強みを活用したブランド拡張(2/2)
「ブランド拡張」とは、既存ブランドを活用して新たな商品を展開することである。売上を伸ばす1つの手段として強いブランドを保有する企業で検討されることが増えている。前回の記事では、「ブランド拡張とは何か」「ブランド拡張のメリットとは何か」について執筆した。
前回記事をざっくりおさらいすると、主に下記2つのことをお伝えした。
①「ブランド拡張」とは「既存のブランド資産を活かして新たな商品・サービスを作ること」であり、カテゴリ拡張とライン拡張の2種類がある。カテゴリ拡張とは、例えばダイエットサービスの「RIZAP」が英会話レッスン「RIZAP English」を展開することであり、ライン拡張とは、例えばコカ・コーラが従来にはなかった750mLのサイズを新しく出すことである。
②ブランド拡張のメリットは下記のようなことがある。
・大きなリスクを避けて一定規模以上の顧客獲得を狙える。
・拡張先のブランドが既存ブランドにもポジティブに影響する。
・ブランド拡張の成功が、将来の売上拡大の選択肢をさらに増やす。
今回の記事では、前回の続きとして「ブランド拡張の検討のステップとポイント」についてお伝えしたい。なお、「ライン拡張」は相対的に失敗リスクが少なく、検討が比較的容易であることからも、この記事では主に「カテゴリ拡張」について、その検討のステップとポイントを説明する。
目次
1. ブランド拡張とは (前回)
2. ブランド拡張のメリット(前回)
3. ブランド拡張の検討のステップとポイント(今回)
3. ブランド拡張の検討のステップとポイント
ブランド拡張(カテゴリ拡張)を成功させるために、会社として検討・意思決定をすべき論点は下記の4つである。ここでは、マクドナルドのブランド拡張を例に考えてみる。
論点①:どのカテゴリに拡張すべきか?
マクドナルドのブランドを活用して、お弁当屋事業を立ち上げることなのか、テーマパークを立ち上げることなのか、あるいは介護サービスを立ち上げることなのか、どの領域への拡張がベストかを判断しないといけない。
論点②:拡張先のカテゴリで、どのように親ブランドを使うべきか?
拡張先のカテゴリにおいて親ブランドをどの程度活用するのかという判断である。もし仮に、マクドナルドがスーパー事業にブランド拡張をするとする。そのスーパー事業のブランドネームとしては「マクドナルド スーパー」「マクドナルド MORIMORI(※筆者が適当につけた新ブランド)」「MORIMORI by マクドナルド」などの選択肢がある。どの選択肢も全て「マクドナルド」のブランドを活用しているが、その活用の度合いや戦略が異なるため、どんな使い方が適しているかを慎重に判断する必要がある。
論点③:誰に対して、どのようなブランド価値を届けるべきか?
対象市場におけるマーケティングターゲットを設定したり、そのターゲットに対するベネフィット(機能的/情緒的)を設計することである。一般的には「マーケティング戦略」や「STP戦略」と呼ばれることが多いステップである。仮にスーパー事業に進出して「マクドナルド スーパー」というブランドを出すことにした場合、例えば「ファミリー層」というコアターゲットに対して、「低価格な加工食品をスピーディーに買える」という価値を届ける、等の事業の大方針をデザインする必要がある。
論点④:上記で定めたブランド価値を、どのように届けるべきか
③で定めた価値を実際に顧客に届けるために、具体的にどのような4P施策を実行するかを決めることである。例えば、スーパーの中のレイアウトはマックカフェのように少し落ち着きがありつつも一部ポップさも残す、立地は郊外エリアを中心にまずは展開する、価格はどこよりも安く設定する、新聞チラシを郊外エリアのファミリー住宅に入れる、等、検討すべき領域は多岐にわたる。
「ブランド拡張」を成功させるためには当然ながら①~④全てが大切であるが、②はブランドマネジメントやブランド体系のお話であり、③、④はブランド拡張固有の話ではなく、商品マーケティング戦略のお話である。そこで、この記事ではブランド拡張で最も重要な判断になる「①どのカテゴリに拡張するか」について、その検討のステップとポイントを説明したい。
結論としては、下記の3ステップで検討するのが良いと考えている。
ステップ①: ブランド拡張の目的・目標の明確化
