【物語る映画ポスター23】バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
主人公のリーガンは、
落ち目のハリウッド俳優。
20年もの間、ヒット作に恵まれず
過去の人になりつつあった。
再起を図るため、
自らプロデュースする
ブロードウェイの舞台で
主役を演じることに。
冒頭、楽屋で宙に浮く主人公。
SF映画?空想?
本作は、現実と妄想の境があいまいです。
パンツ一丁という出で立ちも
あとあと効いてくる伏線の一部。
絵面のインパクトは大きい。
過去に演じた、人気者の
「バードマン」が頭の中で
話しかけてくる。
かつての栄光の象徴が
今の自分を叱咤し、奮い立たせる。
本作のポスターは
主人公リーガンと
「バードマン」の
視覚的に入り混じっている様を
描いているものが多い。
美しくもあり、
少しグロテスクでもある。
「自分」の境目を
何者かが侵してくるというのは
たぶん、苛烈なこと。
ややもすれば、
自我が乗っ取られるかもしれない。
危険だけど、強力。
主人公は、
再起をかけた大舞台に向けて
バードマンの力を借りながら
感情に打ち勝っていく。
羽ばたきたい。
役者としての夢。
返り咲くために、必要なものとは?
その視線はやや上を向いている。
ブロードウェイの上空を
風をきって滑空する。
映像的なおかしみが、
本作にはスパイスのように
散りばめられています。
ある一言によって、
現実に引き戻されますが
そのバランスと小気味良さは
絶品です。
白ブリーフ1丁で
ブロードウェイの人混みの中、
走る中年男。
小さなトラブルで生まれた
この疾走は、
現実に舞台を成功させるための
この上ない広告になった。
それはバードマンとしての服装
そのもの。
物語が進むにつれて
身体、衣装が、
バードマンになっていく。
本作は、全編ノーカット風の
長回しで展開されます。
現実と空想の境が
あいまいなのに加えて、
舞台と舞台裏、
演技と実際、
役柄と本人と、
はっきりしているはずの
境界線を、鮮やかに取っ払って見せる。
映画の「区切り」自体も
どこにあるかわからなくなっています。
やがてバードマンは
本人の殻を突き破る。
羽を散らしながら昇天していく。
ラストは爽快でありながら
少し切ない着地に感じました。
あらゆる世界の区切りを
これでもかと取り除いた先にあるもの。
最後に見せた、
娘の「にこやかな表情」が
一つの答えになっている気がして
なりません。