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ネズラ1964の音楽 1

映画ネズラ1964(監督: 横川寛人、制作: 3Y)の音楽を担当しました。
今回はそれについての覚書を書いていきたいと思います。

2020年12月19日(土)17:30-および19:00- 池袋HUMAXシネマズで先行試写会が行われます。一般チケットも発売中です。
https://www.humax-cinema.co.jp/ikebukuro/news/13688/

主題歌「ネズラマーチ」(作詞:横川寛人、作曲:今堀拓也)および楽曲(作曲:今堀拓也)の著作権は、スイス音楽著作権協会SUISAに登録されています。
IPI number: 745.89.34.96
放送などで許諾が必要な場合は日本のJASRACに申請すれば許可がもらえます。 

なお、映画冒頭に流れる無伴奏合唱と、最後のクラウドファンディング紹介エンドロールに流れる曲は、私の作曲ではありません。念のため。

主題歌「ネズラマーチ」

作曲の経緯は、まず横川寛人監督からのリクエストで、主題歌は「ガメラマーチ風のネズラマーチ」という注文を受けました。
検討に検討を重ねた結果、
マッハ文朱(歌)、斉藤麻衣(セリフ)
オーケストラ・トリプティークのメンバーによる6重奏アンサンブル(オーボエ、ホルン、ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ +打楽器アフレコ)
ヒーローコーラス(合唱)
という編成となりました。


器楽編成としては、一般的にこの手の歌ものでは必須とされるエレキベースを含んでいません。コードトーンはピアノが担当するのでエレキギターも無し、さらにMIDI打ち込みを一切使わない、純粋な生楽器音のみです。これは主題歌のみならず全BGMで共通です。(冒頭の怪獣シーンのみ、ピアノの逆転再生音を用いました)
打楽器はドラムセットではなく、カホンマラカスを作曲者自身が演奏してアフレコしています。カホンは低音が割と出て、高音のスナップも効くので、実質上キックドラムとスネアドラムを代替しています。マラカスはハイハットの音域をカヴァーしています。低音はピアノとチェロで担当していますが、少し線が細いのでEQで低音をほんの少し持ち上げています。
マッハ文朱さんの歌声は基本的にほぼそのまま、最近の楽曲にありがちなメロダイン/オートチューンといった自動ピッチ修正ソフトウェアをあえて一切使っていません。(気になる部分のみ手動でセント単位で上下し微修正しました)最低限のEQとコンプ、リヴァーブを極薄めにかけてあります。
斉藤麻衣さんのセリフにはディレイをかけて、決め台詞を目立たせました。

録音は、まずマッハ文朱さんの歌と斉藤麻衣さんのセリフ、次に合唱、最後にアンサンブルという日程に分けて行われました。
歌と合唱は事前に楽譜浄書ソフトウェアSibeliusのMIDI演奏で出力した仮音源を元に行われましたが、これが功を奏して、マッハ文朱さんのご要望で急遽その場でキーを下げました。これによりアレンジ(オーケストレーション)もそれぞれの楽器の最低音域・最適音域が違ってきたので、改めてアレンジをやり直して、アンサンブルの録音に臨みました。(先にアンサンブルから収録したら、キーの変更ができず、録音もやり直しになってしまいます)

楽曲の構成とモチーフ

ネズラマーチを作曲する上でのモデルとなったガメラマーチ(映画「ガメラ対宇宙怪獣バイラス」主題歌、広瀬健次郎作曲)は、最初にテンションコードから始まるのでそれを踏襲し、ネズラマーチの前奏は怪獣のテーマとしました。その冒頭のE-Dis-Dの3音が怪獣のモチーフとなります。(モチーフ(動機)とは数音からなる音程の素材のこと。テーマ(主題)はある程度の長さを持つ楽節のこと)

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オーボエは冒頭から重音奏法を用いています。これをふんだんに用いたのが今回の音楽の大きな特徴の一つです。
歌の中の主な4つのモチーフを変奏の素材として各BGMで用いています。2番目のモチーフは、ブルックナーの交響曲第8番第3楽章より取られています。(この動画の37:08より

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BGM

BGMは先録り形式で収録しました。先に台本を読んだ段階である程度のBGMを先に作曲して録音しておき、後でカット/ループで増減して映画の正確な尺に合わせるというものです。
このやり方は映画よりも連続もののテレビドラマ(アニメなども含む)に多いです。なぜなら一つの楽曲を複数の放送回で使い回し、それぞれの放送回で必要な楽曲の尺が異なるからです。それに対して映画(あるいは単発もののテレビドラマ)というものは2時間前後の一つの時間尺で作品が完結するので、映像の尺が決まってからそれに合わせて作曲していくパターンが多いですが、今回は先に録音するやり方で制作されました。また楽曲も細かなカット/ループに対応しやすいように作曲してあります。
MIDI打ち込みなら後から書き足して作曲できますが、今回は全て生演奏のみなので、1990年代までの従来的なカット/ループによる調節をしています。例外的に一部のみタイムシフト(Pro ToolsなどのDAWで音声のピッチを保ったまま音の長さを変えること)を用いていますが、タイムシフトは録音の音質が極端に劣化するため、どうしても必要な箇所のみのごく一部に留めてあります。
全部で34曲を作曲しましたが、そのうちの10曲ほどは10秒以下の短いシーン用のいわゆるブリッジ曲です。
すべての曲に主題歌「ネズラマーチ」のモチーフが何らかの形で使われています。想定と異なるシーンで使われた楽曲も多く、長短含めて10曲が未使用となりました。試写会後の改訂がもしあれば使用されるかもしれません。

それぞれのBGMについても、後日また項を改めて解説したいと思います。

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