まずは、ブランド拡張をする目的や目標の設定が大切である。目的・目標の内容は企業によってまちまちであるが、例えば「既存ブランドで売上100億円を、ブランド拡張によって10年後には200億円を目指したい」という定量的な設定がされているケースはよくある。他にも、「自社の企業理念を実現するために、既存ブランドの顧客に提供できる他の事業領域に拡張する」という定性的な設定がされているケースもある。他にも、「高価格帯ライフスタイル領域で国内No1になる」という抽象度の高い目標が設定されるケースもある。ブランド拡張を検討する基軸や制約となるものとなるため、最初に確認するのが望ましいが、経営層から特に明確に与件等が設定されないケースもあると思う。しかし、仮でも良いので今回検討する「ブランド拡張」が会社の理念や目標・戦略にとってどのような意義・意味を持つものとするのかを言語化・定量化し、関係者間で視界合わせをすると良い。そうすることで、次以降のステップがスムーズになるように思う。
ステップ②:ブランド拡張するカテゴリ候補の洗い出し
次のステップは、拡張先の候補をとにかく洗い出す。皆さんであれば、マクドナルドのブランド拡張先をどう考えるだろうか?自由にアイディアを発散することが基本であると思っているが、ここではコツをお伝えする。まず第一に「そもそもブランド拡張に活かせる自社のブランド資産・強みには何があるか」を意図的に広く深く認識することからスタートするべきである。なぜなら、成功しているブランド拡張は必ず「元のブランド資産をうまく活用している」からである。いくらブランド力が強くて認知が広くても、自社のブランドの強みを間違って捉えてしまうと、普通に失敗する。過去、ユニクロは野菜事業に失敗した。ソニーもスキンケア事業に失敗した。
ちなみに、ブランドの資産・強みを整理するフレームワークは何でも良い。ここでは、筆者が使用しているフレームワークを紹介しておく。下記5つの視点で洗い出すことが多い。
①ターゲット ・・・どのようなユーザーイメージがあるか
②パーソナリティー ・・・どんなイメージ・人格を持つか
③心理的ベネフィット・・・どのような心理的な便益を感じられているか
④機能的ベネフィット ・・・どのような機能的な便益を期待できているか
⑤エビデンス ・・・上記③、④を信じることができるエビデンスは何か
(例)マクドナルドの強みは?
①ターゲット(利用者のイメージも含む)
ファミリー、学生、ビジネスパーソン、キムタク、・・
②パーソナリティー
親しみやすい、遊び心ある、ポップ、ハッピー・・・
③心理的ベネフィット
前向きになれる、幸せな気分になれる・・・
④機能的ベネフィット
安くて早い、美味しい、空き時間を過ごせる、・・・
⑤エビデンス
100円マック、笑顔の接客、話題性あるキャンペーン、コーヒーセット・・・
「強み」を洗い出す上で、特に注意すべきは「自社が何を大切にしているか」ではなく「顧客がどう認識しているか」を理解することである。例えば、自社は「味までこだわっている」のが強みだと思っていても、顧客がそう思っていないのだとすると、それはブランドの強みとは捉えるべきではない。これは当たり前のことであるが、ここがずれているケースが本当に多いため、可能であれあ市場調査を実施して、客観的にブランドの強みを把握することを強く推奨する。
既存のブランド資産を広く認識することができたら、次はそれを意識しつつ、有望カテゴリをとにかく洗い出す。アプローチは大きく2つある。
拡張カテゴリ候補を洗い出すアプローチ①:社内基点で考える
ブランドの強みから発想する
例えば、「安い」「サービスが良い」などのブランド連想が強みだとすると「100均への展開はどうか?」「テーマパークはどうか?」などその強みが生かせそうな事業カテゴリを発想してみる。
ブランドの理念から発想する
例えば、マクドナルドは「Our Purpose」として「おいしさと笑顔を、地域の皆さまに」を掲げているため、食領域にフォーカスして思考し、「アメリカンレストランを展開してみてはどうだろうか?」「ステーキショップを展開してみはどうだろうか?」などと発想してみる
ブランドが持つ技術から発想する
例えば、マクドナルドは「接客サービスの教育体系」が整っているため、それを活かして「ホテル事業やテーマパーク事業」などはできないだろうか?」などと発想してみる。
拡張カテゴリ候補を洗い出すアプローチ②:マーケット基点で考える
市場性がある事業カテゴリを発想する
