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拡張するデジタル表現、変化するオンラインガバナンス

オンラインコミュニケーションに大きな変化をもたらす可能性を秘めたメタバースが社会を賑わすなか、Takramはこの春、あるコラボレーターから「現在のインターネットにまつわる重大な問題」をリサーチし、まとめるよう依頼を受けました。そのリサーチのなかから特筆すべきいくつかの事象をまとめ、「Takram Newsletter」英語版として7月にリリース。今回はその記事を翻訳し、みなさんにお届けします。

Text by Yosuke Ushigome
Translation by Asuka Kawanabe

オンラインでの交流がもつ意味は、この1年で大きく変化しました。現在のオンラインでの社会生活は、ソーシャルメディアの買収やマスメディアの報道、世界各国の法改正など、さまざまな要素によってかたちづくられています。それゆえ、わたしたちのリサーチはオンライン空間の風景と、現在のオンライン上の交流を支えている要素同士のつながりの両方を鋭くとらえたものである必要がありました。

広がるデジタル表現

リサーチのなかで、わたしたちは次世代のクリエイターたちがクリエイティブなデジタル表現にどのように挑み、どのようにそれを新たな文脈に落とし込んでいるかを調べました。Vtube用ツールのブームからひとりCG番組の興隆まで、クリエイターたちはツールを通じてオンライン世界に親しみ、そのなかで生きています。

こうしたデジタル表現の拡大は、影響力のある文化的なムーブメントによってもたらされました。そのひとつであるVtubeは、ストリーマーがカメラのトラッキング技術を使って自分の姿をリアルタイムにアニメーション化して配信するものです。こうしたムーブメントはツール開発にも影響を与え、映画や写真、ゲームといった異分野の技術やツールを融合させています。

〈関連事例〉
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When Creators Meet the Metaverse: A Survey on Computational Arts

VTuberのXanaduの動画シリーズ「My Alter Ego unleashed into the Metaverse」より。

誤用・悪用をめぐる変化

リサーチにあたり、わたしたちはソーシャルVRアプリ「VRChat」のように確立されたプラットフォームから、新しい暗号取引プラットフォームまで、さまざまなメタバース空間を調べました。その結果、「アクセシビリティの向上」と「安全性の確保」といったよく知られた課題がこの空間でも改めて浮き彫りになりました。

デジタル空間でどのような誤用や悪用が起こりうるかは、デジタル体験の形式や、その体験にどれほど表現上の自由があるかに大きく左右されます。例えば、分散型金融(DeFi)の成長とそれに伴う詐欺や盗難の増加は、2021年に大いに関心を集めました。しかし、暗号資産に関する金融犯罪のみに注目するのは論点がずれていると言えるでしょう。クリックひとつで悪用が可能なデジタル空間は、物事を円滑に進めるのが難しいことで有名です。また、デジタル空間の多くは安全であることよりも、交流や自己表現、コンテンツの公開などが簡単にできることを偏って重視しているという問題もあります。

〈関連事例〉
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Ongoing documentation of grifts and scams in the metaverse

VRChatの未成年者お断りエリア。

ガバナンスとオーナーシップの概念の変化

デジタル空間の所有者は誰か、また争いを解決するためにどのような方法がとられているかを考えずに、空間の誤用や悪用を語ることは難しいでしょう。所有権やガバナンス(統治や管理の方法)はアクセスと密接に関連しており、そのアクセスは非常に不均一で、そのユーザーがどのコミュニティに属しているかに大きく左右されます。

オンライン上のガバナンスのあり方については、変化の兆しも見えています。学術界や政府機関は近年、デジタルユーザーの権利の再構築に関心を寄せはじめました。「ユーザーにはオンライン空間で使われるアルゴリズムにアクセスし、理解する権利がある」という考えのもと生まれた欧州連合(EU)のデジタルサービス法(DSA)は、そうした新たな関心の高まりを表していると言えるでしょう。

〈関連事例〉
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Examining visions of surveillance in Oculus’ data and privacy policies


新たなデジタル著作権のステータス。出典:New digital rights: Imagining additional fundamental rights for the digital era, Computer Law & Security Review, Volume 44, 2022

倫理観に関する新たな視点

オンラインでの交流を可能にするさまざまな方法について、その表面的な影響を指摘するのは簡単です。そうした影響を観察することも重要ではありますが、ソーシャルメディア技術がもつ倫理的な意味合いについて考えることも同様に重要と言えるでしょう。

これまで哲学者たちは、オンラインでの生活がもつ倫理的な意味合いをさまざまな方法で表現しようとたびたび挑戦してきました。オンラインでの交流は、ユーザーやその周囲の人に対し、ある程度の直接的な影響をおよぼします。これと同時に存在するのが、オンライン空間でのあらゆるインタラクションや行動の結果として生じる間接的な影響です。加えて、オンラインでの社会生活が生み出す社会の構造的なファクターも見逃せません。ソーシャルネットワークと切っては切り離せない監視資本主義といった要素も、倫理的な考察に大きな影響を与えるそうしたファクターのひとつと言えるでしょう。

〈関連事例〉
Towards a Digital Pluriverse
Social Networking and Ethics

牛込陽介|Yosuke Ushigome
クリエイティブテクノロジスト
未来リサーチ、デジタルプロトタイピング、インタラクションデザインを専門とし、未来についてのより確かな意思決定のためのデザインを行っている。日立製作所と共同で行った「サステナブルな未来へのトランジション」リサーチなど、人・テクノロジー・地球環境との間で起こる出来事に焦点を当てたプロジェクトに数多く携わる。2018年Swarovski Designers of the Future Award受賞。Core77、ICON magazineなどでコラムの執筆も行っている。

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