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きょうの素問 玉機真蔵論篇 第十九(4) 2023/12/21

年内最後の「きょうの素問」になります。
玉機真蔵論篇の4回目。
今回は「病の伝変」がテーマになります。
さっそく読んでいきましょう。


五藏受氣於其所生 傳之於其所勝 氣舍於其所生
死於其所不勝 病之且死 必先傳行至其所不勝 病乃死
此言氣之逆行也 故死
(五藏は氣を其の生ずる所に受け、これを其の勝つ所に傳う。氣は其の生ずる所に舍り、其の勝たざる所に死す。 病の且に死せんとするや、必ず先ず傳え行きて、其の勝たざる所に至りて、病乃ち死す。此れ氣の逆行を言うなり。故に死す。)

※ 受氣於其所生
王冰の解説。
「病の気を自己が生ずる所のものから受けることを言う。」
ここでは、「気」は「病の気」を指す。
「生ずる所」とは自分が生んだものを指す。(母子関係でいえば、子。)
たとえば、肝に病があるとき、その病の気は子である「心」から来たとする考え方。

※ 傳之於其所勝
馬蒔の解説。
「すなわち自分が剋つ所のものである。」
例えば、肝の病が、相剋関係にある「脾」に伝わる。

※ 氣舍於其所生
張景岳の解説。
「舍るとは留まるである。」
病の気が母子関係でいうところの母に伝わり留まること。
例えば、肝の病が、腎に留まる状態。

※ 死於其所不勝
王冰の解説。
「己に剋つものの所で死ぬことをいう。」
つまり、病の気が最後には自分に剋つものの所に伝わって、そこで死ぬ(終末を迎える)ということ。
例えば、肝の病が肺に伝わって、そこで死ぬ、という経過。

上記はみな、五臓の相生・相剋関係をもとに考えられています。

1. 五行の相生・相剋



肝受氣於心 傳之於脾 氣舍於腎 至肺而死
(肝は氣を心に受け、これを脾に傳う。氣は腎に舍り、 肺に至りて死す。)


2. 病の伝変(肝の病)


心受氣於脾 傳之於肺 氣舍於肝 至腎而死
(心は氣を脾に受け、これを肺に傳う。氣は肝に舍り、腎に至りて死す。)

3. 病の伝変(心の病)


脾受氣於肺 傳之於腎 氣舍於心 至肝而死
(脾は氣を肺に受け、これを腎に傳う。氣は心に舍り、肝に至りて死す。)

4. 病の伝変(脾の病)


肺受氣於腎 傳之於肝 氣舍於脾 至心而死
(肺は氣を腎に受け、これを肝に傳う。氣は脾に舍り、心に至りて死す。)

5. 病の伝変(肺の病)


腎受氣於肝 傳之於心 氣舍於肺 至脾而死
(腎は氣を肝に受け、これを心に傳う。氣は肺に舍り、 脾に至りて死す。)

6. 病の伝変(腎の病)



此皆逆死也 一日一夜五分之 此所以占死生之早暮也
(此れ皆、逆死なり。一日一夜これを五分にす。此れ死生の早暮を占うゆえんなり。)

※ 一日一夜五分之
一昼夜を五段階に分けて、五臓に配合する。たとえば、平旦は肝に、日中は心に、薄暮は肺に、夜半は腎に、午後は脾に属す。

7. 一日一夜五分之

※ 死生
『新校正』では「『甲乙経』では「生」を「者」の字にして、「死者の早暮を占う」とある。」としている。

さて、病が五蔵間にどのように伝わっていくかについての論述は他の篇でもみられます。
『素問』藏氣法時論ではどのような関係性の蔵に病が入るかで予後が違うことを述べています。

夫邪氣之客於身也 以勝相加 至其所生而愈
至其所不勝而甚 至於所生而持 自得其位而起
必先定五藏之脈 乃可言間甚之時 死生之期也
(夫れ邪氣の身に客するや、勝を以て相い加う、其の生ずる所に至りて愈ゆ。其の勝たざる所に至りて甚だし。 生ずる所に至りて持す。自ら其の位を得て起こる。
必ず先ず五藏の脈を定めて、乃ち間甚の時、死生の期を言うべきなり。)

また、『素問』標本病傳論では、五蔵間での病の伝変を具体的に、病態で表現しています。

夫病傳者 心病先心痛 一日而欬 三日脇支痛
五日閉塞不通 身痛體重 三日不已 死 冬夜半 夏日中
肺病喘欬 三日而脇支滿痛 一日身重體痛 五日而脹
十日不已 死 冬日入 夏日出
 
肝病頭目眩脇支滿 三日體重身痛 五日而脹
三日腰脊少腹痛脛痠 三日不已 死 冬日入 夏早食
 
脾病身痛體重 一日而脹 二日少腹腰脊痛脛痠
三日背𦛗筋痛小便閉 十日不已 死 冬人定 夏晏食
 
腎病少腹腰脊痛䯒痠 三日背𦛗筋痛小便閉 三日腹脹
三日兩脇支痛 三日不已 死 冬大晨 夏晏晡
 
胃病脹滿 五日少腹腰脊痛䯒痠 三日背𦛗筋痛小便閉
五日身體重 六日不已 死 冬夜半後 夏日昳
 
膀胱病小便閉 五日少腹脹腰脊痛䯒痠 一日腹脹
一日身體痛 二日不已 死 冬雞鳴 夏下晡
 
諸病以次是相傳 如是者 皆有死期 不可刺
間一藏止 及至三四藏者 乃可刺也
(諸病、ついでを以てする是れ相傳なり。是の如き者、皆、死期ありて、刺すべからず。間、一藏に止まり、及び三四藏に至る者は、乃ち刺すべきなり。)
 
