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反宿トンネル

 薄っぺらな毛布に埋もれて寝静まっている人々の間を、七時間近く座りっぱなしだったがためにぱんぱんに浮腫んでずっしりと重たくなった足でそろりそろりと静かに進んでいき、ようやっときんと冷えた闇夜の空気を鼻にする。出入り口の最後の段差を降り切ってバス停の床の硬い石畳を足にすると、背後でプシュウと空気が漏れるような音がして扉が閉まっていくことを知る。振り向いたときには、乗ってきた夜行バスはもう先の方へと進み始めており、やがて煙たく、ややつんとして酸っぱくもある排気ガスが顔いっぱいにぶちまけられた。

 えほっ、えほっと咳き込んで煙が染みた目を瞬かせながらあたりを見渡し出口を探す。自分の真ん前には暗がりの中で「中央道・深大寺」と書かれた看板が立っているのがわかる。その左横には四方を囲まれてはいるものの扉はなく、底も抜けている申し訳程度に立った休憩所がある。

 視線をさらに左に向けると、高速道路の電灯のぼんやりとしたオレンジ色の明かりの中で、バス停の石畳が切れているところに暗闇がぽっかりと口を開けている。そこが出口だろう。足を進めていくと、やがて左右を生い茂った草木に覆われた下りの階段が、地面からか細く伸びている電灯から注がれている白い光にうっすらと照らされているのが見えてきた。

 国元に帰ってきたのは十何年ぶりだった。そして十何年ぶりにもかかわらず、この調布市の深大寺という地域は都内だというのに相変わらず深い木々に覆われている。それも当然で、深大寺という天台宗の寺は天平五年、西暦で言えば七三三年に開創されたと言われており、都内では浅草の浅草寺に次ぐ古刹であるという伝統を、周囲の自然環境や名物である蕎麦屋とともによく守っている。寺の付近には植物公園のほか戦国時代のものである城跡もあり、武蔵野台地の南端付近に位置しているためか比較的急勾配の坂も多い。そうした豊かな自然と古い文化の存在から、近所ではこの一帯は冗談混じりに「調布の軽井沢」とも呼ばれているらしい。

 そんな場所で生まれ育ってきた私がどうして十何年もの間帰省することがなかったかといえば、大学での仕事が忙しかったからである。親元を離れ、名古屋の国立大学で哲学科の学士課程を卒業後、修士、博士と順調に進んできた私は、いつしか同じキャンパスで教鞭を執るようになっていた。大学教授というのは案外忙しいもので、学生たちへの授業のほか、それで一年の大半の時間を取られているにもかかわらず、合間合間に自らの研究テーマを考察し、それについての論文を書いて学会で発表していかなければならない。さらにそれに加えて、何年かに一度には、大学受験のための問題作りを課せられる。教授たちの中にはよく学生たちと共に夜の街へ飲みに行くというのもいるが、そうした人間は要領のいい者に限られており、私のような不器用な人間にはそうした時間を取るのは到底無理だった。

とはいえ、そうしたことはこの道に進む前から分かりきっていた。それでも教授という道を選んだのは、例えば若い時分に励んでいた合気道で身体の動きが心という曖昧なものに多大な影響を与えていることを自ら実感し、これをつぶさに調べることによって人間の精神とは何か、そして精神とはどのように、またどういった方向に磨くべきかということを世に示せるのではないかと考えたからであった、と言えばさも哲学の研究者らしい志を持っていると思われるかもしれないが、実際には学問を通して理想的な人間像を自らの頭の中で構築するようになってしまってからは、もはや単純に誰かの下について働くということが馬鹿馬鹿しくなってしまったというのが本音なのだろう。いや、もしかしたらそれですら、自分に対しての言い訳なのかもしれない。つまり、それ以前に名古屋という土地から離れたくなかっただけなのかもしれない。それは自動車道が複雑怪奇に入り組んでいるあの大企業のお膝元に愛着を持ったからというのではない。一時でも名古屋を離れることで、地元に帰ってくるための時間があるだろうと親に、特に父に思われてしまうのが嫌だったのだ。

