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クリスマスイブはボルシチを作ろう(日記)


クリスマスイブはボルシチを作ろう。そう思い立ったのは先週の水曜日くらいのことだ。

諸事情で「職場の他の人たちが皆出前をとる中、一人自分で作った弁当を食べる」という謎の状況が発生し、その状況に耐え得るご馳走を作らなければならなかったからだ。

(苦手なものがあり、出前は任意だと聞いていたので断ったら皆頼んでいた、という空気が読めない社不エピソードなだけで、別に職場の人たちに非はない)


なぜボルシチ、と言われると難しいが、「いつでも自分好みのボルシチを食べられるわけではない」という意味で、わたしの中では少し敷居が高い食べ物だからだ。

ボルシチはウクライナ発祥の料理で、わたしが留学に行ったロシアでもポピュラーな料理だった。ただ当時、店でボルシチを食べた記憶はない(材料を買って作ったことはある)。


寮で作ったボルシチ。ロシアの食材は日本よりだいぶ安いが外食すると高い。後ろにあるのはスメタナ(後述)



日本でもボルシチを食べることはもちろんできるが、市販されているボルシチは味が濃く、トマト風味が強い。ボルシチにはビーツが入っているが、味にかなり癖があるので、日本人好みの味にしようとするとどうしても他の味を強くする必要がある。


本場に近いボルシチを食べるなら、ロシア料理店で食べるのがおすすめだ。トマトの風味もありながら、ビーツの素朴な味わいも感じられる。

ただし、ロシア料理店というのはそうそう近くにあるものではない。ロシア料理店は東京や大阪など、大都市に集中しているので、田舎者は店を探すのも一苦労だ。

新宿にあるロシア料理店、スンガリーのボルシチ。黒パンがついているのもうれしい。


店で食べられないなら作ってしまおう、というわけだが、実際のところボルシチは思い立ってすぐ作るには割とハードルが高い。

まず、ビーツをどこで買うか、という問題がある。

生のビーツは、八百屋や市場に行けばあるのかもしれないが、普通のスーパーの野菜売り場で見かけることはあまりない。赤かぶやラディッシュは見かけるが似てるようで違うので注意だ。

生のものがなければ、ビーツの水煮缶を買うとよい。これは比較的大きめのスーパーだとある確率が高い。輸入食品を扱っている店にも置いてある。

ビーツの水煮缶。アメリカ産
中身の半分以上はワインみたいな色の煮汁。捨てずにとっておこう。


次に、スメタナをどう調達するか、という問題だ。

スメタナは、端的にいうと「ボルシチの上に乗っている白いクリームみたいなアレ」のことだ。

「え?あれってサワークリームじゃないの?」という声が聞こえてくるが、スメタナとサワークリームは別物だ。サワークリームは脂肪分が高く、硬くて酸味が強いが、スメタナはさほど酸っぱくない。生クリームとヨーグルトの間の様な風味がある。


ロシアでは当たり前のように市販されている。一番美味しかった脂肪分20%のスメタナ。


スメタナがすごいのは、サワークリームと違い、食べ物の味を劇的に変えてしまうことなく、コクやまろやかさ、栄養価を足すことができる調味料という点だ。パンにつけてもよし、紅茶のアテに食べてもよし。スープにも合うし、デザートにも合う。

ペリメニ(餃子みたいな食べ物)に添えられた大量のスメタナ。



スメタナをボルシチの添え物に過ぎないと思っているなら、大きな間違いだ。


スメタナがなくてもボルシチは作ることができるが、味を濃くしたりトマトを入れすぎずにビーツの癖をおさえ、おいしいボルシチを作りたいなら、スメタナは必要だ。

(逆に言えば、トマト味がメインのボルシチにはそこまでスメタナはいらないかもしれない)

そんなスメタナだが、残念ながら日本では市販されていない。ただしスメタナはヨーグルトと生クリームを混ぜて一晩寝かせておくとできるので、意外と簡単に作ることができる。

……が、生クリームを中途半端な量買って残すのが嫌だったので、今回は代用品(ジェネリックスメタナ)として生乳100%ヨーグルトを使用した。

ヨーグルトをコーヒーフィルターの上に乗せ、ラップをして冷蔵庫に放置し12時間くらい水切りしたものを今回のジェネリックスメタナだ。

生クリーム入りヨーグルトは加糖のものが多い。無加糖の生乳ヨーグルトを水切りした方が味は近い



レシピについては下記のレシピを参考に作った。牛肉の値段が高いのに怖気付いて肉を豚肉に変え、代わりにブイヨンを2個入れた以外、材料は同じだ。


まず肉を茹でた。本当は牛肉でブイヨンをとる過程だが、今回は豚肉使用のため実質的には豚肉下茹で+固形ブイヨンを溶かした。

肉を煮る
めっちゃ灰汁が出る
豚肉+固形ブイヨン


肉を煮ている間、野菜を切るのにてんやわんやだった。ボルシチにはとにかくたくさん野菜を入れる。野菜なんてなんぼ入っていてもええですからね...…


皮を剥き切ったジャガイモを煮る
次に千切りキャベツ(多すぎたかも)
ビーツとにんじんを入れると急に「ボルシチ」感が出た。ビーツの煮汁も一緒に入れる。


煮込みながら適宜味見をしたが、一番最初の状態はやはり、ビーツの癖が強すぎた。トマトペーストやコンソメ、塩胡椒など色々入れて、ようやく納得できる味になった。


しばらく煮てトマトペーストを足したあと

味付けの段階では多少物足りなくても問題はない。何せこちらには(ジェネリックだが)スメタナがある。塩さえ適切な量入っていればスメタナで大抵の料理は美味くなる。ちょっと「うーん」と思っても、スメタナを信じてトマトは少なめにすると本場っぽい味になる。

(あと、もしディルがあればスメタナと一緒に盛り付けるとよりそれっぽくなる)

というわけで完成したのがこれだ。


自家製ボルシチ〜ジェネリックスメタナを添えて〜

めっちゃ美味そうなボルシチだ!?!?

食べてみると、ビーツの風味とトマトの味のバランスがちょうど良く、豚肉なので牛肉バージョンとはちょっと味が違ったが十分美味しかった。

ボルシチは「しょっぱい!肉汁!うまい!」というよりは野菜の素朴な味を楽しみ、食べると身体が温まるような料理だ。

さらにスメタナをたっぷり入れると(サワークリームほど酸っぱくないので混ぜて汁がピンクになるくらい入れちゃってもいい)コクが出て美味だ。パンにも良く合う。


ボルシチとパンケーキ
〜ティータイム中のゲゲ郎・水木を添えて〜


めちゃくちゃ不純な動機から作り始めたボルシチだが、思った以上にいい出来で、いいクリスマスイブになった。

みなさんもぜひ、お家でボルシチを作ってみてくださいね。

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黒パンがもし入手できたらボルシチと一緒に食べてみたい。黒パンはよく食べていたので本当に思い出の味だ(とらつぐみ・鵺)