 
『霊枢』病傳も、基本的に『素問』標本病傳論をなぞっていますが、こちらは五臓ベースで記述されています。

病先發於心 一日而之肺 三日而之肝 五日而之脾
三日不已 死 冬夜半 夏日中
 
病先發於肺 三日而之肝 一日而之脾 五日而之胃
十日不已 死 冬日入 夏日出
 
病先發於肝 三日而之脾 五日而之胃 三日而之腎
三日不已 死 冬日入 夏蚤食
 
病先發於脾 一日而之胃 二日而之腎 三日而之膂膀胱
十日不已 死 冬人定 夏晏食
 
病先發於胃 五日而之腎 三日而之膂膀胱 五日而上之心
二日不已 死 冬夜半 夏日昳
 
病先發於腎 三日而之膂膀胱 三日而上之心
三日而之小腸 三日不已 死 冬大晨 夏晏晡
 
病先發於膀胱 五日而之腎 一日而之小腸 一日而之心
二日不已 死 冬雞鳴 夏下晡
 
諸病以次相傳 如是者 皆有死期 不可刺也
間一藏及二 三 四藏者 乃可刺也
(諸病は次を以て相傳う。是の如き者は、皆死期あり、 刺すべからざるなり。一藏を間てて二、三、四藏に及ぶ者は、乃ち刺すべきなり。)
 

そして、時系列的にこうした記述を踏まえて、『難経』五十三難では、以下のようにまとめられています。

『難経』五十三難
經言七傳者死 間藏者生 何謂也
(經に言う、七傳の者は死し、間藏の者は生くとは何の謂ぞや。)

然 七傳者 傳其所勝也
間藏者 傳其子也
(然るなり、七傳は其の勝つ所に傳うなり。
間藏は、其の子に傳うなり。)

何以言之
(何を以て之を言う)

假令心病傳肺 肺傳肝 肝傳脾 脾傳腎 腎傳心
一藏不再傷 故言七傳者死也
(たとえば、心病肺に傳え、肺、肝に傳え、肝、脾に傳え、脾、腎に傳え、腎、心に傳う。一藏再び傷れず、故に七傳の者は死すと言うなり。)

假令心病傳脾 脾傳肺 肺傳腎 腎傳肝 肝傳心
是母子相傳 竟而復始 如環之無端 故言生也
(たとえば、心病脾に傳え、脾、肺に傳え、肺、腎に傳え、腎、肝に傳え、肝、心に傳う。是れ母子相い傳う。 竟りて復た始まる。環の端無きが如し。故に生と言うなり)

最終的に、五臓の相剋関係に則って「病の気」が伝変していく、という形にまとめられています。

8. 各傳其所勝


では、本文に戻って、続きを。

 
黃帝曰 五藏相通 移皆有次 五藏有病 則各傳其所勝
不治 法三月若六月 若三日若六日 傳五藏而當死
是順傳所勝之次
故曰 別於陽者 知病從來 別於陰者 知死生之期
言知至其所困而死
(黃帝曰く、五藏相い通じ、移すこと皆、次あり。五藏病あれば、則ち各おの其の勝つ所に傳う。
治せざれば、法に三月、若しくは六月、若しくは三日、若しくは六日、五藏に傳えて當に死すべし。是れ順に勝つ所に傳うるの次なり。
故に曰く、陽を別つ者は、病の從りて來たるを知り、
陰を別つ者は、死生の期を知る。其の困まる所に至りて死することを知るを言うなり。)

※ 法三月若六月 若三日若六日
張景岳の解説
「病が早期に治らないときには、必ずたがいに伝えあう。それに要する時間は、遅ければ三か月か六か月、早ければ三日か六日である。」
例えば、半月で一蔵に伝わるときは、三か月で五蔵に伝わり、一ヵ月で一蔵に伝わるときは、六か月で五蔵に伝わり、半日で一蔵に伝わるときは、三日で五蔵に伝わり、一日で一蔵に伝わるときは、六日で五蔵に伝わる、ということになる。

※ 別於陽者 知病從來 別於陰者 知死生之期
張志聡の解説
「陽者言表 謂外候也
 陰者言裏 謂蔵気也
 凡邪中於身 必證形於外 察其外證 即可知病在何経
 故別於陽者 知病従来
 病傷蔵気 必敗眞陰 察其根本 即可知危在何日
 故別於陰者 知死生之期 此以表裏言陰陽也」
 
王冰の解説
「主辨三陰三陽之候 則知中風邪気之所不勝矣」

柴崎先生や、家永先生は、この部分について、以下のように解釈しています。
陽者=胃氣
陰者=真蔵

これは、『素問』陰陽別論に基づいていると思われます。
所謂陰者 真藏也 見則為敗 敗必死也
所謂陽者 胃脘之陽也 別於陽者 知病處也
別於陰者 知死生之期

どちらの解釈に沿って読むかで、原文の意味が変わってしまうのがまた、古典をよむ難しさでもあり、面白さでもありますね。

さて、今回の範囲はここまでです。
2023年の更新も今回で最後となります。
いつも最後までお読み頂き、誠にありがとうございます。
2024年も地道に続けていきたいと思いますので、
引続きどうぞよろしくお願い致します。



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