きょうの素問 瘧論篇 第三十五(1) 2024/2/1
瘧(ギャク、おこり)について詳しく論じている篇です。
病だれの中にある「虐」の字は上側が「虎」で下の「E」の部分は爪でひっかくのを表しており、虎が人を爪でひっかくさまが転じて、「ひどい、はげしい」の意味を持つようになったそうです。そこから、激しい症状が出るやまい、今でいう所の「マラリア」(およびその類似疾患)を指しているものと思われます。
古代の人がこの病をどのように論じているか、さっそく読んでいきましょう。
※ 瘧
間歇性の悪寒戦慄、高熱、出汗を特徴とする疾病。古人はこの病が多く夏秋季及び山林で蚊の多い地帯に発生することを観察していた。病邪や体質の強弱、表現される症候の違いにより、風瘧、暑瘧、湿瘧、痰瘧、寒瘧、温瘧、などがある。
黃帝問曰 夫痎瘧皆生於風 其蓄作有時者 何也
(黃帝問いて曰く、夫れ痎瘧は皆風より生ず。其の蓄作に時ある者は何ぞや。)
※ 痎瘧
『甲乙経』、『千金方』には「痎」の字はない。
多紀元簡の説。
「『設文』に痎は二日に一度瘧を発す、といっている。思うに瘧は二日に一度発作を起こすものが多いので、この症状のために痎という総称をつけたのである。」
呉崑の解説。
「痎も亦瘧なり。夜、病は痎と為し、昼、病は瘧と為す。」
「痎(カイ、ガイ)」も「おこり」。病だれの中の「亥」は、太い動物の骨を指すという。
※ 蓄作
「作」は発作が起こること。「乍」は刀で素材に切れ目を入れるさまを描いた象形文字。急激な動作であることから、たちまちに、の意味を持つようになった。
「蓄」の中にある「畜」は囲いの中で飼う動物のこと。そこから転じて多くのものをひと所にとりまとめて置く意味を表わす。そこから貯えたものを意味し、さらに転じて「休むとき」の意味を持つ。
歧伯對曰 瘧之始發也 先起於毫毛 伸欠乃作 寒慄鼓頷
腰脊俱痛 寒去則内外皆熱 頭痛如破 渴欲冷飲
(歧伯對えて曰く、瘧の始めて發するや、先ず毫毛より起ち、伸欠乃ち作り、寒慄して頷を鼓し、腰脊俱に痛む。 寒去れば則ち内外、皆熱し、頭の痛むること破るるが如く、渴して冷飲せんと欲す。)
※ 伸欠(シンケン)
張景岳の解説。
「伸とは、その四体を伸ばすこと。邪が経脈の中に動くのである。欠とはあくびで、陰陽が争い引いてそうなるのである。」
「欠」は本来は「ケン」と読む。「あくび」または「かける」の意味。「ケツ」の読みは本来は「缺」のもの。
※ 寒慄鼓頷
慄は戦慄のこと。頷(カン、ガン)は下顎骨を指す。
「鼓」は鼓動のこと。寒さのために全身が震え、顎ががくがくすること。
帝曰 何氣使然 願聞其道
(帝曰く、何の氣か然らしむるや。願わくは其の道を聞かん。)
歧伯曰 陰陽上下交爭 虛實更作 陰陽相移也 陽并於陰
則陰實而陽虛 陽明虛 則寒慄鼓頷也
(歧伯曰く、陰陽、上下して交ごも爭い、虛實更ごも作り、陰陽相い移ればなり。陽、陰に并すれば、則ち陰、實して陽、虛す。陽明虛すれば則ち寒慄して頷を鼓するなり。)
※ 陰陽上下交爭
王冰の解説。
「陽気は下行が極まると上り、陰気は上行が極まると下る。そこで陰陽は上下して互いに争うことになるのである。」
※ 陰陽相移也
陰と陽が交争して、陰が勝てば陽は虚し、陽が勝てば陰は虚す。瘧疾の発作はこのように陰と陽が交互に優勢となるため、寒と熱とが現れる。
※ 并
並びたつ、同居する。混ざっていないのがポイント。
※ 陽明
手の陽明大腸経と足の陽明胃経を指す。
巨陽虛 則腰背頭項痛 三陽俱虛 則陰氣勝 陰氣勝
則骨寒而痛 寒生於内 故中外皆寒 陽盛則外熱
陰虛則内熱 外内皆熱 則喘而渴 故欲冷飲也
(巨陽虛すれば、則ち腰背頭項痛む。三陽俱に虛すれば、 則ち陰氣勝ち、陰氣勝てば則ち骨寒えて痛み、寒、内より生ず。故に中外、皆寒ゆ。陽盛んなれば則ち外熱し、陰虛すれば則ち内、熱す。外内、皆熱すれば、則ち喘して渴す。故に冷飲せんことを欲するなり。)
※ 巨陽虛
ここでは、手の太陽小腸経と足の太陽膀胱経を指す。この経が虛すると腰から背中、後頭部にかけて痛む、というのも膀胱経の経絡病証に合致する。
ちなみに、滑寿は「この下に「少陽虚」の一節があるべきである。」としていて、「少陽虚」が抜け落ちてしまったのでは、と指摘する歴代医家は多いとのこと。
※ 外内皆熱 則喘而渴 故欲冷飲也
白虎湯の証ですね、とのことでした。
此皆得之夏傷於暑 熱氣盛 藏於皮膚之内 腸胃之外
此榮氣之所舍也
(此れ皆これを夏に暑に傷らるるに得。熱氣盛んにして、皮膚の内、腸胃の外に藏さる。此れ榮氣の舍する所なり。)
※ 榮氣(營気)
脈管中を運行する精気で、水穀より生じ、脾胃を源として中焦に出る。その性質は柔順で血液を生じ、全身を栄養する働きがある。営気の運行は、中焦よりのぼり手の太陰肺経に注ぎのち全身の経脈を通じて人体の上下内外の各部分を栄養する。
此令人汗空踈 腠理開 因得秋氣 汗出遇風 及得之以浴水氣舍於皮膚之内 與衛氣并居
(此れ人の汗空をして踈ならしめ、腠理をして開かしめ、 因りて秋氣を得れば、汗出でて風に遇い、及びこれを以て浴するに得。水氣皮膚の内に舍し、衛氣と并居す。)
※ 内外の熱によって皮膚の肌理や汗腺が開き、そこから風邪や冷えが体内にはいって来るという重要な生理反応が述べられています。
※ 衛氣
人体の陽気の一部分で、水穀より生じ、脾胃を源として上焦に出て、脈外をめぐり、その性質は剛悍で、経脈の制約を受けず、その気のめぐりは迅速にして滑らかであるという。その運行は内は臓腑、外は肌表腠理の至るところをめぐる。それはよく臓腑を温養し、かつ皮膚を温潤して腠理を滋養し、汗腺を開閉するなどの重要な作用がある。
衛氣者 晝日行於陽 夜行於陰 此氣得陽而外出
得陰而内薄 内外相薄 是以日作
(衛氣なる者は、晝日には陽を行り、夜には陰を行る。 此の氣、陽を得て外に出で、陰を得て内に薄り、内外相い薄る。是を以て日に作るなり。)
※ 薄
物の上下の面がすれすれにくっついているさま。転じて、平らで厚さが少ない。そこから、間をあけずすれすれにくっつく、せまる、の意味がある。
今回はここまでになります。
「瘧」の病態を子細に観察することで、人体における病的な冷熱(陰陽)がどのような機序で、どんな病態を示すのかということについて考察がされている興味深い内容でした。
次回もこの続きを読んでいきたいと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました!