閑話休題 公益通報受付窓口担当であったときに公益通報者保護法について学んだこと・考えたこと その3
公益通報の秘密の保護
公益通報者保護法は、ざっくりいえば公益通報をした人を保護するための法律なのですが、法律上は公益通報者に対する不利益取扱いの禁止を定め、また、事業者に公益通報者の保護を図るための措置をとることを求めているだけで、公益通報者保護法には公益通報に関する秘密を保護すること自体の定めはありません。
もっとも、消費者庁が国の機関や地方公共団体向けに出しているガイドラインには公益通報に関する秘密の保持が定められています。
具体的には、国の機関や地方公共団体が公益通報者保護法3条2号の通報を受けた場合については、通報者の特定につながりうる情報を調査対象となる事業者に伝えないことや、通報や通報に関する相談に対応した職員(以下「通報対応職員」といいます。)は通報又は相談に関する秘密(以下「公益通報に関する秘密」といいます。)を漏らしてはならないことが定めています。
また、国の機関や地方公共団体が公益通報者保護法3条1号の通報を受けた場合については、通報対応職員の守秘義務や公益通報者を特定しようとする行為を行うことを防ぐ措置をとることを定めています。
もっとも、「公益通報に関する秘密」については、公益通報者保護法にもガイドラインにも詳細な記述はなく、何が「公益通報に関する秘密」に含まれるのかについては解釈に委ねられている状態になっています。
私が消費者庁の公益通報受付窓口担当であったときの考え方としては、(1)公益通報者の氏名や住所等、公益通報者を特定することができる情報、(2)公益通報者が公益通報してきたこと(「消費者庁が通報内容を把握したのは公益通報によるものであること」と言い換えることもできます。)が公益通報に関する秘密に含まれることは間違いないと考え、そのように取り扱うようにしていました。
難しいのは、通報内容から通報者が特定できる場合、通報内容自体を秘密として取り扱う必要があるか、というところなのですが、通報内容に含まれる事実関係について、消費者庁の所管する法令に違反し、行政指導等を行うことになるかどうかを調査しなければならないので、通報内容自体を完全に秘密にすることはできないということになります。もっとも、通報者の保護はとても重要ですから、できるかぎり通報者が特定できないような形にしつつ、通報内容を担当部署に伝えるというような工夫をしていました。
少なくとも、ガイドラインやそれに基づいて定められた内規を意識するならば、公益通報者が特定されるような事態は避けなければならない、というのが公益通報を受け付けた行政機関のあるべき姿といえるでしょう。ガイドラインや内規上は、通報対応職員について、公益通報者が特定されないような措置をとることが求められているわけですが、行政機関として公益通報者を特定するような行為をすることは避けなければならないというのが、ガイドラインから導かれるところであると考えています。
そもそも、「公益通報に関する秘密」が守られなければならないのはなぜか、というところに立ち返ると、(1)公益通報に関する秘密が保持されることで、公益通報者に対する不利益取扱い等を未然に防止することができ、公益通報者の保護が図られる、(2)不利益取扱いが行われない状況を確保することで公益通報を行いやすくし、事業者における法令遵守を図ることができる、ということが理由として考えられ、これらは、公益通報者保護法1条に定める目的に合致するものということができます。
すなわち、公益通報者保護法の趣旨からすれば、「公益通報に関する秘密」が守られなければならない、ということになると考えられます。
こういう考えから、消費者庁の策定したガイドラインでは、「公益通報に関する秘密」を守ることが取り入れられたと理解しています。
「公益通報に関する秘密」を守るという場合、当該公益通報が公益通報者保護法3条各号の要件を満たすか否か、あるいは、行政機関の定める通報対象事実に該当しているか否かということは何ら関係がありません。法3条各号の要件を満たさない通報であった場合に秘密が守られないとすれば、通報者は安心して通報することができず、公益通報を行いやすくするということに反する結果となるからです。
なお、特定の人がこのようなことを通報したという事実は、生存する個人に関する情報であって、個人を特定することができる情報ですから、個人情報保護法との関係でも保護すべき情報になると考えられます。個人情報保護法が国の機関や地方公共団体にも適用されるようになっていますから、こちらの側面からしても、公益通報に関する秘密の保持は必須であるということになります。
今回の記事は、法令上明瞭な記載のない「公益通報に関する秘密」の保持というところを説明したものであり、また、私が消費者庁の課長補佐として職務遂行していたときの実際の考え方を示したものです。公務員の皆さんには参考にしていただければと思います。