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はとぽっぽっぽ

鳩が来る。
マンションの最上階、5階の廊下だ。

僕は5階の角部屋に住んでいる。
エレベーターから一番遠い奥だ。
玄関の前の手すりに鳩が一羽、いつも、ちょこなんと止まっているのだ。

人を襲ったり、物を壊したり、大声で騒いだりするわけではない。
フンを垂れ流すのが、ちょっと迷惑なくらいだ。
そもそも僕は、鳩や鳥が嫌いではない。
面倒臭いけれども、気が付いたら掃除しておけば済むことだろう。

…と軽く考えていたのだが、その鳩が仲間を連れてきた。
一見したところでは、雌雄がわからないので、カップルなのかどうはわからない。
とにかく、垂れ流すフンの量が、単純計算で倍に増えたことだけは確かだ。
それだって、大した労ではない。
掃除したそばから汚されるのは、ちょっと腹が立ったりもするが、面倒臭ければ放っておいて、鳩の消えた夜に掃除すれば済むことだ。

それが終わりではなかった。
鳩はすぐに3羽になった。
どういう関係だろう。
三角関係には見えない。
喧嘩したりはせず、3羽並んで仲良さそうに、手すりに止まっていることが多いからだ。
フンは3倍になった。

鳩の増殖は、それだけに終わらなかった。
調子に乗って日ごと増えていき、とうとう5階の廊下の手すりのほとんどを占めるようになった。
数えればわかるだろうが、何羽いるのかわからない。
フンの掃除は、とても僕独りでは間に合わなかった。
5階の住民全員で、手が空いたら掃除するようにした。

根本的な対策が必要だったが、鳩を捕獲したり傷つけたりすることは、鳥獣保護法によって禁じられているので、下手に手を出すことはできない。
とりあえず、理事長の多田野さんに相談した。

「ああ、鳩の件は聞いてますよ。
屋上に巣を作ってるんじゃないかという話もありましてね。
ちょっと見に行こうと思ってたんですよ。
一緒にいらっしゃいますか?」

翌日の昼過ぎ、屋上に上がる。
多田野さんのほかに、もうひとり、何やらよくわからない仕事を自宅でしていて、1日24時間1年365日、ほとんど在宅して、マンションの向こう三軒両隣をうろうろしている、景浦さんも一緒だった。

5階から屋上に出てみて驚いた。
屋上のど真ん中に、茶色っぽいマーブル模様の巨大な球体が転がっていたのだ。
直径5~6メートルはあろうか。
その所々に穴があいていて、鳩が出入りしていた。

「なんじゃこりゃ?
巨大な蜂の巣みたいじゃないか」

多田野さんが奇声を上げる。

「鳩に見えたけど本当は蜂だったんじゃないですかね?
ハトとハチじゃ1字違いですから…」

と景浦さんが、わけのわからない解説を加える。

「蜂が進化して鳩みたいになったとか…。
さもなけりゃ、宇宙生物ですよ。
これ、宇宙船じゃないですか?」

景浦さんの妄想は続く。

「まあ、いずれにしても、役所の方に報告して、なんとか撤去してもらうように手配しましょう」

と多田野理事長。

その数日後、市の担当者を同行して見てもらおうとしたら、巨大な巣は跡形もなく消えていたとう。
正確に言えば、跡形もなく…ではない。
大量のフンが残っていた。

景浦さんじゃないけど、あの鳩擬きは本当に、宇宙から来ていたのかもしれない。

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