『ザ・モデル』ー分業と共業、生産性を追求する自律的組織づくり、顧客ステージの管理と推進
買って良かったマーケティング本をリストしていくnote、その6冊目。
SaaS・サブスクリプション時代のマーケティング&セールスプロセスを図式化
2019年4月現在、多くの書店のビジネス書コーナーで面陳されているこの黒い本。そろそろ知らないでは済まされない「SaaS」「サブスクリプション」のキーワードを理解するために、外せない一冊であると評価されているからでしょう。
タイトルの『THE MODEL』とは何か?
一般的には、SaaS企業の代表格であるセールスフォース社が提唱する「売れる営業の仕組み」を指していますが、
本書では、そのセールスフォース社で日本展開の責任者を担っていた著者 福田康隆氏がこれをさらにブレイクダウンし、SMB(スモールビジネス)市場向けマーケティング&セールスプロセスの分業と共業のあり方を図式化した「レベニューモデル」を指しています。
製品づくりよりも組織づくり
さきほどの手書きバージョンは正直ほとんど読めたものではありませんが(笑)、2018年版の今に合わせて描き直された図がこちら。
・リード(見込み客)を見つけたら、先方が商談をしたくなるように仕向ける情報提供を行い、リードを育成する
・商談で失注しても、数ヶ月後にアプローチできるようリードリサイクルのフローを設ける
・受注後のスムーズなオンボーディング(製品導入)と利用拡大のため、トラブルシューティングを行う部隊とは別に、カスタマーサクセス部隊を置く
・etc…
大量の顧客と継続的な関係づくりをこなしていかなければならないSaaS・サブスクリプションビジネスでは、ビジネスプロセスをシステマチックに分業する必要がどうしてもでてきます。
そして分業によって各チーム各人がプロとして担当業務を研ぎ澄ませながら、ザ・モデルに従ってこれを統合し共業します。ここから先は個人の行動量がモノを言う世界なので、割と体育会系です。科学的な体育会系。
そもそもインサイドセールスの仕事は時間が限定される。リードにコンタクトするのに、早朝や深夜に連絡するわけにはいかないからだ。常識的な範囲としては朝9時から夕方6時位までと考えるべきだろう。そのうち昼食の時間を避けるとすると、1日8時間、週5日と言う時間的制約の中で最大限の成果を出さなければならない。営業であれば、件数を負わずとも金額の大きな商談を受注することでカバーできるが、インサイドセールスはそうはいかない。金額をコントロールするのは営業なので、数を重視するしかない。一見あたりにかける時間を30分と仮定すると、1週間で8時間× 5日× 2の80コマをどう使うかというタイムマネジメントの勝負になる。つまりどれだけ業務効率を上げられるかが成果に直結するのがインサイドセールスなのだ。 (P95)
特に顧客のリテンションがビジネスの成否に直結するSaaSのようなサブスクリプションモデルでは、最初に顧客が安心してサービスを利用できる環境作りが欠かせない。そのため窓口や体制の説明、サポートへの問い合わせ方法のガイド、トレーニングやコンサルタントのメニュー紹介、担当者への引き継ぎを丁寧に行う。その後、導入支援、活用促進、契約更新とプロセスが進むに伴い主担当者は変わっていくが、それぞれのプロセスが分断されないように関連部門が一体となって顧客をサポートしていく。これら全体の総称がカスタマーサクセスである。 (P181)
これらの引用部だけを見ても、かなり高い次元での生産性追求が前提となっていることがわかります。個人の業務プロセスの生産性向上と行動量の確保はどうしても必要であり、そこに裏技は無いということなのでしょう。
ザ・モデルを軸とした共業の前提として、こうした生産性高い行動量を個人個人が上司に指示されることなく自律的に供給できる組織となっているか?
優れた製品を作ることも大切ではあるけれど、業務プロセスごとに軍隊のように統率のとれた筋肉質な組織を作り上げることの方が重要で難しいことがわかります。
マーケの役割は顧客ステージを管理し推進する指揮者
このザ・モデルの共業において中心的な役割を担うのが、マーケティング部門です。
・認知を具体的なリードに変え
・集めたリードを的確にスコアリングし
・ホットなリードは前線の営業(フィールドセールス)へファストパスし
・ホットでないリードはインサイドセールスと育成しながら機が早く熟すよう、施策を切れ目なく出していく
本書では、こうしてオーケストラの指揮者のように組織をコントロールする存在として、マーケ部門を位置づけています。
ビジネスで売上を上げるため、指揮者たるマーケ部門は何をするのか?結局は、リードの数を1件でも増やすのがマーケの仕事なのではないのか?、著者はその疑問に対し、シンプルに「顧客ステージの管理者かつ推進者」であると答えます。
マーケティング部門はリードを獲得しなければならないといったプレッシャーなどから、セミナーを開催しよう、デジタル広告を打とう、新しいキャンペーンを実施しよう、というように施策から考えてしまいがちだが、これは順序が逆だ。マーケティングコミュニケーションの目的は、見込み客を次のステージに進めることである。顧客ステージを提起した後に、次のステージに動かすためには、どのようなチャネルが有効なのかを考えるのが正しい順序である。 (P90)
著者福田氏が、本場米国で一足早くサブスクリプションの洗礼を受け、日本でセールスフォースの立ち上げに成功したのち、マーケティングオートメーションツールを販売するマルケト社の日本代表者となったのも、マーケティングからビジネスを変えることの重要性を感じたからこそでしょう。
先日、そのマルケト社のマーケターにお会いしてお話しをお伺いした際、この『ザ・モデル』をよりマーケ実務に特化した本のご推薦をいただいたので、次回はそちらを取り上げてみたいと思っています。