父は自分の目から見ても頑迷だった。都心へのベッドタウンとして新興住宅が立ち並ぶこの調布市ではあるが、深大寺をはじめとした古い自然や土地が残っている通り、昔で言うところの地主のような人間や田舎気質の者もまた都内にしては多く残っていて、父はその筆頭とも言えるような人であった。そのために私は幼い頃から土地や家業である建築の仕事を継ぐようにしつこく言われていた。だが、都心に近く、周りには都外から引っ越してきた者も多くいた平成生まれの私には、そんな考えは時代に合わない不自由なものであると思われた。大学院に進むと決めたときには父からは「誰がそんな親不孝に金を出すか!」と怒鳴られたものの、私は「この家に縛り付けられるくらいなら金などいらん」と言い返してやり、進学後の学費と生活費は全て奨学金とアルバイトで賄った。

 だが、父は死んだ。久方ぶりに国に帰ったのは、そのためであった。死因は心筋梗塞で、亡くなるのは一瞬だったそうだ。お陰で一昨日に家に一人残された母から電話をもらってからというもの、夜行バスに乗るまでほぼ寝ず仕舞いの忙しさだった。大学での授業を休講にするのはもちろん、数日間の忌引となるために溜まっていた仕事を前倒して大急ぎで終わらせねばならなかった。それと並行して葬儀屋と火葬場を探し、親戚類に連絡する必要もあった。普段の忙しさに加えてそれだったから、不器用な私は可能な限り要領よく事を進めるために、常に数個先の予定まで頭に入れて今ある作業に取り組まなければならなかった。そのせいか、父の訃報を受けてから現在に至るまでで、自分が今、何日の何曜日を生きているのかが覚束なくなってきてしまっていた。

 そんな日付が覚束ない感覚は今でも続いている。明日には昨日の夕方にようやく手配がついた葬儀屋と対面し、通夜を行わなければならない。それが終わった翌日には、葬儀が行われて火葬場へ行く。その間には何人もの弔問客に挨拶しなければならないだろう。古い人間だった父には、地元の知り合いが数えきれないほどいる。そのどれもが私には子供の頃の顔馴染みで鬱陶しい。しかし、私が淡々と決まり文句で出迎えなどの挨拶をしていく隣で、母は彼らと長々とつまらぬ話をするのだろう。そうして私はそれを尻目に通夜や葬式の段取りを続けていかねばなるまい……。

 と、ここまで考えたところで、ふとまわりを見渡すと、自分が見知らぬ道に入り込んでしまっていることに気が付いた。右側に人が住んでいるとも思えないような古びた木造家屋が建ち並んでいる細い一本道は、左側が急勾配の斜面になっており、それが伸びたい放題に伸びきった雑草や葉の落ちきった高い木々、そして枯れ葉や枯れ枝たちによって一面覆われている。その侘しい斜面を暗闇の中白くぼんやりと照らしている街灯は道の右側だけにぽつりぽつりと立っており、明かりの部分を見てみるとところどころ蜘蛛の巣が絡みついたり、内側に虫の死骸か何かの汚れがついたりしているのがわかる。さながら山奥の道である。考え事をしながら歩いていたら、どうやら途中で道を誤ってしまったらしい。

 引き返そうかと考えて、くるりと左回りに振り返る。すると振り返りきったとき、自分の右側にきた斜面の、目線の少し下くらいのところで、何かが伸び切った雑草の間に見えたような気がする。その見えたような気がした部分にそっと近づいて、仄暗い白光の中でじっと目を凝らしてみると、おそらく道路の案内板の青い色であろうものが確かに草の間から覗いている。

 途端に後ろからさらさらからからと草や落ち葉が風に撫ぜられてくるのを耳にし、追って両手や、首筋から後頭部にかけてきんと冷え切った空気が流れていく。次の瞬間、道路案内と思われるものを覆っている草々がふわりと持ち上げられ、薄暗がりの中でそこに書かれた縦書きの文字がはっきりと見えた。文字は、「反宿トンネル」と記していた。

