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街とその不確かな壁

街とその不確かな壁(村上春樹著)を読みました。

1973年のピンボールから読み始めてからほぼ継続的に読んでいる村上春樹の小説です。
現実と空想の間をふわふわ漂っているようなストーリーが自分に合ってるのかと思ってたんですけど、村上春樹訳の外国小説を読んでいるうちに、彼の文体も自分に合ってるんだな、と改めて気づきました。
作家を40年続けてて、私の親と同じ年って事に驚きました。文体が以前から変わらず、読みやすい。


どの作品もわりと主人公が似ていて村上春樹の分身かと感じるほどですが、以前の作品より性欲が抑えられたように感じました。以前は異性に出会う毎に性交渉に至っていて、またか。と思ったものですが。作家が年をとったせい?

主人公が40代で安定した職業を捨てて転職を決断するところとか、自分に置き換えて考えさせられます。そして心に刺さったのが、主人公の影が、時間が止まっている世界で主人公に語りかける言葉。

「あんたは俺ともう一度一緒になって、壁の外の世界に戻るべきだと思います。それは、俺がここで死にたくないってだけのことじゃありません。あんたのためを思って言っているんです。 いや、嘘じゃありませんよ。いいですか、おれの目からすれば、あっちこそが本当の世界なんです。そこでは人々はそれぞれ苦しんで年を取り、弱って衰えて死んでいきます。そりゃ、あまり面白いことじゃないでしょう。でも、世界って元々そういうものじゃないですか。そういうのを引き受けていくのが本来の姿です。そしておれも及ばずながらそれにお付き合いしています。 時間を止めることはできないし、死んだものは永遠に死んだままです。消えちまったものは永遠に消えたままです。そういうありようを受け入れていくしかありません」

街とその不確かな壁


人々はそれぞれ 苦しんで年を取り、弱って衰えて死んでいく。そういうのを引き受けていくしかない。

文字にすると当たり前の事を言ってるんだけど、普段生活するときは全く意識していません。小説を読んでそういうことに気づかされて、自分の影を眺めてしまいます。
20代でこの本を読んでいたら、どこに刺さっていたんだろう。

ちょっと立ち止まって、いつもと異なる視点から物事をとらえる機会を与えてくれる、そんな小説です。

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