例えば、近年はフードデリバリーサービスが伸びているので、マクドナルドとしてそのサービスを立ち上げることができないか?理念とも合致していそうだ・・・などと考える
現ユーザーの生活から発想する
例えば、マクドナルドに来てくれる家族層は子供が小さいことも多いので、子供向けのお菓子を開発してスーパーとかコンビニに置けないかな、などと考える。
非ユーザーに価値を届ける方法から発想する
例えば、今マックに来ていない人は「物足りない」「おいしくない」と思ってきていなさそうだな。だとすると、少し高くても良質な肉を使ったステーキショップとか出したら興味持ってくれるかな。。。いや難しいかな・・・などと考える。
もちろん、拡張先のカテゴリの洗い出す考え方は他にもある。この洗い出しのステップで重要なことは、拡張先として多少の違和感があったとしても、少しでもチャンスがあると思えるものは意図的に残しておくことである。例えば、マクドナルドであれば、比較的すぐに思いつきやすいフードデリバリー事業やレストラン事業だけでなく、テーマパークやホテルなど、「少し遠いかな」というところまで意図的に洗い出してチャンスを模索したいところである。ただし、ステップ1で確認した目標や制約を踏まえて明らかに違うもの(例えば目指す目標感に対してマーケット規模が明らかに小さぎるカテゴリや、企業理念と明らかに合わないカテゴリ、等)は排除しても構わない。
ステップ③:上記の候補の判断と、拡張するカテゴリの決定
広くカテゴリ候補を洗い出したら、複数の基準で評価する。目標や企業の方針によってどんな基準を重視して評価するかも異なるため、ブランド拡張の目標を踏まえ、評価基準そのものに優先順位をつけておくと議論しやすい。
評価基準①:既存ブランドカテゴリと新しいカテゴリの適合性
既存ブランドが所属してるカテゴリと、拡張先のカテゴリが補完的な関係性にあったり、両者の関連性が強いかどうかを評価する。例えば、ファストフード事業とフードデリバリサービス事業は適合性があると言えそうだが、ファストフードと日本酒事業は適合性がなさそうである。
評価基準②:既存ブランドの拡張先カテゴリにおける信頼性
例えば、マクドナルドのテーマパーク事業へのブランド拡張は「楽しい」「家族」という観点でいくと適合性が悪くはないと思われるが、アトラクションやコンテンツとしての魅了性、テーマパークとしての安全性が消費者から十分に想起されるかというと、慎重な判断が必要になりそうである。
評価基準③:拡張先カテゴリの市場性・成長性
市場性が十分あり、今後伸びそうな事業カテゴリ領域かを判断する。
評価基準④:実現可能性(既存のブランドとのシナジーの程度)
既存ブランドと技術的なシナジーが働きやすく、既存ブランドの資産をどの程度活かせるのかを判断する。例えば、マクドナルドの店舗運営という技術を活用できるという意味では、ホテル運営よりも、レストラン運営の方がブランド拡張としての実現可能性は高そうである。
評価基準⑤:親ブランドへの影響
ブランド拡張の結果として、マクドナルドのブランドイメージの希薄化が抑えられ、ポジティブな影響が及ぼされる可能性がどの程度あるかを判断する。例えば、極端な例ではあるが、マクドナルが高価格帯ラグジュアリーを出してしまうと、マクドナルドの「安くて親しみやすい」というブランド価値が薄まってしまう。そのようなリスクが大きくないかを見極める。
評価基準⑥:ブランドの理念や目標・企業意思
マクドナルドのブランドが目指す世界観にどれだけ近づけるか。また、意思を持って社員を巻き込んで強化できる領域であるかを判断する。
以上の6つの基準で評価する。実現可能性を重視する組織であれば①や②を特に重視し、売上規模を重視する大企業であれば③を重視し、理念ドリブン型の組織であれば⑥を重視するなど、どんな組織タイプであり、どんなブランドの拡張を考えているかによって、評価軸の優先度は異なってくるのが普通である。しかし、少なくとも上記⑥つの観点で広く検証していれば、大きな失敗を犯すリスクは低減できる。各観点での評価は定性的に判断する場合もあれば、市場調査を実施して定量的かつ客観的に評価する場合もあるが、大切なのは1つの視点に偏らずちゃんと6つの視点(広い視点)からフラットに評価をすることである。
今回は以上である。2回にわたってブランド拡張について説明をしてきた。既存ブランドの成長の選択肢の一つとして、ぜひブランド拡張を視野に入れて検討していただきたい。