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みんなが知らない海底データケーブルのメンテナンスの世界

私たちが毎日使っているインターネット。その背後には、膨大な量のデータが地球規模で飛び交っています。このデータ通信の中枢を担っているのが、世界中の海底に張り巡らされている「海底データケーブル」です。実は、世界中のデータ通信の約95%はこれらのケーブルによって行われているのです。しかし、これらのケーブルがどのようにして維持・メンテナンスされているかは、一般にはほとんど知られていません。本記事では、海底データケーブルのメンテナンスの舞台裏と、その世界で活躍する企業や技術について詳しく紹介します。

海底データケーブルとは?

海底データケーブルは、海底に敷設される光ファイバーケーブルのことです。これらのケーブルは大陸間を結び、インターネットをはじめとした国際通信を支える基盤となっています。ケーブルは数千キロメートルにも及ぶ長さを持ち、光ファイバーを何重もの保護層で覆うことで、海底の過酷な環境から守られています

海底ケーブルは、海流、潮の動き、漁船のアンカー、地震などの自然災害や人為的な要因によってダメージを受けることがあります。このため、メンテナンスと修理が不可欠です。

海底ケーブルのメンテナンスを担う企業

海底データケーブルのメンテナンスは、専門的な技術と設備を持つ企業によって行われます。以下の企業は、この分野で特に重要な役割を果たしている代表的な企業です。

1. SubCom

  • 概要: アメリカを拠点とするSubComは、海底ケーブルの設計、敷設、修理を行う大手企業です。世界中の多くの通信企業と連携し、敷設からメンテナンスまで一貫して対応できる体制を持っています。

  • メンテナンス手法: SubComは、特別に設計されたケーブル敷設船と、ROV(遠隔操作潜水機)を使用して、海底ケーブルの修理を行います。ROVを用いて、損傷したケーブルの位置を特定し、精密な操作でケーブルを持ち上げ、必要な修理を行います。また、修理作業中の映像やデータをリアルタイムで管理し、効率的な作業を行います。

2. Alcatel Submarine Networks

  • 概要: フランスに拠点を置くASN(Alcatel Submarine Networks)は、海底ケーブルの製造・敷設とメンテナンスで世界的に有名な企業です。彼らの技術は、世界中の通信インフラに欠かせない存在です。

  • メンテナンス手法: ASNは、専用のケーブル敷設・メンテナンス船を保有しており、これを用いて損傷したケーブルを修理します。特に、海底ケーブルの交換や、破損箇所の切断・再接続作業を効率的に行う技術を持っています。ASNはまた、ケーブルが損傷するリスクを最小化するための事前調査とモニタリングも実施しており、これにより早期に異常を発見することが可能です。

3. NEC

  • 概要: 日本のNECも、海底ケーブルの敷設とメンテナンスにおいて世界的な企業の一つです。特にアジア太平洋地域での海底ケーブルプロジェクトで重要な役割を果たしています。

  • メンテナンス手法: NECは、ケーブル敷設船やROVを使用して、深海でも正確にケーブルを修理する技術を持っています。また、深海の環境に対応できる耐圧設計のケーブルを提供しているため、耐久性に優れたケーブルのメンテナンスを行っています。NECのメンテナンスでは、損傷箇所を特定した後、ケーブルを一時的に陸上に引き上げて修理する手法も採用されており、高精度な修理が可能です。

海底ケーブルのメンテナンス手法

1. ケーブル敷設船による修理

海底ケーブルのメンテナンスでは、まずケーブル敷設船が現場に向かい、問題が発生している箇所の特定を行います。敷設船には、ケーブルの状態を確認するためのソナーやカメラが装備されており、海底の状況をリアルタイムで確認することができます。

損傷が確認されると、船上から専用のケーブルグラッパー(ケーブルを引き上げるための工具)を使ってケーブルを持ち上げます。その後、ケーブルを修理して再び海底に戻す作業が行われます。このプロセスは、天候や海流、作業海域の深さによっては数日から数週間かかることもあります。

2. ROV(遠隔操作潜水機)の利用

ROV(Remotely Operated Vehicle)は、海底ケーブルのメンテナンスにおいて非常に重要な役割を果たします。ROVは無人で操作でき、海底の深い場所でもケーブルの状態を調査し、損傷を確認することができます。また、ROVはケーブルの切断や接続、補修作業を行うことも可能で、深海での作業が必要な場合に特に重宝されます。

ROVのカメラやセンサーを通じて、ケーブルの細かな損傷を確認し、必要に応じてケーブルの一部を交換することができます。ROVによる作業は、人間が潜水して行う作業に比べて安全で、深海でも迅速に対応できるという利点があります。

3. ケーブルモニタリングシステム

近年では、リアルタイムでケーブルの状態を監視するモニタリングシステムも導入されています。これにより、ケーブルの異常を早期に検知し、問題が大きくなる前に修理することが可能です。たとえば、ケーブルに取り付けられたセンサーが電圧の異常や物理的なストレスを感知した際に、警告を発する仕組みです。

このモニタリングシステムにより、地震や津波などの自然災害によるダメージや、漁業活動による物理的な損傷も早期に検知でき、迅速なメンテナンス対応が可能になります。

海底ケーブルメンテナンスの課題

海底ケーブルのメンテナンスは、その高度な技術と設備が求められる一方で、いくつかの課題があります。

  • コストの高さ: 海底ケーブルの修理は、ケーブル敷設船やROVの使用、長期間にわたる作業など、多大なコストがかかります。特に、深海での修理はコストが高くなるため、メンテナンス計画の最適化が重要です。

  • 気象条件の影響: 修理作業は天候や海流の影響を強く受けます。嵐や高波の中では作業ができないため、天候を見極めた上で作業を行う必要があります。また、天候の変化によって作業日数が予想以上に延びることもあります。

  • 深海での作業の難しさ: 深海でのケーブル修理は、高い圧力や低温といった厳しい環境下で行われます。深海に設置されているケーブルの修理には、ROVや特殊な耐圧設備が不可欠であり、技術的な難易度も高いです。

まとめ

海底データケーブルのメンテナンスは、私たちがインターネットを日常的に利用できるようにするために欠かせない作業です。SubComやASN、NECといった企業が、最先端の技術と設備を駆使して、海底での修理を行っています。その技術には、ケーブル敷設船やROV、モニタリングシステムなどが含まれ、深海の過酷な環境に対応できる高度な技術が求められます。

普段はあまり目にすることのないこの世界ですが、海底で行われているメンテナンス作業のおかげで、私たちはスムーズにインターネットを使い続けることができるのです。技術の裏側を知ることで、インターネットのありがたみを改めて感じることができるかもしれません。

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