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なぜ、アントレプレナーシップがすべての人に必要なのか?

こんにちは、タクトピア代表の長井です。前の記事では「アントレプレナーシップ教育とは何か」について述べてみました。続いてこちらでは、「なぜアントレプレナーシップ教育がいま必要なのか?」について説明していこうと思います。

■記事一覧(リンクから飛べます)

0. 私がアントレプレナーシップ教育を専門にするまで
1. アントレプレナーシップ教育とは何か?
2. なぜ、アントレプレナーシップがすべての人に必要なのか?(本記事に掲載)
3. どのようにアントレプレナーシップ教育を実現していくか?
4. 最新!中高でのアントレプレナーシッププログラム事例
5. その他の新しい学びとの接続

-経済面のトレンドから

経済状況を予測するうえで最も強固な指標は人口です。人口動態によって国の経済は大きく左右されます。
言うまでもなく世界一の少子高齢社会である日本は、すでに2007年に超高齢社会(65歳以上の人口が全人口の21%以上)に突入しており、2025年にはその割合が約30%に到達すると予測されています。この人口バランスの偏りはさらに進行し、2040年には「65歳以上1人を支えるのに、20-64歳はわずか1.4人」という状況になります。1965年時点では9.1人で支えていたことから考えると、単純計算で負担は6.5倍という激烈な差です。この差を乗り越えるだけの経済施策を、日本はいまだに編み出せていません。

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一方、そんな日本を尻目に、世界ではさらに人口を伸ばす国々が世界の経済を牽引することが予測されます。国連のWorld Population Prospects 2019によれば、2030年時点では中国が約14.6億人、インドが約15億人となります。さらに2060年までは、アフリカや東南アジアの新興国が人口を伸ばし続ける推計です。
ただ国を維持するだけでも負担がかかるフェーズにある日本に対して、まだまだ若く購買力を増し続けるであろう新興国。私たちは、そうした多様な国・文化に向けて価値提供できる世代を育成できているでしょうか?

-キャリア創造/選択の視点から

いまの中高生が働き出す時代にはどんなキャリアが当たり前になっているのでしょうか。野村総研の「未来年表」によれば、2030年には「20代の80%近くが副業・マルチジョブを導入する」という予測が立っています。以前は「たったあと10年でそんなことになるかな?」と私も正直思っていましたが、みずほフィナンシャルグループの週休3〜4日制導入のニュースに見るように、大手企業ですらフルタイム雇用を保障しなくなってくる流れは、新型コロナウィルス(covid-19)の影響でむしろ早まったのではないかと思えます。

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かつて「日本のジョブハンティングは"就職"ではなく"就社"だ」と揶揄されていましたが、どこかの会社に入ったら一生安泰、という世界はもはや存在しません。企業が人生を提供してくれる時代は終わりました。それ自体は特に悲観すべきことではなく、就職先の都合に振り回されることなく「人生の主人公」として生きられる大きなチャンスでもあります。その代わり、自分のやりたいこと・意志を自覚する内省の力であったり、世の中に求められていることを察知する洞察力、新しいことを発想する創造力など、これまではないがしろにされがちだった別種の能力が必要になるわけです。そうした能力を身に付けないままに、いまの若者が教育課程を終えて社会へ放り出される様子を想像してみれば、その危険性が直感できるのではないでしょうか?

-文部科学省の学習指導要領改訂から

このシリーズの冒頭記事でも触れた通り、高校の新学習指導要領は2022年度より導入され、「総合的な探究の時間」を中心に「探究」型の学び方が強調される内容になっています。「総合的な探究の時間」はその前身である「総合的な学習の時間」の発展形といえますが(文科省作成の比較対照表は下記)、2つの理由から、これまで述べてきたアントレプレナーシップと軌を一にするものだと理解できます。

