たこやまたこた
メモに残した夢を集めてみました。
遊び半分に写真俳句のコンテストに応募したところ、最優秀賞をいただてしまった。 調子に乗ってその後、 写真俳句 を書き溜め、「写句鳥虫」(しゃくとりむし) と題して一冊にまとめてみた。 その中の作品を中心に、少しずつアップして行こうと思う。
採用にならなかったり、世に出す機会がなかったり、まだ発展途上だったりして、未発表のまま埋もれている作品たち…
紙切れにいたずら書きした4コマ漫画もどきを拾い集めてみました。
自作の下手くそ8コマ漫画です。
今更ですが、「たこやまたこた」というハンドルネームのもとになった「たこやま たこたくん」という作品を転載します。絵本の仕事を始めて間もないころ、月刊絵本として世に出ました。雑誌扱いなので1回限りの発行となります。自分でも最も好きな作品の一つなので、できれば市販本にしてもらえないものかと願ってやまないのですが、いまだ実現していません… 1999年フレーベル館発行ころころえほん9月号
徳大寺君は、物を失くす癖がある。 しょっちゅう、あれが無い、これが無いと、探し回っていた記憶しかない。 5年ぶりで会っても、あまり変わりは無かった。 徳大寺君とは、武田理沙さんのライブで知り合った。 たまたま席が隣り合って、なんとなく話しているうちに、親しくなってしまったのだ。 徳大寺君は当時、某国立大学工学部の大学院で、何やら小難しい研究をしているらしかった。 音楽の好みが重ならなければ、ほかに接点は無かったに違いない。 その後、僕が脚の大手術をしたりなんだりで、ライブ
朝鮮人参のような、大きな根っこのお化けを担いだ面々が、静かに練り歩いている。 根っこのお化けは作り物のようだが、形や色はまちまちだ。 担ぎ手は皆、漆黒の長衣を頭からまとっている。 黒い闇が体型をぼかしているのではっきりしないが、老若男女が入り乱れているように見える。 人神様(にんじんさま)の例祭だ。 根之坪神社の祭神が人神様だ。 本堂の奥に祀られていて、そのお姿は、複雑に縺れ絡まった巨大な根っこのようだとされている。 観衆の中に、時計屋の鎌足さんを見つけたので、声を掛け
鳩が来る。 マンションの最上階、5階の廊下だ。 僕は5階の角部屋に住んでいる。 エレベーターから一番遠い奥だ。 玄関の前の手すりに鳩が一羽、いつも、ちょこなんと止まっているのだ。 人を襲ったり、物を壊したり、大声で騒いだりするわけではない。 フンを垂れ流すのが、ちょっと迷惑なくらいだ。 そもそも僕は、鳩や鳥が嫌いではない。 面倒臭いけれども、気が付いたら掃除しておけば済むことだろう。 …と軽く考えていたのだが、その鳩が仲間を連れてきた。 一見したところでは、雌雄がわから
昼下がりの街はゴーストタウンだった。 住宅街とはいえ、道行く人には誰ひとり逢わない。 緑の無いことに気が付く。 建物は昭和か、ひょっとしたら、もっと昔からあるようなものまであるのだが、人の息吹や歴史を感じさせない。 無機的で、妙に作り物めいている。 歩けば歩くほど、暗い方へ暗い方へと妄想に引きずられる。 心が崩れそうになった時、向こうから水色の人影がやって来た。 ブルカだろうか。 水色が全身を覆っている。 すれ違いざまに呼び止める。 わけもなく、ただ助けを求めるように。
祖父母の家だった。 キジトラの愛猫、小百合と遊んでいたはずだった。 眠ってしまったのか、失神したのか、それとも幽体離脱でもしたのだろうか。 空白と闇があって、気が付いたら、孫の手になっていた。 孫の手になっても、喋ったり動いたりできるなら、別に構わないのだが、そのどちらもできない。 不便で仕方がない。 僕はただ、置かれた場所に転がっているしかない。 ばあちゃんが僕をつかむ。 背中を掻く。 ちょっとくすぐったいが、服の上からやさしく丁寧に掻いているから、不快ではない。 用
中折れ帽とダブルスーツで決めた小柄なおじさんだ。 白黒のフレンチブルを連れているが、リードは付けていない。 犬も人も小さいのに、どちらも偉そうだ。 「そこの君、力を貸してくれんかね」 突然声を掛けて来る。 こんなおじさんに声を変えられる筋合いは無かったが、周りには僕以外に誰もいなかった。 やはり僕を呼んだのだろう。 「僕にご用でしょうか?」 「ご用というよりお願い…いや、お誘いなんだけどね、一緒に鬼退治に行かんかね?」 「僕、別に、鬼なんかに恨みはありませんから…」
