エアコンを再発明せよ / Oxygen Not Includedレビュー
本記事はげむすきアドベントカレンダー企画参加記事です。
シミュレーションゲームといえばなにを思い浮かべるだろうか。Civilizationといった言わずとしれたエンターテイメント性の高いものもあれば、指揮官や政治家のような答えのない判断を迫られるTwilight Struggleのようなウォーゲームライクのものもある。かと思えばEuro Truck Simulatorのように細部まで現実をシミュレーションしたものもあり、ヤギもあり、かなり多種多様なジャンルといえる。
本記事で紹介するゲームはOxygen Not Included。「Rimworld」「Banished」などに連なるコロニーシミュレーションゲームだ。
そうした上記のタイトルとOxygen Not Includedで異なる点は、Rimworldに実質的に無限の土地がありBanishedに交易といった外との物質の出入りがあるのに対して、Oxygen Not Includedのリソースは(少なくとも当面は)有限であり酸素、水、食料、電力のいずれが欠けても滅びを迎えるということだ。余った資源を交換できる金銭のようなものはない。
そのため、本ゲームでは余剰資源を必要な資源に変換することが迫られる。
手段はいろいろある。ゲーム内の機械(たとえば石炭発電機は石炭を電力に変換する)がもっとも単純な例だが、畜産や農業といった形もある。
動物を囲って餌をやり、農場を作って栽培する。そうすることで比較的重要度が低い資源である「土」や「火成岩」などの資源を食料や石炭に変換することができる(最終的には土や石ころでさえも再生産を考えなければいけないが)。
そういった構造の中でなにが必要かというと……動物や植物が生きながらえる環境だ。
このゲームは、有限の資源でタイトル通り酸素を初めとした環境を維持するゲームなのである。
環境というのは資源だけで保てるものではない。
このゲームの特徴的な点は熱伝導や物質の熱容量といった現実に準じた概念が存在することだ。プレイヤーは常にこの問題に悩まされる。
このゲームにはスタート地点周辺にあるなんてことない地面から、宇宙空間でない限り存在する酸素などの気体、はたまた溜まっている水にいたるまで温度と質量のパラメータを持ち、素材ごとに融点、熱伝導率、比熱容量などの値を持つのだ。
機械は動かしているだけで発熱するし、労働力として指示を出す複製人間たちも体温を持つ。高温のバイオームには有益な資源が眠っているが、掘りあてたあと適切な対処を行わなければ暖かな空気がコロニーに入り込むだろう。
プレイヤーがこうしたものと戦うために利用できるものも数多くあるが、単純なものではない。たとえば水から酸素(と水素)を得る電解装置は最低70℃の酸素を吐き、なにも考えずに居住区に撒こうものなら温暖化と水素まみれの空間を作る。
効率のよさそうな「石油発電機」は原油から石油を得るために使うエネルギーのためになかなか効率よく電力を得ることはできないし、一見温暖化を食い止めるために存在している装置のほとんどは機械そのものの発熱を加えてむしろ温暖化を加速させかねない。
熱を使って発電する神の如き装置にみえる「蒸気タービン」も、125℃なければ発電できないという不都合を抱えている。
ある一つの問題を、ゲーム内にある手軽そうな解決策解決しようとすると別の問題が生じる。それを解決するためにプレイヤーはどうするかというと……装置を組み合わせるのだ。
たとえば高温の酸素をもたらす電解装置、液体冷却器、電気タービンを組み合わせる。
左下の電解装置から出てきた高温の酸素は、液体冷却器を使って冷やした水によって冷やされて涼しげな空気になる。
液体冷却器自体の発熱は周囲を液体で満たして熱交換し、金属の板を挟んで熱を水に伝え、高温となった蒸気は電気タービンに使われる。
この仕組みについて思い当たるものはないだろうか?
これは我々の現実に存在するエアコンやタービンの仕組みそのままである。
プレイヤーは、ゲーム中で与えられた課題に向き合うことで知らず知らずのうちにエアコンやタービン、更には変電所や冷凍庫などを再発明することになるのだ。
Oxygen Not Includedは現実に準じた熱力学的な仕組みをうまくゲームに取り込むことで、こうした現実に存在する機構・原理をプレイしているだけで理解を深めることができる素敵なゲームなのである。
Euro Truck Simulatorのようなシミュレーターゲームと、このゲームやCivilizationのようなゲームは同じSLGであっても異なる扱いを受けがちだ。
しかし、共通する部分はある。シミュレーションゲームはその名の通り現実をシミュレーションしている。極めて現実に寄せたシミュレーターが細部をシミュレーションしているのに対し、こうしたゲームは特定の要素を抜き出して抽象化することで、原理そのものをシミュレーションし我々に考えさせる機会を与える。
シミュレーションゲームだけではない。すべてのフィクションは現実の二次創作なのだ。Oxygen Not Includedはそれを否応なしに想起させる傑作ゲームである。