1つ目は「問題の発見と解決」が明記されていることです。これまでは同じ「探究」という言葉を使っていても、学校や指導者によってさまざまなイメージが混在してきました。例えば高大接続の文脈で大学レベルの勉強を先取りすることを「探究授業」と呼んだり、大企業からもらった商品開発などのお題にアイデアコンペ的に応えるものを「探究活動」と位置づけたり、といったかたちです。

しかし今回の文科省の定義では、「自ら問題を設定して解決にチャレンジする」ところに重きが置かれています。問いを自ら設定すること、そして解決アクションが求められること、この2点を併せて考えると、その学びの姿はアントレプレナーシップ教育の本質と重なるところが大です。

そして2つ目の理由は「取り組むテーマ」と「自分の人生の選択」をリンクさせて一緒に考える必要がある、と指示されていることです。現行の「総合的な学習の時間」では、まず学習がありきで、その後学習内容を通してテーマを見つけましょうという前後関係がありました。しかし今回はそうではなく、同時にリンクさせて考えるところに力点があります。「人生のことは勉強してから考えよう」ではなく、「気になることがあるなら今取り組もう(そして人生選択のヒントにしよう)」という考え方です。これもまさにアントレプレナーシップ的な考え方といえるでしょう。

※現行の「総合的な学習の時間」と新しい「総合的な探究の時間」の比較対象表(文部科学省)はこちら

-海外の先進教育事例から

上記のように国として学びの形態をシフトしていく状況は世界的な傾向でもあり、国によっては小学校から包括的にアントレプレナーシップ教育を導入している国もあります。2004年のPISAで世界1位に躍り出て注目を浴びたフィンランドもその一国で、2016年施行の新しい学習指導要領から「アントレプレナーシップ」が導入されています。現地でアントレプレナーシップ教育を研究する田中潤子さんの記事(下記にリンクあり)では、その概念についてこのように紹介されており、この記事で述べてきている「アントレプレナーシップ」の考え方と多くの点で通底するものがあると感じていただけると思います。

技術の進歩や経済のグローバル化の推進などの結果として、働く環境、職業、仕事の性質が変化しています。仕事の要件(必要なスキルや特性、資格など)を予測することは以前よりも困難です。そのため、学校教育では、仕事とワーキングライフへの関心と前向きな姿勢を促進する一般的な能力を磨かなくてはなりません。そこに登場したのが、アントレプレナーシップです。(中略)日本では、起業やビジネスに関連付けて捉えている方が多い印象ですが、実は先ほども述べたように、仕事や生活に関する前向きな姿勢を育むための「誰にでも関係する」概念です。

2016年のEU Commissionの定義によれば、アントレプレナーシップは3つのステップと15のコンピテンシーとして明確に図解されており、これらを小学校の時点から日々の学習のなかで実践していくわけです。

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EntreComp: The Entrepreneurship Competence Frameworkより


例えば、3つのステップとは「アイデアや機会を生み出す(Ideas & opportunities)」「自分の持っているリソースと結びつける(Resources)」「具体的な行動に移す(Into action)」ですが、Ideas & opportunitiesの下にぶら下がるかたちで「クリエイティビティを磨く」「ビジョンを描く」「機会をつかみとる」「アイデアを評価する」「エシカル・サステナブルな思考」などのコンピテンシーが定義されている、といった具合です。共通のコンピテンシーにもとづいて学年が上がっていくにつれて活動のレベルを上げていくという、非常にシステムとして素晴らしいものが出来上がっています。

-まとめ

今回は「なぜアントレプレナーシップ教育がすべての人に必要なのか?」に答えるために、4つの視点から説明を試みました。もちろん、現在当たり前の学びのあり方から考えると、アントレプレナーシップの考え方はかなり新しいものに見えるかもしれません。ただ、世界はそれ以上の速度で変化しています。どんな世界に若者を送り出そうとしているのか、を目を背けず考えることで、私たちが備えるべき学びのかたちを構想することができるのではないかと思います。

次回は、「じゃあ、そんなアントレプレナーシップの学びをどう実現するの?」という疑問に向けて、タクトピアの視点からご説明していきたいと思います。