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アントレプレナーシップだけじゃない。その他の新しい学びとの接続と、非認知能力の学びの可視化について

こんにちは、タクトピアの長井です。ここまで5回にわたって連載にお付き合いいただき、大変ありがとうございます。

これだけアントレプレナーシップ教育のことばかり書いてくると、「アントレプレナーシップが万能。アントレプレナーシップだけやってればいい」という印象操作をしようとしているのではないかと疑われそうですが、そうは思っておりません。探究的学びの一環として、アントレプレナーシップ教育が様々な教科やオルタナティブ教育と結びついてくるのは必然だとは思っていますが、結局は相互作用や相互乗り入れの関係で学びの世界が構築されていくのだと理解しています。この連載の最後に、その広い世界を見渡す取っ掛かりとして、私の主観的な理解にもとづきその位置関係を整理してみました。

■記事一覧(リンクから飛べます)

0. 私がアントレプレナーシップ教育を専門にするまで
1. アントレプレナーシップ教育とは何か?

2. なぜ、アントレプレナーシップがすべての人に必要なのか?
3. どのようにアントレプレナーシップ教育を実現していくか?
4. 最新!中高でのアントレプレナーシッププログラム事例
5. その他の新しい学びとの接続(本記事に掲載)

-その他の新しい学びとの接続

繰り返しますがアントレプレナーシップ教育を専門とする視点から、あくまで主観的に新しい学びの分布とその接続を可視化しようとしたのが下図です(異論反論は大歓迎です)。

アントレプレナーシップnote記事用

まず、学校でのいわゆる「主要5教科」との相性は言うまでもありません。それらの学びを、いわば総力戦でつぎ込んで問題発見解決にあたるのが探究であり、アントレプレナーシップの学びだからです。

例えば日本の高齢者の孤独死問題を解決しようとテーマを設定したとすると、事前調査として一人暮らし高齢者の人口やその分布、死因の割合などを統計データから読み取る必要があり(情報科)、現状でも受けられる可能性のあるサービスを探るうえでは日本の介護保険制度・医療保険制度や民間サービス事業者についても知る必要が出てきます(社会科)。オリジナルの解決策として何らかの器具やアプリを構想したとすると、試作品の制作の時点では工学的な工夫や大学等で研究されているテクノロジーを加味することもできるでしょう(理科・数学科)。最終的に自分のアイデアやプロジェクトを広く発信しようとすれば、プレゼン内容の構成力や効果的な言葉づかいも問われますし(国語科)、母国語以外での発表ができればより広くの人々の注目を惹き付け、国内外での情報交換も可能となります(英語科)。

主要5教科の他に学校内や民間で実施されている多種多様な学びのうち、特にアントレプレナーシップと結びつきが強いと私が思っている2つについても触れたいと思います。

・工学教育(プログラミングを含む)

問題解決の「実践」まで到達するためには、当然ながら「アイデアの発表」で終わってしまっては不十分ということになります。アイデアを何らかの形につくり上げ、世の中に提供していくスキルが必要で、そのスキルを獲得するのが工学教育の分野です。高校でいえば「技術家庭科」「情報科」、また民間のさまざまなサービスで学べるものづくり(アナログ/デジタル)・プログラミング・WEB制作等がそれにあたるでしょう。

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参考情報になりますが、タクトピアがボストンでの海外研修を実施する際のパートナーである Tufts大学の CEEO(Center for Engineering Education and Outreach)は Client-based Engineering というメソッドをもっています。これは「具体的な個人を想定したうえで解決策としてのものづくりをおこなう」という教育法で、ここまでくるとアントレプレナーシップ教育と相当大きな領域がオーバーラップしてくる印象をもっています。