「反宿」を「そりやど」と読むのか、「はんしゅく」と読むのかはわからない。そんな地名は聞いたこともない。だが目を上げると、ほんの数歩進んだところで、トンネルへと続いていると思われる道が右側に続く斜面を途中で突っ切って今私がいる一本道と丁字路を作っているのがわかる。歩き過ぎたときには気付かなかった。

 深大寺というのは確かに山がちな土地である。しかしトンネルがあるとは思わなかった。それでなぜだか少し気になってきた。丁字路に近づき、右側の斜面を途中で断ち切って伸びている交差路を覗き込む。左右を落ち葉や枯れ枝で埋め尽くされた急勾配な斜面に覆われている薄暗い道。それをぼんやりと白く照らしている街灯は、道を少し行ったところの左側に一本だけぽつりと立っている。そしてその一番奥、地面に当たっている街灯の白い光が途切れたところの少し先には、薄暗い道でひときわ暗い、潰れた瓢箪型のような歪な形をした口をこちらに向けているトンネルがあった。

 トンネルの奥はよく見えない。ただ歪な形に切り取られた真っ暗闇があるだけである。このトンネルは一体どうしてこんな形なのだろうか? そしてこれは一体どこに続いているのだろうか? そう考えつつ、足をそろりそろりと進めてみる。近づくにつれて、潰れた瓢箪型に切り取られている暗闇はより大きく見えてくる。と、街灯の白い光に自分の体が入った途端、人の形をしたような何かがその暗闇の中でゆっくりと動いていることに気付く。何だろうと足を止めてじっと見つめてみる。暗闇の中で動いているそれは、不思議と徐々にはっきりと見えてくるような気がする。腰をやや低くしているように見えるものの、背は自分と同じくらいだと感じられる。髪型も、自分と似ているように見える。いや、それどころか、身に付けているものも、何から何まで今の自分のものと全く同じように見える。

 この自分と似た人間は一体誰なのだろうと、その後ろ姿を追って、さっきよりも幾分速く足を進めていく。と、右足を置いた地面が、急に平らではなくなり、体が右前に傾いていく。慌てて背をのけぞらせて姿勢を保とうとすると、ちらりと見えた足元は、トンネルの中の方までずっと凸凹と、またところどころでは小さな丘のようにさえ盛り上がったり、盛り下がったりしている。暗闇に覆われているそんな奇妙な地形の中を、前を行く自分のような後ろ姿は、相変わらずゆっくり、体を左右にわずかにふらりふらりと揺らしながら進んでいる。その様子を見つめつつ、今度は慎重に足を進めていく。左足は今いるところよりもやや高いところでつま先が上に向くように着地し、右足はそれよりも低いところでつま先が下に向くようにして地面に触れる。今度は左足が低いところに降り、右足は高いところで足裏がやや外に向くような形で捻ってしまいそうだったので慌ててつま先を外に向けて体制を整える。と、その瞬間につま先に何かがこつっと当たり、カラッ、カラカラカラッと小石がトンネルに向かって音を響かせながら転がっていった。

 小石の音を聞きつけてか、前にいる自分のような姿がこちらをさっと振り返る。目が合う。その途端、前を行っていた人物は……いや、あちらにいる自分は……驚いたかのように目を見開き、こちらにいる自分はその姿にはっと息を呑む。そうして彼方の自分もこちらの自分も少しの間、身動きをせず、物音一つ立てなかったが、やがてあちらの自分はこちらを見つめたまま足を一歩後ろへやった。それを見て、こちらも左足を一歩前へ出す。それはやや高いところに着く。あちらはまた一歩後退りをする。それを見て右足を出すと、これは低いところにつま先がやや上を向いて落ち着く。あちらはもう一歩後退りをして、こちらもまた左足を踏み出すと、丸みを帯びた突起の上に降りたのか、今度はややぐらついた。と、次の瞬間、「うわっ!」という自分の声が反響しながら響いてきて、あちらの自分は背中から崩れ落ち、トンネルの暗闇に飲み込まれて見えなくなってしまった。

