ライティング指導は文字指導から
英語科教育法IIIの授業ログ。
今日はライティング指導の講義回。
授業のハンドアウトを配る前に、まずは架空の高校生1年生のライティングを渡し、それを学生に添削してもらう。
生徒にどのようにフィードバックをするかは置いておいて、この生徒のライティングから見える課題を見つけられるだけ見つけてもらう。
複数の学生が接続詞(あるいは接続の役割をする副詞など)の不在や、表現の乏しさを指摘する一方、大胆にHowever, some Japanese people can speak English, and some foreign people can speak Japanese.の一文を全部削除することを提案する学生がいた。
最後の結論に繋がらない不要な文を削除したのだ。まさに今日の授業の主眼となる(予定だった)パラグラフ構成に目を向けた添削だ。
アルファベットの書き方指導
一方で、誰からも指摘が入らなかったのがこの生徒の文字についてだ。高校生にもなってアルファベットの書き方を指導するのか、という疑問も無いではないが、少なくとも中学生を担当する可能性もある学生たちにとって考えておきべき問題ではある。
まぁ今日は学生からしたら「かわむら先生、字下手くそだなぁ。読みづらいけど、まぁそこは考えずに添削してやるかぁー」というテンションだったのかもしれない。
この生徒の文字にはいくつか修正したいポイントがある。
一つは t や f の書き方だ。(何箇所かは普段の私のクセが出てしまっていて綺麗ではないが問題なく書けてしまっている。ミスった。)
1行目のcan't、2行目のdon't、3行目のnotなどのt、そして3行目のforや6行目のforeignのfなどが、縦に尖ったeのように見える。
これは横棒を先に書いて、そのままペンを紙から離さずに縦棒を書いた場合に現れる字形だ。
これを防ぐには t や f を縦棒を先に書くよう指導する。
それ以外にも d に注目したい。(これまたいつもの私のクセが何度も出てしまっていてちゃんと書けているところもある…。これもミス。申し訳ない)
2行目needや6行目andなどの d がclに見える。(本当ならdをこう書くならaもcと短い縦棒に分かれるはず…。ミス。)
この d は左側のcを先に書いてから縦棒を書いている。そうではなくて、まず左側の楕円を書いたらそのままペンを離さずに滑らかに上に向かい、下ろしてくる。
そのような、そこそこ英語のできる我々にとっては正直気にもならなかったようなアルファベットの書き方からライティング指導はスタートする。
実際に英語を使う場面で手書きでのライティングをする機会がどれぐらいあるかというと決して多くはないだろう。私も中高一貫校で指導をしていた頃はライティングはiPadやMac bookでタイピングをさせることの方が圧倒的に多かった。
しかし、中学生が授業のノートを取る際には基本的にハンドライティングで書くわけで、そのことを思えば中1の最初で文字指導を確実にやっておくことは欠かせない。当時の私も見落としていたポイントだ。
この辺りの知見は基本的にこちらの本から。小学校・中学校で英語を教える先生方には是非手に取ってもらいたい。
生徒に見せる英語の文字
先生の書く文字
英語には決められた書き順は無いとは言え、英語を習いたての学習者に対しては基本的に先生の書く英語がお手本になる。文字の認識や書写が苦手な生徒もいるだろう。逆に先生の書く字を上手に真似ることができる生徒にとっても、先生の文字が乱れていることは大きな問題になる。(教育実習で指導教官の先生に厳しく指導された私の酷い板書を思い出す。)
指導方法に先立って学生に t や f をどう書くか尋ねてみたところ、全ての学生が t は横棒が先、f についても複数の学生が横棒を先に書くようだ。t の横棒は一単語書き終わってから一気に書く(もはや描くに近い)タイプの私としては結構驚きの結果だったのだが、理屈で説明される納得感と自分が何年も書いてきた手の動きの収まりの良さと戦うことが彼/女たちには求められるかもしれない。
一番避けたいのは、中学1年生の最初だけやたらと丁寧に a や d を左側の楕円(またはc)と縦棒を分けて書くように教えておきながら、GW明けぐらいになると先生の板書が手慣れた一筆書きに変わっていくような一貫性のない指導だ。先生が書き慣れている書き方があるのなら、そしてそれが上掲の書籍等の記述と照らし合わせて大きな問題があるようなものでなければ、その書き方を教えるべきだろう。どこかスポーツの「基礎練習」のように、字が流れたり動きを繋げたりすることが良くないと思われがちなイメージのある文字指導だが、子どもたちにとって最も書きやすい形・順番を考えることが重要だ。
印刷物のフォント
印刷物のフォントについても注意が必要だ。
いや、むしろ先生の書く文字は結果的には生徒の書く文字と大きく形が変わる可能性はそこまで高くないが、印刷物はフォントによっては全く別の文字になってしまう。
例えばこのnoteで使っているフォントだと、a や g などは生徒が指導されるものとは全く違う。我々は当たり前のようにこれを「エー」「ジー」と認識できるが、アルファベットの書き方を習っている段階の子どもたちにとってこれは不要なノイズだ。
私はデザイン上の意図がない限りは英文にはSassoon Primaryを使っている。上掲の手島(2019)『これからの英語の文字指導』にもSassoonシリーズのフォントが紹介されている。これらのフォントは文字指導研究者が中心となって開発したもので、実際のハンドライティングの英語に近い文字が再現されている。
全ての英文がSassoonシリーズで書かれる世界ならそれで良いのだが、生徒たちが文字と音を確実に一致させられてから、セリフ(飾り)付きの a や g などの存在を教えてあげれば事足りるだろう。
生徒の手元に気を配れる先生になろう
今日は今まであまり使われてこなかった授業コメントシートの「質問」欄に複数の質問が出てきた。
一つは、アルファベット順でAからZまで教えるよりも形や筆順で何かしらの分類をして提示しようという話に対して、アルファベット順への意識が薄れることで辞書の活用に支障が出ないかというもの。
もう一つは、t や f の筆順から派生して、i の筆順を疑うもの。
この辺りはまた今度学生と話していこうと思うが、いずれにせよこれまでの私の講義はどうしても「なるほど。そういうことを考えるんだ」という納得感につながるものが多かったのか、授業後すぐのタイミングではそこまで質問というものは出て来なかった。
今回複数の質問が出たのはシンプルに私の文字指導に対する理解が浅く授業で体系的に扱い切れなかったことにも起因しているとは思うが、これまで以上に学生らにとってthought-provokingな内容だったとポジティブに受け止めたい。
実際、今日は一応ライティング指導がテーマだったのでもちろん文字指導だけでなく、英借文の指導や結束性・一貫性を生み出す指導、そして英語の基本的なパラグラフ構成にも触れたが、授業後の振り返りの大半は文字指導についてのものだった。
それだけ学生にとっても新鮮でこれまで考えたこともないような問題だったのだろう。「学校の先生って考えること多いなぁ」とややoverwhelmedな感じもあるかもしれないが、「そんな細かいところでも授業の質の差につながるんだ!」とワクワクしてもらえていたら、あるいはこれからそう感じていってもらえたら幸いだ。
普段の模擬授業でも私は基本的に観察者として生徒役の学生の手元をよく写真に撮り、時折検討会でシェアすることがある。授業中に生徒の側ではどのようなことが起きているのか。生徒の手元はそれを教えてくれる大切な情報源だ。アルファベットの書き方一つとっても、生徒の手元にどれだけ注目できるかで授業は変わってくるだろう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?