値引き合戦
スーパーMのペットフード売り場に来ている。
ペット用品30%引きの日なのだ。
原則として隔週の水曜日だが、貧乏な愛猫家はこの日を待ち焦がれている。
スーパーMは大手のチェーン店だが、ローカルなペットショップのEでも、毎月3の付く日が30%引きの特売日になっている。
両店の特売日の重なることも稀にはあるが、通常は滅多にないことになる。
僕はもちろん、どちらの店もしっかりチェックしている。
両店は相互に牽制し合っているので、通常の販売価格そのものに大差はない。
というよりも、一方が下げれば他方が追随するという感じで、多少のタイムラグと若干の品揃えの違いと在庫状況を無視すれば、同じ店みたいなものだ。
買う側としては、しかし、このわずかなタイムラグを見落として、高い方の値段で買ってしまったりすると悔しい思いをする。
また、こんなこともある。
スーパーMで100円で出ている商品が、ペットショップEで130円だったが、その日はEの特売日だったので91円で買える。
Mの次の特売日まで待てば、しかし、70円で買えることになる。
ならば素直にそれまで待てばよいのだが、その前にEが販売価格を下げる可能性もある。
仮に90円に値下げしたとしたら、次の特売日には63円で買えることになるのだ。
まあ、こんな計算ばかりやっていたら、それだけで毎日が終わってしまうので、現場で思いつく程度のやりくりにとどめてはいるのだが…
販売価格で競い合っていたそんな両店に、その後新たな競争が加わる。
特売日の値引き率だ。
まずペットショップEが35%引きに替えた。
一回限りの特別サービスかと思ったら、次の特売日もその数値だった。
そこでスーパーMも負けじと35%引きにしたが、さらに次の特売日には露骨に36%にアップした。
それを見てEは37%引きにして、「みなさんの日」と喧伝する。
するとMは40%に。
後を追ってEが45%引きにして、「ペットのよい日」と称する…
値引き率アップの競争は50%引き、つまり半額までは行きそうな気もするが、そこまで行ってしまうと当然、採算割れだろうから、商売全体がかなり厳しいことになってしまうだろう。
対象商品を限定して…ということになるのかもしれない。
期待半分、心配半分で動向を見守っていたのだが、残念なことに以後の顛末を見届けることなく、僕が引っ越すことになってしまった。
しかも近県ではなく、そうそう気軽にはやって来れない遠方だった。
引っ越して1年後、たまたま元居た家の近くに用があった。
その日は13日だったので、ふと思い立ってペットショップEに立ち寄ってみた。
「本日は特売日、全品-5%引き」
店頭にはそんな張り紙が出ていた。
えっ、「-5%引き」ってどういうこと?
試しにいつものドライフードのボックスを3箱ほど買ってみた。
税込380円が3個で1140円。
値引き額は-57円ということになる。
僕の方の出費は一切なく、商品と一緒に硬貨で57円もらった。
50円玉1個と5円玉1個と1円玉2個。
こんなことで商売が成り立つのだろうか?
例えば、店にある全商品をきょう買ったとしたら?
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