お前はフィリピンへ行け!
夏が来た。梅雨のどさくさに紛れてひっそりとやってきた。日本の夏は実に5年ぶりなので、汗でTシャツが身体に張り付く感覚になんとも言えぬ懐かしさを覚えている。オーストラリアも真夏は40度を記録する地域こそあるが、基本的に湿気はないので発汗量は少なくて済む。日本の夏は辛い。辛いけど、日本を凌ぐ凄まじさを誇る国を僕は知っている。
初海外はフィリピンだった。2018年の7月だからちょうど6年前、僕はセブの語学学校に1ヶ月短期留学をしていた。その時の出来事は毎日このnoteに日記を綴っていたので興味がある方は後で読んでいただきたい。
飛行機にも乗り慣れていなかった僕は、決死の思いで関空発マニラ経由セブ行きの飛行機で目的地についた。下宿先への道中にどデカいネズミの死体があって、しかも汚い野良犬がその周りをウロウロしていたのを見て「日本に帰りたい」と秒速で思ったものだ。
7月のフィリピンは雨季で、比較的涼しいシーズンらしいが、蒸し暑さのレベルが日本のそれと一段階違った。外なんて歩けたもんじゃない。ただ、物価は安いのでタクシーを使いまくったことをよく覚えている。英語にも海外にも慣れていないのにタクシーなんて!と今では思うが、それくらい外はサウナだったのだ。
逆に学校のクーラーは効きが良すぎて驚いた。初日は上着の用意をしていなかったので、再び汗だくになりながら、わざわざ宿泊先へ上着を取りに帰ったことを覚えている。汗だく→凍え→洪水発汗→防寒というアジアセルフサウナにより、到着して早々に体調を崩したのは言うまでもない。
タクシーで信号待ちをしていると、後部座席の窓をノックされ、何かと思って覗くと小さな子どもが水を売りに来た。後ろでは母親らしき人物が我が子の後ろ姿を眺めている。死ぬほど暑いのに、外で毎日こんなことしてるのか。買ってあげてもよかったが、水の品質が心配だったのでやめた。
そんなちびっ子商人とは1ヶ月の間に何度も出遭った。最初こそ僕は申し訳なさそうな感じを出して断っていたが、次第にスルーの作法を覚え、外の暑さに同情することもなくなった。
夏の汗はあの親子を思い出させる。6年も前だから、今は死んでいてもおかしい話ではない。あの時1本でも買ってあげればよかったのだろうか。
日本の暑さも異常だが、フィリピンはもっと異常だったぞと、暑い暑いと文句を言いながら歩くその辺の若者に言ってやりたい。そしてこう続ける。20代のうちにフィリピンへ行ってこいと。フィリピンへ行って、道端の少年たちから僕が買えなかった分も水を買ってきておくれ。別に飲まなくたっていいじゃないか。花壇に水をやろう。きっと綺麗な花が咲く。