「となりあう呼吸」とシェアード・ワールド公募の所感とか感想とか
経緯
SFメディアVG+のKaguya Planetさんに
という小説を書いて、
なる自作のシェアード・ワールド(二次創作/共通世界創作)公募が行われました。
このかなり特殊な依頼が来た際の、承諾までの経緯や私の心境などは誰も興味がないとおもうでひとことで済ましますが、ひたすら「やべ〜」とおもっていました。
せっかくなので色々所感を書いていこうとおもいます。
※後日編集の井上さん・岡野さんと振り返り配信を行うので、全体的に簡単に書きます。詳しくは配信をきいてくれると良!かも。
自作について
かぐやSFコンテスト2の最終候補時の所感にも書きましたが、自作解題を(自分でする分には)嫌っているので、ここで特にいうことはないのですが、書くのがいままでで一番大変な小説でした。自作のなかではいまのところ2番目に好きな小説なので、未読の方は暇だったら読んでくれるとうれしかったりします。※ちなみに直接対話する場合は自作についてべらべら喋ります。
あと固定ツイの「20分くらいでさらっと読めるとおもいます。」は半分くらい嘘です。すまんな。
嬉しかったやつとか、その他
例にもれずタイトルでエゴサしまくってましたが、感想ツイートとかが想像の10倍くらいあって嬉しかったです。好意的であれ非好意的であれ「わけわかんねえ」であれ反応があるだけでだいたい全部嬉しいものですが、精読し言葉をつくして評してくださったnote(茜あゆむさん)とかなり読み込んで感想会という形で拙作を対象にスペース配信(ミツヤヌスさん・九頭見灯さん)は特に嬉しかったです。ふつうにドヤりたいから読んで/聴いてよ、的な気持ちはなくはないですが、それぞれ自分の読みを行使して語っており、単純に感想/評自体がひとつのコンテンツとして素晴らしいとおもいますので暇な人は読んだり聴いたりしてほしいです。
あとなんか「となりあう呼吸」を写経?してくれていた……?っぽい方をネット鬼エゴサをしていたら、お見かけしましたが、めんどうなの書いてごめん……感はありました。※その方のnoteをみると、語りがマヤ/モネの視点や情緒だけでないことに(たぶん)気づいてくれており、めちゃくちゃ嬉しかった。
公募作の傾向
ざっくりですが、エログロ系が多く、人を人が食う話や清掃員が出てくる(最後砕ける)ものが多かった印象でした。全体を俯瞰してみるとエログロSFコンテスト感があり、気づいたら自作が魑魅魍魎をひきつれてVG+さんに侵攻していく形となっていた……。基本的にはどの作品も楽しく読ませて頂きました。
評価/採点基準 ※未記入
※やや長くなりそうなので配信が終わった後で書きます。
私が選んだ最終候補作5本は「晴天祭」「SMEECH」「水の中に居ります」「透明な鳥たちの歌(公募時タイトル)」「砂漠の罌粟」。次点(7作)のうち1位が「ジョン・スミス」。
※タイトルは公的にはすべて公開されたので伏せ字を取りました。
投稿作品の感想 ※更新中
数が多いため(日和)簡易的にはなってしまうのですが、公開された落選作については感想とリンクをこちらに記載していこうと思います。
※この感想はあくまで私(枯木枕)の評価/読みであり、他審査員の方の評価とは異なります。あくまで一視点として読んでくだされば幸いです。
※投稿作品を他の公募で二次利用した方や安易に公開したくない方もいるとおもうのでネットに作者が公開した作品のみになります。また感想に「は?」となる方もいると思いますので、感想消せや!と言われたら消しますので気兼ねなくご連絡ください。
※また、落選作を公開はしたいけど感想を書かれたくない、という場合もあるとおもうのでその場合はご連絡ください。
※順番はあいうえお順で、評価の上下は関係ありません。感想の長短も同様に評価には関係ありません。
※一次、二次、などの記載が感想内に出てきますが選考会全体の話でなく、私(審査員のひとり)が最終候補を選出するまでの過程での話ですので、二次に留めた、などの作品が他選考員も同様の評価であった意はありません。
「あたらしい指」/渋皮ヨロイさん
・原作に寄り添って書いて頂いている作品。あたらしい指を求めるミーと発話できない(もしくはしない)ボワ、主要人物二人の対話方法(ボディランゲージ)、音、声が届かないこと、自らの名前を自分で決めていること、などモチーフはかなり好きでした。
・全体として物語が小さく纏まっているがゆえに弱い気がしてしまい、かつ原作をステップにして(原作における身体の扱いを)踏み越えているわけではないようにおもえ、一次で×は付けなかったのですが次点・最終には残しませんでした。いまのままでも魅力的ではあるんですが、もしボディランゲージが伴う関係性に対してもっと鋭い設定か展開があれば推してたかもしれません。
「F・U」/竜胆いふさん
・最終に残っていた作品です(私ではない審査委員の一人が残していました)。
・まさかのファッキン?アメリカを舞台にした作品で、現実の地名や風俗と接続・改造して書いた作品は少なかったこともあり、公募作のなかで目立っていました。
・身体的遺伝性と対比された思考や意識の遺伝性、つまりミームの話であり、ゆえにスラング的な語が頻出する語りの正当性もあり、記憶の信用のおけなさや解釈の多義性(総じて誤認しうる--もしくはそれぞれの正解しかないポストトゥルース的意識)、など一見好きな短編でしたが私は最終には残しませんでした。
・好き嫌いが大きそうな語りですが、個人的には声のある一人称の語りは系統としては好きです。ただ、こういった語りを導入した作家の先行例(トム・ジョーンズやデニス・ジョンソン)と比べるとセンスオブワンダーさ、読み手の胸ぐらを掴んでひきづり込んでいくような、純然とした語りの根源的な魅力にはやや欠けるように感じます。文章の練度が足りないとかではなく、作中設定との相性と、細かに語り手の像を展開や所作で形成できるだけの上限文字数が足りなかったことに起因するのではないかとおもいます。独立都市であるボルティモアを選んだ点や、”フレディへの冒涜””歩き回らない星”などの造語(じゃなかったらすいません)のセンスはかなり好きで好意的に読みました。ただ、どうしても説明的にたどっていく展開設計とこういったタイプの語りの主体をどう魅力的にするかの命題に対して、この字数で処理し切れておらず、相性が悪かったのかも……。逆にいえば、文字数があれば語られる内容とラストの私=物語における、私の大きさをより発展させてかなり強力なものにできたのではないかとおもいます。
「系統樹に鋏を」/永津わかさん
・なにかしらの展示館(美術館?)に勤務している”僕”の話で、街の中の何かしらの職業を書いている系の公募作のなかではちょっと異色でした。軽い突き飛ばしについても語り手がかなり気にする、旧世代と崩れた世代の使う道具に対する身体の不自由さ(鍵、手袋など)、など細部からしっかり原作を読み込んで書いてくれているのが伝わってきて嬉しかったです。
・鑑賞すること、されること、に対して言明しやすい舞台構成から、一次創作への批評が可能な空間形成になっていて舞台設定が好ましかったのです。見る/見られるに対して、原作を超える、もしくはより強く新しい視点を与える、一泡喰わせるようなものがあればより良かったとおもいます(生意気にすいません)。
「ゲノムの差異」/げんなりさん
・描かれている情景がとても面白い作品。特に前半のステージの身体の変容は読んでてその後どうなるんだろうと興味を引きました(ただし一般的な美醜に寄ってしまっている印象はありました)し、工場でつくっているもの(おそらく夢だったけど)も後半で解像度があがって示されるなら期待できるものでした。
・しかし、小説自体が途中で頓挫している印象を受けたので、一次で落としてしまいました。完成度をあげたらどうなったのか気になる作品だったので、読んでみたかったです。
「煙の街のカーニバル」/こい瀬伊音さん
・工員と工場の内部を書いた作品。開幕から海老チリ(らしきもの)が出てきて良かったです。キイさんの特徴とその後出てきた軟骨の下り、タコの扱いなど構成/モチーフの関連性や展開の整理もしっかりされており小説として楽しく読めます。
・どうしても●を●●●系(ネタバレになるので伏せます)は被るものや上位互換的になってしまう公募作が多く、比べていった結果としてギリギリ一次で×をつけてしまいました(すいません)。瑕疵は少ない作品なのですが、他作に原作からの飛躍力で差をつけられてしまったなという印象でした。
「晴天祭」/藤崎ほつまさん
・最終候補のリストに残していた作品です(ただし、私のみ)。
・工場の内部とその工員の身体、その行く末を書いた作品ですが、原作の要素から密接なものを連想していったというよりは独自性のある形に書き換えたうえで作中の事象を当てはめて、かつその身体に沿って確かな物語を構築しており好意的に読みました。(※二次創作ってどこまで改造していいの?問題はありますが、個人的にはどこまで飛躍していてもOKで選んでいます。もちろんただぶっ飛んでいれば良いという話でもないのですが、逆いえば飛躍度が高いから不利になるような選考基準を私自身は今回支持しませんでした。)また、身体の設定にただ寄りかかった形ではなく、この身体であることに付随する描写や設定をしっかり練ったうえで展開や感情・生態を描いていているのも巧みでした。小説として細部の設計にも細かに目が届いているぶん単一の作品としての強さも確実に持ち合わせているとおもいます。展開的に他の工場を書いたものと被る要素はあったのですが、そこで競り負けてはいないとおもいます。呪い、という観念的なものが工場で生産されているのもユニーク。
・そのうえで、この作品において特に優れていると感じたのはラストの展開、そしてそれ以上にラストで起こる事象に対する捉え方でした。工場内部が描かれる公募作品はラストで悲嘆な箇所に到達する場合が多い傾向にあったのですが(それ自体が悪いとかではい)、この作品はそこを悠々と蹴って先に進んでおり、それゆえ最終に残しました。凡庸な書き筋では到達しない、この身体だから書ける感情を書いており私自身は凄く好きなラストでした。具体的に書くとネタバレになるので書きませんが、とにかく読んで欲しいです。人によって好き嫌いはでるかもしれませんが、こういう、安直な悲劇に接続することを拒んだ到達に私自身は惹かれます。
・選考会中はほかの最終候補と同様に推しましたが、(他最終候補作と比べて)厳しめにみると作中に導入した要素を使い切れていない箇所がややあったりと、瑕疵とは呼べなくても他作と比べていくと競り負けてしまう要素もいくつかあり、落選となりました。
「ジョン・スミス」/和倉稜さん
・最終に残していました(私以外の審査員二人、私は次点の一位)。単純な票数?
的にはいちばん公募採用に近かった作品です。また、最終的に採取候補作からさらに数作に絞られそれぞれ決選投票にも残っていた作品です。「透明な鳥たちの歌(公募時タイトル)」「SMEECH」と争ってギリギリで不採用となりました。
・エドガー・アラン・ポーの諸作品とシェアワ原作(となりあう呼吸)を悪魔合体させつつ独立性もある小説に仕立て上げた見事な作品でした。モチーフになっているポーの作品を知らずとも読めるようになっていますが、元の作品を(少なくとも粗筋やどういったモチーフがどう作用している作品なのか)知っておくと巧みさがよりわかって面白いとおもいます。かといって、知らなくても十分楽しい独立性のある優れた作品です。そしてそれはポーだけでなく、「となりあう呼吸」を読んでいなくても楽しめるはず。シェアワールド作品としても、単純にひとつの小説として素晴らしいとおもいます。
・大枠的な魅力でいうと、まず他作と比べて空間設計の上手さがあげられます。他作品が小説空間において①シェアワ原作の"街"を再利用(もしくは改造)して書く、②シェアワ原作の"街"とは別に空間が存在することにしその空間を書く、という形で創作された話が多かったのですが、この作品は空間設計においてはかなりミニマムで基本的に"家"が小説の現場となっています。ゴシック小説(と書くと含まれる要素が多過ぎて誤解を生む可能性もあるのですが)における閉鎖空間/限定的空間とその空間の小説における必然と作用、という先行作に多く採用されている構造を活用しており、かつそのミニマムな空間設計によって無駄な部分や助長な要素を最小限に抑えた上で書かれており、この小説がこの小説として成立するうえで最適な選択をされているとおもいます。
・細部的には、ポーの直線的な(タイトルをそのまま出した)パロディと細部に組み込まれた(細部の展開で処理されている)パロディを作品の全体に組み込みつつ、独立させている点、そしてそれらがシェアワ原作の要素と符合するものを選んでいる点、それらを成した上で奇想小説的なおかしみでリーダビリティも高く、石鹸(両親媒性物質)の概念の導入(”二つの物質の境界面に配向することであたかも混ざったように振る舞う”はシェアワ原作の性質を一面的にはかなり短文で明確に言い当てています。上手い)、そして最後には身体的な拡張、そのユーモラスな表出で奇妙に楽しい。完璧ですね(改めて書き連ねると、なぜ落とした?と自分に問いたいくらいです)。
・初読で手練の作品とわかったので、個人的には初読段階で最終候補にいれるかどうかのテーブル(次点群)に上げていました。ただ、最終候補の最終決戦投票では、私は別の作品に票を入れました。この作品に瑕疵があったわけではなく、(最終作品群はすべて一定の完成度は持ち合わせている上で)むしろ採用作のほうが瑕疵は多かったとおもうのですが、それでも採用作品(透明な鳥の歌い方)そのものポテンシャル・モチーフの切実性/強度をすべて考慮した魅力において、私は採用作に票を投じました。そしてそれはもし今投票をやり直しても(少なくとも私の投票先は)変わらないとおもいます。
・瑕疵、とは呼べないですが、もしひとつ他作と競る上での弱点があったとすれば、ポー作品を採用することに他作品が使用したモチーフと比べて強度があったか、という点になるとおもいます。導入されたポーの作品は確かにシェアワ原作に対して符合しており、そのパロディをもってして小説を駆動させる手腕は見事でした。ただ、他作がそれぞれその小説において確実に必要なモチーフとして導入しているのに対して、ジョン・スミスにおいては(ある程度筋は変わったとしても)例えば別のゴシック小説でも代替が可能といえば可能な構成になっているとおもいます(もちろん大枠の話で、細部も含めればこの形でしか書けない小説ではあります)。あらゆる小説のあらゆる要素は(少し変形するとしても)代替可能性があるともいえますが、この小説においてはその性質が顕著であるように私にはおもえました(もちろんそれそのものが瑕疵になったわけではありません)。その点において、他作と比べてとき私は強力には推しきれませんでした。もうこのレベルになると言いがかりめいてもくるんですが、それでも他の最終作と比べたとき唯一そこだけは(読み手によっては)競り負ける要素だったかな、とおもいます。
・本当に落選が惜しい……と選考委員は(少なくとも私は)おもっていた作品で、じゃあ落とすなよ!と作者様はきっとおもうよな……とおもいつつ、本当に運とかそういうレベルのものが反映されうるくらい採用作とギリギリの戦いになっていたので、でも肉薄は肉薄で制圧じゃないから落ちるときは落ちうる……ゆるしてくれ……と三日くらい落選作の亡霊にうなされた原因のさいたる作品です。
