きょうの霊枢 百病始生篇 第六十六(2) 2023/6/15

百病始生篇の2回目です。
前回は、人が病を得る前段階として、風雨寒熱などの外因と、激しい喜怒などの内因、本人の体力(防御能力)の掛け合わせであり、病のもと(邪)の侵入ルートとしては「上下中外」がある、というところまでの話でした。
今回はその続きです。 

是故虛邪之中人也 始於皮膚 皮膚緩則腠理開
開則邪從毛髮入 入則抵深 深則毛髮立 毛髮立則淅然
故皮膚痛
(是の故に虛邪の人に中たるや、皮膚に始まり、皮膚緩めば則ち腠理開き、開けば則ち邪、毛髮より入り、入れば則ち深きに抵り、深ければ則ち毛髮立ち、毛髮立てば則ち淅然たり、故に皮膚痛む。)

※ 抵 いたる。あたる。間隙なく届いて、ぬきさしならないこと。
ちなみに、漢方で「抵当湯(丸)」という処方がありますが、こちらの「抵当」は主薬である「水蛭」の別名からきている、という説があります。

※ 淅 せき、しゃく。さらさらと米をとぐ。傷寒論では「淅淅」で悪風を形容する言葉として用いられる。
<辨太陽病脈證并治法上>
太陽中風 陽浮而陰弱 陽浮者熱自發 陰弱者汗自出 嗇嗇惡寒 淅淅惡風
翕翕發熱 鼻鳴乾嘔者 桂枝湯主之

 
留而不去 則傳舎於絡脈 在絡之時 痛於肌肉
其痛之時息 大經乃代
(留まりて去らざれば、則ち舎を絡脈に伝え、絡に在るの時、肌肉に痛み、其の痛の時に息めば、大經乃ち代わる。)

※ 舎 やど、いえ。手足を伸ばしてくつろぐ場所。

※ 大経 絡脈に対する経絡。「大經乃代」は邪気が深く侵入し、絡脈の邪気がすでに経脈に入り込んで、経脈が邪気を受けはじめている状態をいう。

 
留而不去 傳舎於經 在經之時 洒淅喜驚
(留まりて去らざれば 舎を經に伝え、經に在るの時、洒淅として喜く驚く。)

※ 喜驚 よく驚く。驚きやすい。癲癇症状を指すこともある。腎系統が病を得ると、驚きやすいとされるが、ここではあまり五臓との関連は意識されていないもよう。
 
留而不去 傳舎於輸 在輸之時 六經不通四肢
則肢節痛 腰脊乃強
(留まりて去らざれば 舎を輸に伝え、輸に在るの時、六經通ぜず、四肢は則ち肢節痛み、腰脊は乃ち強ばる。)

※ 輸 テキストでは「輸脈」とし、その説明は無いが、『素問』の「經脈別論」には以下のように述べられている。

脈氣流經 經氣歸於肺 肺朝百脈 精於皮毛
(脈氣は經に流れ、經氣は肺に歸し、肺は百脈に朝し、精を皮毛に輸る

この記述からすると、精を皮毛に送る働きの事を「輸」とするらしい。

※ 六經不通四肢 則肢節痛
テキストでは、「六經通ぜず、四肢は則ち肢節痛み」と読んでいるが、
「六經四肢に通ぜず、則ち肢節痛み」と読むこともできるのでは、という指摘がありました。確かにその方が意味が通じやすいかもしれません。

 
留而不去 傳舎於伏衝之脈 在伏衝之時體重身痛
(留まりて去らざれば 舎を伏衝の脈に伝え、伏衝に在るの時、體重く身痛む。)

※ 伏衝之脈
衝脈には『霊枢』の「五音五味篇」にある、小腹内の胞中から起こって椎骨内部に沿って上行するものと、『素問』の「骨空論」にある、気衝穴からはじまり、臍の両側を上行して胸部に終わるものとがある。(『難経』では足の陽明経に沿うとあるが、ここでは除外する。)本文では、「伏衝」となっているところから、より体内にある前者のルートが想定されているのではないか、という話になりました。

 
留而不去 傳舎於腸胃 在腸胃之時 賁響腹脹
多寒則腸鳴飱泄 食不化 多熱則溏出糜
(留まりて去らざれば 舎を腸胃に伝え、腸胃に在るの時、賁響して腹脹す。寒多ければ則ち腸鳴り飱泄し、食化せず。熱多ければ則ち溏糜を出だす。)

※ 賁 おおきく膨れたきれいな貝。勢いよく噴き出る、かけまわる。

※ 飱泄 そんせつ。水穀下痢。不消化便の下痢のこと。

※ 溏 いけ、どろ。

※ 糜 くだける、ただれる。


留而不去 傳舎於腸胃之外 募原之間 留著於脈
稽留而不去 息而成積
(留まりて去らざれば 舎を腸胃の外、募原の間に伝え、 留まりて脈に著き、稽留して去らざれば、息ちて積と成る。)
 
 ※ 息而 そだちて。ここでの「息」は成長するの意味。前段の「其痛之時息」の「息」は「やめば」と読み、終わればの意味だったので、同じ漢字を違った読み方で使用する「素問霊枢トラップ」発動!という話になりました。
 
 
或著孫脈 或著絡脈 或著經脈
或著輸脈 或著於伏衝之脈 或著於膂筋
或著於腸胃之募原 上連於緩筋 邪氣淫泆 不可勝論
(或いは孫脈に著き 或いは絡脈に著き 或いは經脈に著き、或いは輸脈に著き、或いは伏衝の脈に著き、或いは膂筋に著き、或いは腸胃の募原に著き、上りて緩筋に連なる。邪氣の淫泆するは、勝げて論ずべからず。)

※ 輸脈 足の太陽膀胱経をさす。楊上善は「輸脈とは、足の太陽脈である。足の太陽脈は、五臓六腑の輸を管理統括しているので、輸脈というのである。」と注している。

※ 膂筋 「膂」はせぼね。膂筋は脊柱に付着する筋をいう。

※ 募原 腹部の腸間膜など。特に大網のことと思われる。

※ 緩筋 楊上善の註では「足の陽明筋をいう。」とされている。別説では「宗筋(陰経の海綿体)」を指す、という説もある。

この段落のまとめです。
皮膚が緩み、腠理が開く ⇒ 邪が毛髪より入る ⇒ 絡脈に入る ⇒ 経脈に入る ⇒ 輸脈に入る(足太陽膀胱経)⇒ 衝脈に入る ⇒ 腸胃に入る ⇒ 募原の間に入る ⇒ 積を形成する。

同様の内容は『素問』でも見られるので、参考までに挙げておきます。

『霊枢』 繆刺論
夫邪之客於形也 必先舍於皮毛 留而不去 入舍於孫脈 留而不去 入舍於絡脈
留而不去 入舍於經脈 內連五藏 散於腸胃 陰陽俱感 五藏乃傷
此邪之從皮毛而入 極於五藏之次也 如此則治其經焉

『霊枢』 皮部論
是故百病之始生也 必先於皮毛 邪中之則腠理開 開則入客於絡脈
留而不去 傳入於經 留而不去 傳入於府 廩於腸胃
邪之始入於皮也 泝然起毫毛 開腠理
其入於絡也 則絡脈盛色變
其入客於經也 則感虛乃陷下
其留於筋骨之間 寒多則筋攣骨痛 熱多則筋弛骨消 肉爍䐃破 毛直而敗

さて、邪が体内に入り込み、「積」を形成するところまで見てきました。
次回はその「積」から先どうなっていくかを見ていくことになります。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。




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