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・アート教育

工学スキルがアントレプレナーシップの後続フェーズを担う位置づけとすると、アート教育がもたらす感性・内省スキルは「アントレプレナーシップの前工程」にあたると整理できると思います。なぜなら「問題解決の実践」と声高に謳ったところで、そもそも世の中に横たわる「問題の種」や「自分の内面で感じている違和感」に気づくだけのアンテナが立っていなければ、スタートがおぼつかなくなってしまうからです(実は、ここを無理やりスタートさせようとするがゆえに課題解決のテーマを外から与えてしまうという工夫が出てくるわけですが、結果として生徒の自分事にならず「やらされ感」で終わってしまうというケースもしばしば耳にします(こちらの記事参照))。

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アート教育の狙いに含まれるのは感じる力=感性のほかに、自分の価値観の言語化能力であったり、実際になにかの問題で苦しんでいる人への共感の能力だったりするでしょう。また、題材をアートとすることで自然と「答えが一つではない世界」に踏み入れることになり、また文字情報のみを媒介としない意思伝達のトレーニングにもなるため、自然とアントレプレナーシップを実践するうえでの素地づくりにもなるという意味で大変意義が大きいと考えています。

-新しい学びの質をどう担保するか

前段落のとおり、いま教育界はアントレプレナーシップに限らず、非認知能力の獲得・向上を目指す新しい学びが次々と立ち上がっている大変革期です。"非"認知能力というだけあって、これらの新しい学びには共通して同じ課題があるように思われます。それは「効果が見えにくい」ということです(逆にいうと、偏差値や点数という指標があまりにも見えやすく、便利に使われてしまったとも言えます)。

見えにくい

タクトピアとしては非認知能力の成長を可視化するための効果検証について、2019年から九州大学の松永正樹准教授とともに共同研究をおこなってきました。欧州で実績のあるアントレプレナーシップ教育の指標を参考に、中高生が現実的に理解し回答できる質問内容・サイズに調整したものをサーベイに用い、3年間にわたってデータを蓄積しています。下記の画像に示されている指標のタイトルを見ていただくと、こちらの記事で触れたEU CommissionのThe Entrepreneurship Competence Frameworkと多くの共通点があることが分かると思います。

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もちろん、ただ蓄積することが大事なのではなく、プログラムごとの特徴(ゴール設定、期間、頻度、形態(国内/海外など))や参加者の属性を掛け合わせての分析も始めています。すでにいくつか興味深い発見があるのですが、それについてはまた機会を改めてレポートのかたちで皆さんに報告したいと思います。いずれにせよ、こうした研究により「学校の望むビジョンを達成するためにはどのような設計がベストなのか」を、ただの経験則ではなく再現性をもって提案できる状態を目指しています。

-まとめ。知識よりスキルより、マインドセットを育てることの大切さ

ここまで文字数も重ねて様々なことを書いてきました。ここまで読んで頂いた皆さま、お付き合い頂き誠にありがとうございます。これまでの内容を非常に簡潔にまとめると、以下のようになるかと思います。

・アントレプレナーシップは身近なものだ
・経済その他の観点からも、むしろこれからは誰しもが学んで良いものだ
・当然アントレプレナーシップ教育が万能なのではなく、他の学びとの連携の意識が重要
・タクトピアとしてはフレームワークや教材汎用化などで日本の教育界に貢献したい

さらにまとめて、アントレプレナーシップ教育って結局なんなんだ!という問いを自分にぶつけてみたとき、「21世紀を生きるマインドセット(気構え)を学ぶ」ということだな、と直感的に浮かんできました。以前の記事でもご紹介しましたが、タクトピアでアントレプレナーシップのプログラムを実施する際、毎回生徒さん(と先生)にお伝えする3つのグラウンドルールがあります。

•未知を楽しもう!↔ 知らないことは怖い/悪い
•実践から学ぼう!↔ 頭で考え込んで動けない
•やりなおし上等!↔ 成功しないと格好悪い

予測困難な時代だからこそ、上記の3つの気構えさえあれば、どんな環境でも分野でも人生を切り拓くことができる。そのための学びの場としてアントレプレナーシップ教育が貢献できることは大きいと考えていますし、まだお会いできていない学校さんとの協働を楽しみにしています。

TAKT(人生の指揮棒)をもつ人々のUTOPIA(生態系)の実現のために。これからもタクトピアをよろしくお願いいたします。