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戦争の香り、平和の味がするワイン

なぜ戦争は無くならないのか? この命題は、世界中の老若男女が考えて続けている命題ではないだろうか? 理論的にはみんなが武器を手にすることなく、争いをやめればいいのだから一瞬にして、戦争なんて無くすことができる。どんな独裁者も戦う兵士、戦う相手がいなければ戦争はできない。誰も戦いたくなんてない。死にたくなんかない。でも、どうして戦うのか? と。

でも、それは一時的にも平和を享受している世界からの見方で、きっと戦争をしている当事者の見方ではないだろう。きっと戦争をしている多くの人たちも、別にしたくてしているわけではない。むしろ、大切なものを守るために、愛するものを守るために、と戦っているのではないだろうか。やらなければやられてしまう。相手を殺して生きるのか、相手に殺されて死ぬのか。そんな状況の中で単純な正しい理論は意味をなさないのである。

だからあきらめるのか。別に誰もあきらめているわけでも、あきらめたいわけでもない。みんな本当はただ幸せのなりたいのだ。みんな幸せのために戦っているのだ。戦争を知らない僕たちは戦いの末に幸せなんてないだろうと思うかもしれない。でも、戦争があろうがなかろうが、みんな幸せを目指していることは間違いない。みんな幸せになりたくて生きているのだから。

きっと誰もが何度も死んだ方がマシだと感じたことがあるだろう。特にこのような過酷な状況にいる人ならなおさらである。でも、それは平和の中に生きている僕たちも感じることのできる、いや、誰もが感じたことのある気持ちではないだろうか。でも、今、生きているのはきっと幸せになりたいという気持ちがあるからだ。それは頭で考えて幸せ、不幸せとかではなく、全身が、生命自体がそれを求めているのではないだろうか。それじゃないと説明がつかないことがたくさんある。

この戦場でワインを造り続けてきたものたちもきっとそうだろう。命よりも大切なもの。いや、命をかけてでも手に入れたい幸せがある。それがワイン造りだった。普通の人は命の方が大切だろう。やるとしても他の場所でもいいだろう、と思うだろう。でも、この場所で造ることが彼ららのやりたいことであって、それはもうそうせざるを得ないという、それはもう意地とかプライドとかではなく、魂の欲動ではないだろうか。死ぬか生きるかなんてことを超えて、最高のワインを造りたい。まさに彼らは、哲学の父ソクラテスの言葉「食べるために生きるのか、生きるために食べるのか」に、「生きるために食べる」と答えたものたちだ。

人はそういう人たちをすごい人たちだ、偉大な人たちだと言う。でも、あなたがいまその場所で、そのことしかできない、そうせざるを得ないというのと何も変わらないのでないかと思う。生きる意味、もし天命みたいなものがあって、それを生きる人たちにとって「食べるために生きること」よりも大切なことがあるのである。

映画に出てくるものたちはとても勇敢だ。でも、僕たちと同じ人間であることは間違いない。じゃあ、何が違うのか。どうしたら命を燃やして輝いて生きることができるのか。平和という明かりの中にいる僕たちには、戦争という暗闇の中にいる人たちは、より輝いて見えるのかもしれない。でも、きっと僕たちの中にもその輝きを見出すことはできるのではないだろうか。ただ、周りが明るいだけでわかりにくくなっているだけで、自分が何に命を燃やすべきなのかを僕たちは探し続けている。

映画の中で、こう語られる部分があった「このワインは戦争の匂いがする」(著者意訳)

そう語る男の姿はただ悲しみがあるだけではなかった。そこには、誇りが、愛しみ(かなしみ)があった。ああ、このワインはそういうワインなんだ、と僕は感じた。

僕はワインの味に詳しいわけではない。世界中のワインを飲み比べたことがあるわけではない。でも、映画を見終わって飲んだこのワインからは、

確かに
戦争の匂いがした
そして
平和の味がした

もうこの映画を見てしまっては、どう味わっていいのかわからない。どう表現していいのかわからない。どんな味だと言われても、言葉にしようと思えば思うほど難しい。ただ単純に美味しいと言うことは簡単だけど、このワインが求めている言葉は、そんな言葉ではないような気がするのだ。

ナチュラルワインでたしかに素人の僕が飲んでも美味しい、と感じる。でも、その奥にあるワインの生命、ワインの魂みたいなものを一緒に飲んだ時に、そこにはただ、美味しい、美しいというだけではなく、そこには深い闇、そして、闇の中にある一筋の光のようなものを感じるのだ。

死の香りをはなつ、生(いのち)の味がするワイン

大袈裟だと言われるかもしれないけれども、その相反する、でも、表裏一体となっている、切っても切り離せないものがあるからこそ、そのような力(味わい)が生まれるのではないだろうか。

ぜひ映画とともに、このワインを、彼らとあなたの人生(生と死)を味わって欲しい。

『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』
https://unitedpeople.jp/winewar/

僕が参加したのは、札幌の「bokashi」というお店主催のイベントでした。
「食べるわたしたち - 映画/ワイン/食を通して、戦争を地続きに捉える - Presented by bokashi」
https://bokashi-taberu-heiwa.peatix.com/

ユナイテッドピープル代表の関根健次さんのトークセッション、出張料理人のソウダルアさんが手掛けるフードインスタレーションと食事交流会も最高でした。

素敵なイベントの開催本当にありがとうございました。

ダー・リヒ・ハナン 2018
出張料理人のソウダルアさんが手掛けるフードインスタレーション
フードインスタレーション完成品の一部
食べること自体もアート

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