 気付けば左手を前に差し出していた。が、すでにトンネルの中を何歩も先に進んでいたあちらの自分には当然ながら到底届かない。それでも今目にしたものにどくどくとした胸の高鳴りを感じ、そのままの姿勢であちらの自分が起き上がるのを待った。

 しかし、待てども待てども暗闇の中で崩れ倒れた自分は起き上がってこない。あたりはしんとして、こちらの自分が小石を蹴ってからというもの、物音ひとつなければ微風すらない。

やがて、じっと待っていても何も起こるまいと思い、あちらで倒れた自分を探すためにも目の前を覆う真っ暗闇に向けて再びゆっくりと足を前に出してみた。

 一歩、また一歩と不安定な足場の中を暗い歪な形のトンネルに向かって歩いていく。視界の淵にわずかながら見えていた、街灯の白い光が微かに照らし出しているトンネルの歪んだ形の口の縁は、暗闇によって後ろに完全に追いやられた。それでもまだ私の姿は見えてこない。やがて暗闇によって自分の足やそれを下ろす地面すらも見えなくなってくる。手は前を探るようにかきわけ、足は凸凹とした捉えどころのわからない地面の感触を確かめるために、そろりそろりと前に出て、一歩一歩がとても小さくなってくる。

 そうして体が完全に暗闇に飲まれて前に出している自分の手の指先ですら見えづらくなってきた、そのとき、カラッ、カラカラカラッと背後から小石が転がってくる音が耳に響いてきて、いまだ昂っていた胸がぎょっと跳ね上がった。さっと振り返ると、街灯のぼんやりとした白い光の下、やや逆光で色合いこそ薄暗く見えづらいものの、明らかに私自身が足を一歩前に出した姿でそこに立っている。その姿は、先ほどの自分自身にほかならない。

 黒い目が合う。目は、大きく見開かれている。そうして自分の黒い目を見つめつつ、思わず右足が一歩後退りをして、やや低いところへすとんと落ちる。目の前にいる自分も、左足をやや高いところへ一歩出す。こちらは左足を後ろへやり、また少し低いところに、つま先がやや下を向きながらもとんと落ちる。あちらの自分もまた右のつま先がやや上を向きながら低いところに下りる。こちらはまた右足を後ろへ、やや高いところで踏み締める。あちらは左足をややぐらつかせつつ少し高いところへ。そして左足を……。

 次の瞬間、左足の踵が硬いものにぶつかり、口から思わず「うわっ!」と声が出て、体が背中から地面へと崩れ落ちていった。その拍子に目の前にいたあちらの自分は手をさっとこちらへ差し出してきたものの、その姿はくるっと消え去り、視界は暗闇に覆われた。


「啓介さん……啓介さん……大丈夫か?」

 頬をパシパシと強く叩かれるのを感じると同時に、なんとなく聞き覚えのある男の声が聞こえてくる。目を開けると、白み始めた景色の中央に、逆光で見え辛くはあったものの、皺だらけの顔に短い白髪が添えられた老人がこちらを覗き込んでいるのが見えた。その顔は、一瞬見知らぬ他人に思われたものの、垂れ目がちな目尻と左の頬にあるほくろのおかげで、むかし父の建設会社に勤めていた鳶職の石橋正孝のそれだということがわかった。

