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ノンヘアケアライフ
僕は坊主である。
厳密には、頭の形が悪いので美容院に行って形を整えてもらっているので、誰かに言わせればこれは「オシャレ坊主」らしいのだが、とりあえず坊主は坊主である。
坊主にして3年ほど経つが、坊主にしてから良いことだらけなのだ。
シャワーでのシャンプーはあっという間だし、ドライヤーは20秒ですむ。朝のスタイリングなんていらないし、その気になれば起きてそのまま着替えるだけで外に出かけることが出来る。
20代までの僕はどちらかというと髪が長い方だった。朝出かける時のスタイリングのために女性ほどではないが時間をかけていたし、髪をセットするのが面倒で予定をキャンセルしたこともある。
髪をキメるためにどれほどの時間を費やしたか。自分の髪質にあったワックスはどれか。シャンプーとリンスはどれか。ドラッグストアで1時間以上迷ったこともある。
とにかく、自分を良く見せようと髪をキメることに必死で、今思えば多くの時間を無駄にしたように思う。
そんな僕が坊主にする決心をしたのは、薄毛が気になり始めたからだ。
前髪が少なくなりどれだけセットしてもみすぼらしくなってしまう。頭頂部の地肌が見えるところが気になって仕方がない。そうなると、髪をキメるためだけでなく育毛にもなるシャンプー選びをすることになり、さらにドラッグストアの滞在時間は長くなった。
どれだけ髪に良いシャンプーを使っても、髪に良いとされる食生活をしても、薄毛の状態は一向に好転しない。虚しい足掻きが2年ほど続いた。
そして、ある時急に「ああ!もう髪なんていらない!」と思い立ったのだ。要は、自分の髪にキレたのだ。
すぐさま美容院に行って「もう全部切ってください。坊主にしてください。」と頼んだ。
何年も担当してくれている美容師さんから何度も「いいんですか?」「やっちゃいますよ?」と確認された末、僕は伸ばしていた髪を全て切った。
美容院から帰った日は、鏡を見る度に生まれ変わったような気分だった。
朝のスタイリング、昼休みのヘアチェック、セットのし直し、夜の丁寧なシャンプー、そしてドライヤー。全てから解放された僕は清々しい気分だった。
翌日、職場では急に坊主にした僕に皆驚いていたが、なんてことない、2,3日すればいつも通りになった。
そして、さらに良いことがあった。
なんと、薄毛が改善し始めたのである。
実際には「坊主にしたことで目立たなくなった」のが正しいのだろうけど、頭頂部の地肌が透けていた部分は消えた(ように見える)。妻からも「坊主にしてから髪の毛増えたね」と言われた。
ひとつ悪い点を挙げるなら、妻からの嫉妬があることだ。
妻は女性なので、やっぱり髪の毛の手入れに時間がかかる。風呂上がりのドライヤー、出かける前のヘアセット。どれもそれなりに時間を費やすことになり、妻もその時間が嫌で仕方ないようだ。
僕の坊主を羨ましい半分恨めしい半分でいつも見てくる。
流石に女性である妻に対して「君も坊主にすれば」とは言えず、困ったものである。
まぁ、あなたが髪の毛に時間を費やす間は僕が子供の面倒や家事を専念するので、それでなんとか許していただきたい。