ちょっとそこまで旅してみる Part3
こちらの続きです。
もともと眠りが浅い方というのもあるかもしれないけど、イベント事の時は大体時間通りか、それより早く起きてしまう。
ちゃんと5時前に起きれたことを確認して、「あぁ、体の方もちゃんと非日常の旅だと認識しているんだ」と思えた。家から徒歩3分だけど。
朝5時というのは社会的に見て、ちゃんと活動している人はどれくらいいるのだろうか。
今から1年半くらい前の職業訓練校に通っていたときは、朝5時に起きて7時に池袋に着くようにしていた。7時から訓練校が始まる9時までの2時間弱を自分の時間に充てていたからだ。
その習慣もいつの間にか変わっていて、今は割と9時くらいから自分の時間を始めていたりする。
仕事で遅くなってしまうことが多いから、睡眠時間の確保を優先すると、規則的な生活はなかなか難しい。
朝5時の大浴場には8人くらいお客さんがいた。彼らは、いつもこの時間に活動しているのだろうか。それとも自分と同じで、旅の刺激に耐えられなかったのだろうか。
朝の露天風呂はとても気持ちよかった。朝の5時から饒舌に喋る人もいない。みんな黙々と、それぞれの朝風呂を堪能している。
日の出前の空を眺めたのはいつぶりだろうか。自分の体は「朝」と認識しているのに、星空が出ている。
だけど、冷たい空気がツンと鼻に刺さるのと、驚くくらい静かで人の気配がない。
昭和通りと首都高がすぐ隣なのに、意外と静かだ。
朝の空をぼーっと眺めているだけで、なんだか懐かしい気持ちになった。
東京のど真ん中で、しかも全裸で、朝5時の空に向き合っている。
サウナに入って、水風呂に入って、外気浴をする。
いつもと同じことをしているのに、なんだかスッキリした気分になった。
やっぱり環境は大事なのかもしれない。
人が2人集まるとそこに社会ができると、何かの本で読んだ。
昼間のサウナは、知り合いなんて1人もいなくても、社会性を帯びてしまう。
人とすれ違うときには、なんとなく「すいません」と頭を下げたくなるし、混んできたら場所を詰めてあげようとか、そういうことを考えてしまう。
自分は何も意識していなくても、誰かの会話が面白くて聞き入ってしまうこともある。
それはそれでいいんだけど、この社会にはひとりになれる場所はないのか、と愕然とする。
そういうことが全く感じられない朝の大浴場はユートピアだった。
お風呂を出て、朝食を食べる。
390円の朝定食と、500円くらいの朝定食でめちゃくちゃ迷う。
またいつでも来れるから、食べたいものを遠慮なく食べればいいんだけど、せっかくなら一番のものを食べておこうかなという「記念」精神が発動して困った。
結局390円の朝定食を注文することにした。
朝ごはんを食べて一休みすると、もう帰りの時間が近づいてくる。
10時チェックアウトなんだけど、もう8時くらいになるとソワソワして落ち着かなくなる。
本とか読んだり、二度寝をしたり、ゆったり時間を過ごせばいいのにそれがなぜかできない。
9時10分に館内放送で「もうすぐチェックアウトの時間なので帰り支度をしてください」とアナウンスが流れる。
それを聞いた瞬間、自分の中の旅が終わった気がして、寂しかった。
ロッカールームで着替えているサラリーマンの人が、シワまみれの館内着から、グレーのスーツに着替えていた。
みんな社会に戻っていく。どこに戻るかはわからないけど、多分同じ社会に戻っていくんだろう。世界はつながっている。
館内着で社会に出ることは許されないことだし、館内着は館内できているから館内着なんだろうと思った。
そうして、僕は、また社会に戻っていった。