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33億円のティラノサウルス Ep. 2

 こんにちは.日本酒はどちらかというと冬でも冷やがいい、今井です.前回はBlack Hills Institute(以下、BHI)を象徴するスタンが33億円で売られたについて書いた.今回はなんでスタンが33億円などと言う値段で競売にかけられることになった顛末をお話しする.

 とはいえ、33億円という値段のことは今回は脇に置いておくことに.化石の売買に関する是非はともかくとしても、化石という貴重な研究対象に対する正当な値段なんてあるはずもないので.ここで書き留めておきたいのは、「みんながイメージするティラノサウルスの骨格であり、BHIのシンボルとも言えるスタンがなんで売り飛ばされてしまったか」.今井が国外の記事を調べたところによると、以下のようなことらしい.

 ことの起こりは、BHI設立時からのメンバーであり、役員”だった”Neal Larsonの解雇だった.家族経営でもあったBHIは、設立当初から兄のPeteと弟のNealのLarson兄弟を中核としてやってきた.ところが、Nealがいろいろと看過できない事件を起こしたらしく、Peteをはじめとする役員たちはNealの停職、のちに解雇という判断をする(これが正当なものだったかどうかはわからない).この時にスタンの競売につながる問題が起きる…BHIの株だ.
 NealはBHIの株を相当数持っていたとのことで、解雇時にこれに関する補償やその他の手当の支払いが行われていなかったことに対してNealが訴訟を起こし、その結果として裁判所から「スタンを売却し、Nealに和解金を支払うこと」を命令したようなのだ.

 この裁判所判断の詳しいいきさつは調べられなかった.ただこの判断に対して、アメリカに拠点を置く国際的な”古脊椎動物学会(Society of Vertebrate Paleontology)は「裁判所の判断を尊重するが、近年のオークションによる高額の化石標本売買を問題視しており、スタンの入札者は、スタンを今後も適切に収蔵管理し、科学の発展や社会貢献に活用できる団体もしくはその代理人に限ってほしい」との声明を出している.

http://vertpaleo.org/Society-News/SVP-Paleo-News/Society-News,-Press-Releases/Auction-of-T-rex-Stan.aspx

 少し心配なのは,いまだにスタンの落札者がドコの誰なのか公表されていないことだ.もちろんこれだけ話題性のある化石だから、手続きが完了するまではスタンと落札者が余計なトラブルに合わないためにも必要な措置だとは言える.ただ今後スタンがどうなるのか…どのような立場の人が落札したにしろ、これからもスタンは「ティラノサウルスを代表するティラノサウルス」の一つとして、恐竜ファンと研究者が観察できる存在であってほしい.

なおこの記事のトップの写真は福井県立恐竜博物館のティラノサウルスロボットだ.同博物館では、スタンはもちろん、ティラノロボ、そしてブラック・ビューティーと名付けられた別の黒く美しいティラノサウルスの復元模型、そして前回触れたワンケル・レックスの産状復元が見られる.これだけティラノサウルスが常設展でそろっている博物館も世界的にそう無いと思う(まあティラノサウルスの別標本を一博物館内で見比べられると喜ぶ人は相当な恐竜マニアだけだろうけど).という身内自慢で、今回は締めくくりたいと思う.

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