「ああ、正孝さんか」

「ええ、そうです。正孝です。お久しぶりです」

 丁寧になされる挨拶を耳にしながら上体を起こすと、正孝さんは安心したかのようにため息を一つつき、再び口を開いた。

「なんだって啓介さんがこんなところに。親父さんの家はあっちでしょう?」

 正孝さんは手でトンネルの外を指し示す。

「いや、考え事をしながら歩いていたら迷い込んでしまいましてね」

 手で頭をかきながらそう答える。

「そうでしたか。しかしこんなところで寝ていては風邪をひいてしまいますよ」

 正孝さんは心配するような様子でそう言い、また一つため息をつくと、しかし次にはあたりを見回しながらしみじみと口を開いた。

「でも親父さんが亡くなられて、こちらに迷い込まれるとは、ある意味運命かもしれませんね」

「運命?」

「ええ、このトンネルは、いや、トンネルというよりはアートですかな、親父さんがとある芸術家の方から依頼されて建設を手伝ったものなんですよ。私なんかはそっちの方は疎いので、誰だったか名前はもう忘れてしまいましたけどね。まあ、その方とは、親父さん、なかなかに意気投合されてましたよ」

「へえ、親父がねえ。そんな方面に興味があるとは知らなかった」

「なんでもこのトンネル、といってもどこかに繋がっているわけではないんですがね、入ってみると不思議なことが起こることがあるそうで、でも、どうやら誰彼にもってわけではないようで、私なんかにはとんとわかりません」

「ふうん、そうなのか」

「でも、これだけは覚えていますよ。その芸術家の方が言ったんですがね、『このトンネルはただのトンネルじゃない。あらゆる時間と空間から人間を解放し、我々の感覚を進化させる。建築にはそれができる』と。親父さんはそれにいたく感心されましてね、こいつを作れば啓介さんも家業に興味を示すだろうって言って熱心に仕事をされていましたよ」

「まさか」

「いえいえ、本当です。まあ、親父さんも昔気質で不器用な方でしたからね、啓介さんには気難しいだけにしか見えなかったかもしれませんが、それでも啓介さんが出て行ってからは電話口で『戻ってこい』としつこく言っている裏で、どうしたら仕事で啓介さんの気を引くことができるかってずっと考えていらっしゃいましたから。これができたらもう一度電話してやると言っていましたよ」

「そうか……」

 そう呟きつつ、自分が腰をついているトンネルの内部を見渡してみた。あたりはもうだいぶ明るくなっていて、昨夜は真っ暗で全く見えなかったトンネルの内壁が今やしっかりと見えてきた。それは赤、青、緑、黄色とさまざまな色によって彩色されており、また、どの方向を見てもうねるようにして波打っている。昨夜足場を確かめるようにして歩いた地面も、体で感じ取っていた通り、やはり不規則な具合であちこちが大小さまざまに隆起している。どの点を見ても、あの頑迷な父親が携わったとは到底思えないような建築物だった。

 ただ、昨日自分の身に起きたことを考えると、全くの幻想だったのではないかと思える部分もあったものの、建築で「我々の感覚を進化させる」と言った見ず知らずの芸術家の言葉は、あながち嘘ではないように思われた。少なくとも私は、このトンネルで己の存在位置を不安定にさせられた。とはいえ、哲学や芸術などにはとんと疎かったあの父親が、どこぞの芸術家の言葉を本当に信用したというのであろうか?

 それは俄に信じがたかった。が、信じがたいと思われると同時に、ふと今日行う通夜のことが思い出された。それでようやく立ち上がることにした。ただ、立ち上がりざまに、正孝さんに向けて口を開いた。

「正孝さん、その芸術家だけれども、連絡先はわかるかな?」

「はい……え? ああ、たぶん事務所に行けばわかりますよ」

 正孝さんはきょとんとした様子でそう答えたものの、やがて質問の裏を測ったのか垂れ目がちな瞳を輝かせて再び口を開いた。

「まさか、お仕事を継がれることを?」

 それに対しては首を横に振ったものの、口では次のようなことを私は話した。

「いや、仕事を継ぐかはもうこの歳なんでわからないけどね、でも、親父が少しでも歩み寄ろうとしてきたのなら、僕の方も少しばかりはそれに応えなきゃいだろうからね、とりあえずその芸術家に会って、自分の学んできたことが建築と少しでも関わりを持つことはできないか考えてみることにするよ」

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Takuto Ito
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