【42】試合直前
色々と不調な面もありながらも何とか試合当日を迎えることが出来た僕…
この試合を最後と決めていた僕は、並々ならぬ覚悟を持って日本ランカーにチャレンジすることとなったのです。
そしてこの試合、Toneさんと話し合って『自分に勝つ!』という最後の目標を立てていました。
普通に考えれば、恐らく僕は早いうちに倒されるでしょう…
しかし倒されることや負けるなんてことは大した問題ではない!人生においてそんなことは些細(ささい)なことです!
それよりも逃げずに戦うこと!最後まで前に出続けること!自分に負けないこと!恐怖に打ち勝ち前に出続けることこそが、僕が最後この試合で絶対にやりとげなければならないことなんだ!
倒れる時は前に倒れろ!
パンチを出しながら前に倒れろ!!
それで負けたなら何1つ後悔なく終われる…
こうして試合直前、裏の通路で待機していた僕は緊張や恐怖、そして引退試合という極度の重圧から一言もしゃべれずにいました。
そして、静かに目をつむりながらこれまでのボクサー人生を振り返っていたのです。
約9年の現役生活…
消して順風満帆とは言えなかった。
途中恐怖に飲み込まれ、何度も逃げてしまった…
本当に親を殴り殺してやりたいくらい憎んだし、恨んできた…
しかしそんな中出会ったのがToneさんだった…
消して楽な道ではなかったけど、やっとのことでA級までたどり着くことが出来た!
しかし、前回の試合でまたしても恐怖に飲み込まれ逃げてしまった…
不甲斐ない自分、情けない自分、弱い自分…
一体どこまで逃げ続ければ気が済むのだろうか…
もう逃げたくない!最後くらい胸を張れる試合をしたい!出し切って試合を終えたい!
僕は何度となく自問自答を繰り返していました。
そして…まさに試合直前でした!
ギリギリの緊張状態の中ついに自分自身に答えを出すことが出来たのです!
苦しみ抜いたボクサー人生
逃げ続けてしまったボクサー人生
裏切り続けてしまったボクサー人生…
そんな僕が最後の最後、自分自身にケジメをつける為にたどり着いた境地…
それは…
『今日ここで死んでもいい! だから、絶対逃げない!』
これが僕が最後に出した答えでした。
自分という人間の生きたあかし…最後くらい男の生き様を見せたい!
試合直前、会場では僕がこの試合で勝っても負けても引退ということがアナウンスされていました!
そんなアナウンスがあったとは知らずに、舞台裏で待っていた僕は目も開けられないほどに緊張し恐怖と戦っていたのです…
そんな僕を不安そうな表情で見つめるToneさん。
この時一体何を思っていたのか…
正直、僕みたいなメンタルの弱い選手を担当するのはトレーナーとして本当にしんどいことです。
しかし、最後まで僕を見捨てないでいてくれた…本当に感謝しかありません!
Toneさんの為にも最後前に出続ける!
倒れる時は前に倒れて終わる。
僕は絶対逃げない!
そして、いよいよ僕の出番がやってきたのです。
『シャー』
自分自身に気合いを入れる為、一言大きな声を出してから入場していく僕…
まともに目も開けられないほどの緊張状態の中、ついに最後のリングに上がったのです。
満員の観客…
眩しいばかりのスポットライト…
聞こえてくる大歓声…
これまで何度も戦い続けてきた後楽園ホールのリング…
それも今日で最後…
色々な思いが込み上げてきました。
そして、入場曲に合わせ相手選手もリングイン!こうして試合開始の時間がやってきたのです。
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