーケティングの考え方です。
具体的にはサービスには4つの特性があるとされています。
無形性
変動性
不可分性
非貯蓄性
■ サービスの無形性への対応
基本的には入学試験は合否以外の形が残らないサービスです。
栄東では、科目別の得点を開示することで、試験を可視化しています。
さらに、受験者中の順位や、東大クラスや特待合格、通常合格の合格点も明示されます。○○点取れば特待生、のように明確です。
これがお試し受験層にとって、模試の代わりになります。1月は模試は行われないので、学力を測定する貴重な機会になっています。母集団も大きく様々な学力層を含みますの結果は信用に足ります。
栄東の結果次第で、東京・神奈川における2月の受験戦略を見直す事もあり得ます。
■ サービスの変動性への対応
2回まで25,000円で出願できたり、お試し受験も多かったりすることから、出願してみたものの受験しなかったり、合格した以降の日程を辞退する場合も多く考えられます。
したがって実際の受験者数は当日になるまで読めません。
需要が読めない状況で、全員に対して教室や机を準備すると、児童がとびとびに着席することになる等、試験運営が非効率になります。
これに対応するため、栄東中では、児童は来校した順に詰めて座り、座席と受験番号の対応は、机に張り付けたバーコードで行っているようです(子供の話によると)。
こうすることで効率的な運営を行っています。
■ サービスの不可分性への対応
試験サービスは受験生(+保護者)と実施者が同じ場所に集まって一発勝負で提供されます。サービス提供者はその場の対応で顧客を満足させる必要があります。
中学受験の場合、試験会場へは保護者同伴で向かいますが、試験終了後に自分の子供を無事にピックアップできるかが不安材料です。
特に受験生が何千人もいる場合は自分の子供を探すのが大変です。
栄東では親と児童が無事に出会えるように、受験番号順に数百人くらいずつ子供を放流する制御を行っています。
また親の方も、対応する受験番号順に待機場所に誘導されます。
誘導はDJポリスさながらに、栄東の先生が拡声器で行います。
親が並んでいるそばを子供達が歩いてくるので、自分の子供を発見出来たらそのまま帰宅します。ちょうど、空港の手荷物ターンテーブルのような状況です。
親と出会えなかった子供は最終地点のテントに集合することになっており、確実に出会える仕組みが整えられています。
■ サービス非貯蔵性への対応
受験者数は事前に読めませんが、合格発表は翌日の朝10時と決まっており、先送りできません。
つまり解答用紙を貯めておいて順次採点して合格者発表、というわけにはいかず、一気に片を付ける必要があります。
難関大クラスは1回で5千人以上が受験しますが、1日足らずで採点して合格ラインの設定を行う必要があります。
大量の答案の採点も大変ですが、合格ラインの設定は特に重要です。それは、一歩間違えると大量の辞退者か、あるいは逆に入学者を抱えることになるためです。
さいごに
子供の受験と診断士の知識はあまり関係ないと思っていたのですが、マーケティングの面から見ると、色々と気づきがありました。
私立学校が、少子化の中、いかに受験者数を増やすか、そして生き残っていくかは、まさに一般企業における競争戦略と同じでした。
入学した生徒をどう育てるかも重要ですが、入試という入口時点で、マーケティング行い集客することは不可欠なのだと感じました。