「毛野原村には、佐久間が多いんです。 人口は確か30人くらいだったかな…そのうち10人に9人は佐久間ですよ」 佐久間君が言った。 フレイムマンというアマチュアのダンスユニットのメンバーで、髪をオレンジ色に染めているから、どこにいても目立つ。 毛野原村に来ていた。 牛泉洞を観るためだ。 洞窟が大好きで、折あるたびに全国の洞窟を尋ね歩いているのだが、中でも特に好きなのが、牛泉洞だった。 日本三大鍾乳洞には入っていないのだが、それに匹敵するくらい深くて大きい。 未踏部分の調査は
小学生の僕の、数少ない散財は、プラモデルを買うことだった。 わずかな小遣いから、十円とか百円単位の積立金を捻出し、月に一回くらいの割りで、五百円以下のプラモデルを買う。 行きつけの小さなプラモデル屋は、本屋と文具屋も兼ねていて、品揃えこそ乏しかったが、プラモデルはすべて二割引だった。 おかげで僕は、割引の計算だけは早々に、暗算で出来るようになったものだった。 ジャンルで言えば、飛行機、船、車など、乗り物には興味が無かった。 戦車や戦闘機なども好きではなかったが、戦車に関し
父が失踪した。 置手紙があった。 手紙など書く人ではない。 家族には時々LINEで、ひとことふたこと言ってくるくらいだ。 よっぽどのことなのだろう。 読んでみると確かに、よっぽどのことだった。 「私儀、この度一身上の都合により、本日をもって、父親を自粛させていただきます。」 一身上の都合だから、理由は書いてなかったが、それと思われる事実は、すぐに判明した。 会社の既婚の部下と不倫関係に陥り、にっちもさっちも行かなくなって、とうとう駆け落ちしたらしい。 謹厳実直を絵に描いた
季節の無い町に住んでいる。 といってもまだ、住んで一週間に満たない。 お世話になり過ぎて頭が上がらない知人の、たっての願いを断れずに、急遽住むことになった。 その人の住んでいた賃貸マンションだ。 季節が無いというのは、春も夏も秋も冬も無いということではない。 1年を通して四季以外だということでもない。 今日が夏のようだったとすれば、明日は冬のようで、陽気が一定しない。 毎日ころころと、気候が変わるということなのだ。 引っ越してきた日は夏だった。 朝10時を過ぎると、気温は
どういうわけか僕はセミにモテる。 背が高くて、ぼうっとしていて、ウドの大木みたいだからだろうか。 よくセミに止まられたりするし、オスが止まると、そのまま鳴き出すこともある。 口吻をちくりと突き刺されることさえあった。
セミの抜け殻親子…ではない。 多分、上はニイニイゼミ、下はアブラゼミ。 僕は一切手を加えたりしていないが、もしかしたら、どこかのいたずら者の仕業かもしれない。
聖実(せいみ)さんと知り合ったのは、一週間ほど前だ。 会うのは3回目だが、もう別れたいという。 厳密に言えば、「別れたい」ではなくて「別れなければならない」なのだが、どちらにしたって早すぎる。 本当のお付き合いは、これからだというのに。 「素数ゼミって知ってる?」 彼女は意外に昆虫に詳しいのだ。 昆虫少女だったらしい。 「13年とか17年とかで成虫になって、大量発生するやつだよね。 13と17は素数だけど、日本のセミも確か、素数の7年で羽化するんじゃなかったっけ?」
猿回しがやって来た。 駅前広場の一角だ。 「スカイモンキーショー」と看板が出ている。 猿は空君というらしい。 空君のパートナーは若い女性で、空君とお揃いの青い法被を着ていた。 法被には、空という字が白抜きされている。 パートナーとのやり取りを中心に、竹馬や玉乗りなど、よくあるパフォーマンスが中心だが、バク転やジャンプなど、空中技が得意のようだ 人垣ができていたので、細かいところまでは見えなかった。 その翌日、始発電車に乗るために、午前5時前に最寄り駅に着く。 ほの明るく
駅前スーパーのトイレが、神様に占拠された。 地下1階の男子トイレの、二つある個室の一つだ。 神様を見た者はしかし、誰もいない。 個室はロックされているのだが、誰か入っている気配は無い。 ドア下の隙間から覗いても、誰かいるようには思えない。 上から覗けばはっきりするだろうけど、そんなことをする勇気のある者もいない。 バチが当たるからだ。 そう、いつしかその個室には、神様が有らせられることになっていたのだ。 そして、ドアを2回ノックし、合掌して祈ると、必ず願い事が叶うという噂が