きょうの金匱要略 1/13 趺蹶手指臂腫轉筋陰狐疝蚘蟲病證治 第十九(1)
論一首、脈證一條、方五首
※趺蹶(てっけつ) つまづく
※手指臂腫 手と指と肘(前腕)が腫れる
※轉筋(てんきん) こむらがえり
※陰狐疝(いんこせん) 陰嚢ヘルニア
※蚘蟲(かいちゅう) 蛔虫
師曰 病趺蹶 其人但能前不能却 刺腨入二寸 此太陽經傷也
(師の曰く、趺蹶を病み、其の人、但能く前み、却く能わず、腨を刺して入ること二寸、此れ太陽經傷るるなり)
※大塚先生は筋萎縮性側索硬化症を挙げられていましたが、前に進むのみで下ることができないというのは、パーキンソン病ではないか、という話が出ました。
※刺腨入二寸 「腨」は承筋穴ではないか、という説があるそうです。足太陽膀胱経の病症として挙げられています。
病人常以手指臂腫動 此人身體瞤瞤者 蔾蘆甘草湯主之
(病人、常に手指臂、腫れ動くを以て、此の人、身體瞤瞤たるは、蔾蘆甘草湯之を主る)
蔾蘆甘草湯方(未見)
※蔾蘆甘草湯は蔾蘆と甘草が入っていることは推定できますが、他の方剤が何であったかは分からなくなっています。
※蔾蘆(りろ) バイケイソウの根茎。アルカロイドを含む有毒植物。催吐、殺虫作用があり、脳卒中や癲癇などで痰(粘液)が詰まるのを取る。マラリア、疥癬や脱毛にも用いる。
(『墨攻』という作品にも毒として出てくるそうです。)
轉筋之為病 其人臂腳直 脈上下行 微弦 轉筋入腹者 雞屎白散主之
(轉筋の病たる、其の人、臂、腳、直にして、脈上下に行きて微弦す。轉筋腹に入る者は、 雞屎白散之を主る)
雞屎白散方
雞屎白
右一味 為散 取方寸匕 以水六合 和 溫服
※雞屎白(けいしはく) 鷄の糞の白い部分。酒を加えながら火であぶり乾燥させたものを粉末にする。利水消腫、解毒、止痙の効能がある。
※宇津木昆台の『古訓医伝』には、お腹が膨らんで「青筋」が見えるような病証には雞屎白が良いとの記述があります。また、『名医別録』には赤淋に良いともあります。
※「青筋」に関連して、清代の郭志邃撰『痧脹玉衡』の紹介がありました。溫病学説の書ですが、何故か日本にはあまり学説が広まらなかったそうです。この中で、溫病が進行すると「痧」ができるとあり(今で言うDICによる紫斑と思われる)、それに対する放血の処置だけが取り入れられ、「青筋」など瘀血の證に対する処置(刺絡)と混ざっていった、という説明を頂きました。当時、オランダ醫學(長崎の出島)からは「瀉血」が入ってきていたので余計に日本の「刺絡」は色々と混ざった感じになってしまったのかと思いました。
陰狐疝氣者 偏有小大 時時上下 蜘蛛散主之
(陰狐疝氣の者は偏に小大あり。時時上下す。蜘蛛散之を主る)
蜘蛛散方
蜘蛛十四枚 熬焦
桂枝半兩
右二味為散 取八分一匕 飲和服 日再服 蜜丸亦可
※蜘蛛(ちしゅ) コガネグモ科のオニグモ。沸騰する湯に漬けたあと、取り出して乾燥させる。解毒、消腫の効能がある。