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5-2 昔の大学院生の生活 その1
前回は
今の様に大学院生が爆発的に増加して、研究職への就職が絶望的になるとは思っていない牧歌的な時代の話です。昔話と思って読んでください。
私立大学の研究環境
先に大学院に進学した友人の話では、東京学芸大学の大学院では、文系でも研究室に自分専用の机が構えられるなど、研究環境が良いと聞いていました。
早稲田大学の大学院では、教員の研究室ですら個室ではなかったので、大学院生も、専用の机など独立した環境は整備されておらず、設備だけで比較すれば、国立大学より研究環境としてはあまり良いとは言えなかったと思います。その代わりに、総合図書館の研究者エリアに、教員と大学院生が利用できる研究個室が整備されていたので、空室がある時は大抵そこに籠っていました。
大学院生は、研究者エリアにあった書庫へ直接入庫する事が出来たので、研究個室と書庫の間を行ったり来たりするのが日常の習慣になっていました。文系の研究者としては、図書館が一番利用する頻度の高い施設ですから、そこにある個室でじっくり研究に打ち込めるのはありがたい限りでした。
ただ不便だったのは、一度研究者エリアから退出すると再度個室の登録をやり直す必要があり、時間帯によっては満室になる事もあったので、朝に個室の登録をした日は、昼食の時間も惜しんで研究個室に籠もって、文献の検索や読み込みを行っていました。
個室内は飲食禁止だった事もあって、図書館に籠もる事の多かった講義や演習のない日の昼食は、大抵個室利用の終わった15時以降だった記憶があります。ピークを過ぎた飲食店ではサービス定食があるなどの特典もあり、それを目当てにわざとずらして食事をして、食事代を浮かせていたという、生活の苦しい院生によくありがちな節約術の一コマが思い出されます。
今は大学院生の総数も、私の時代と比べて3倍近くまで増えているので、私の様な図書館の利用方法は難しくなっているかと思います。まだ大学院生が特別な存在だった時代の良き思い出です。
また、私学は学費が高いとのイメージがあるかと思いますが、当時は国立大学へ人材が流出するのを防ぐ為か、何故か学部より学費がかなり安く、国立大学の大学院より若干高いぐらいの額だったので、学部で早稲田に行くよりもお得感はありました。
奨学金も当時の育英会の無利子奨学金が受けられたので、学内で行われていた各種のアルバイトをする程度で、極端に生活に困ることもなく、金銭的にも研究に打ち込める環境にありました。
講義とか演習とか
大学院の講義や演習は、ほとんどが少人数で、一番人気のあった講義でも20人ぐらいで、最少はマンツーマン指導の講義もありました。
マンツーマンの講義は実質的に演習でした。地方自治が専門の教授だったので、その教授が当時論文化しようとしているテーマについての講義?が時間の半分で、残りの半分の時間は、前週の講義についての疑問などを教授と議論する事に割かれました。この講義を受けたおかげで、地方自治にも興味が湧いて、翌年に地方公務員の試験を受ける事に繋がりました。この講義の内容は翌年論文化され、大学の紀要に掲載されています。
ゼミは学年共通だったので、研究室のメンバー全体の5人をベースに、大抵はこれにプラスして文学研究科に進学した先輩や、大学院への進学を希望する学部の3、4年生や聴講生も参加して、総勢では10名くらいで賑やかに行われていました。
研究室の教授の専門は政治社会学でしたが、5人の院生で直接関連のある研究をしていたのは1人だけで、他の4人は別の系統の研究を専門としていました。
私も学部時代の教育社会学にあたる研究を続ける事になり、教授には、社会学的な検証を助言頂く形で進む事になりました。実際には、その後副査になる他学部の産業社会学の教授と、非常勤の講義を持たれていた、他大学の教育社会学の教授にも指導頂きながらの研究生活でした。
恐らく教育学の世界だけで研究した方が、研究者としては成長出来たと思いますが、政治社会学を始め、産業社会学、法社会学、理論社会学などの異なった専門を持つ研究室のメンバーに囲まれた生活は、刺激的な日々で、研究の内実に幅を持つ事になり、色々な事に興味を持つ事が出来ました。
翌年に3期生となる院生を1人迎え、同時に1期生の2人が自主的に留年した事で研究室は総勢6名となり、更に賑やかになって2年目を迎えます。
次回は
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