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ショートショート①「ヴィレッジ」
爆発しそうな吐息を懸命に抑えつつ俺は今日出会ったばかりの女をベッドに押し倒した。この女、どうやらなかなか溜まってる。
飢えた理性がぶつかりあった時というのはシャワーも浴びないものだ。俺は女の上の服を乱暴に脱がし、盛り上がってきたところで攻守交代し今度は女が俺の服を脱がし始める。
「ちょっとストップ」
シャワーや前戯よりも大切なことを今のうちに言っておく必要があった。俺はベルトを外し、自らズボンを脱いだ。
「右脚、ないねん。膝から下」
そう、3年前の事故の影響で俺の右脚は銀色のサイボーグのようになっている。努力して身につけたバランス感覚で、ごまかそうと思えばごまかせるのかもしれないがちゃんとカミングアウトしておくのが筋だろうということで、こうしていつも言うようにしている。
ズボンを履いていればバレない。そのせいでいくつものセックスが試合開始直前の始球式で逃げていった。逆に未知なる性癖に目覚めた者もいた。
「今更何よ。カッコいいじゃん。アメリカ製?それ」
始球式の球を、彼女は空振りしてくれた。よし試合開始だ。そこからはもうお互いに動物である。どうしてベッドの上になるとこうも人が変わってしまうのだろう。俺は彼女の上に乗る体勢に入った。
「ごめん、ちょっと待ってね」
いや、俺はもう、待てなかった。
彼女の腕を引きちぎってベットの外へ投げ捨てた。
俺は病気だ。頭がおかしいのだ。冷静さを欠いて獰猛になり、自我をコントロールできなくなる。
まとめよう。この部屋には男女が二人いて、目玉は4つ、耳も4つ、指は15本、腕は3本、脚は3本という内訳だ。
「悪い。もっと丁寧にするべきやったな」
興奮と狂気は、似ている。あとは貪り尽くすだけ。
彼女もどうやら覚悟を決めたようだ。
☆
「あいつ今日も部屋に連れ込んでるらしいぜ。女」
「マジかよ。明日試合だってのに。まあ、ここはそういう“村”だからな」
「というか生で見てびっくりしたけどあいつ普通に違和感なく歩けてるよな。車椅子なくてもプロバスケでやれんじゃね?」
「それ思った。んで、今日は誰を連れ込んでるの?」
「テコンドーの村瀬っていう選手らしいよ」
「あの子か。開会式で見たけど性格キツそうだった」
「にしても緊張するな。明日」
「世界で放送されるんだろ、俺たちのバスケが。考えられない」
「4年に1度だから余計に高ぶる」
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