「SMEECH‼」/十三不塔さん
・最終に残していました(私ともう一人の審査員)。また最終の最終の決選投票で惜しくも敗れた作品です。「透明な鳥の歌い方」「ジョン・スミス」と争ってギリギリで不採用となった、採用にかなり近かった作品です。
・かなり原作から飛躍しており、かつめちゃくちゃ尖りつつエンタメ性も高い優れた作品です。単純な飛躍度NO.1は苦草賢一氏の「第49話 衝撃の大円団! さらば超煙合体エンガオン!」でしたが、「SMEECH」はシェアワ原作の基盤をしっかり踏みつけた上で一番高く飛んだ作品でした。
・物語/作法におけるレイヤーが二つに分かれており、①はシェアワ原作をかなり拡張解釈して大幅に独自の設定を付与しているレイヤー、②は①で追加した設定によって生じる劇空間(戯曲形式で書かれる)、と公募作のなかでもかなり異色であり完成度も高い。シェアワ原作を大幅に書き換えつつ、尖っている公募作品はいくつかありましたが、そのなかではぶっちぎりの一位です。
・それぞれの階層の魅力を述べると、①はシェアワ原作の設定を踏襲しつつ子供たちが凧を操縦し(身体の性質からさせられているともいえる)工場知性群の調査を行う”文字起こし”なる職についてる様相を描いており、その他拡張された設定だけで楽しめます。②はその工業知性群との対話?においてある種の失敗/危険な状態になり、仮想の劇場に引き込まれた状態が戯曲形式で描かれます。②の内容は、ナンセンスなアングラ演劇を想起させられます(それだけでも読んでいて楽しい)が、ダブルキャスト、胎と生/墓と死の取り違え(テキストによる誤認)、マネキンへの認識差etc、とかなりシェアワ原作から取り出しつつ再改変した要素で構成されており、シェアワ原作を読んでいると巧みな構成になっていることが見て取れ、より楽しめるようになっています。そして①に再度戻ったあと、皮肉にも青空を目撃する"文字起こし"たち(乙天・証空・若天のうち、生き残った証空・若天)……そしてラストの展開につながっていく……と、尖った表現をしながら構成もしっかり成された巧みな作品です。
・決戦投票に残っていた作品なので瑕疵はまずないのですが、個人的に推しきれなかった(選考委員の我儘とも言う)要素があるとすれば、構造上ラストのカタルシスが少し弱いと読むことも可能な点を選考会ではあげていました。作中で証空と若天が煙の海(刹那であり無限でもある劇空間)へ飛び込むラストはめちゃくちゃかっこいい(時間認識が歪んでいるので、仲間のために自力でワイヤーを切った乙天に劇空間で再会できるかもしれないし、ギリギリ助けられるかもしれない)し、物語的にカタルシスがあります。ただ、乙天・証空・若天のいる階層(レイヤー①)と劇空間(レイヤー②)はそれぞれ対立的/乙天たちからすれば調査対象であり広く捉えれば敵、ともいえる構造、そして劇空間の性質から、①→②に対して作中内部においてアンチフィクション的構造になっている(とも読める)ことを踏まえると、①に関してはフィクションとしても一定のリアリティ(細部)や設定以上の背景(その世界/もしくは焦点のあたっている個人、がどうなっていて何が問題で何が解決されるべきか、など)が強くあるわけではないため、最後の打開へ向かうダイブのカタルシスは単純に作中の状況の打開へ向かうというカタルシスしか生じないようにおもえました(それでも十分気持ちいいんですが)。他最終決戦投票に残った公募作のラスト(と、そこにたどり着くまでの物語/要素)がそれぞれの形で(切実であれユーモラスであれ)その小説の道程において強く呼応しているのに対して、そこは少し競り負ける要素だったかなとおもいます。(最終の最終に残っている作品なので、もちろんここは瑕疵ではないし、もうこのレベルの競り合いだと選考委員の好みとか……言いがかりめいてはくるかもしれないんですが……)
・またこの作品ならではの固有名(現象の名前など)が頻出しますが、魅力でもありつつ、どうしても個人的には中・長編向きの処理におもえました(それぞれ作中で生きていないわけではないですが、使用回数を考えると、短編向きではないようにおもえます。というか、もうこの設定で長編を読みたい)。これは私の穿った好みかもしれませんが、ここの処理の是非は少しだけ選考会での(私の)評価に影響していました。
・こちらも本当に落選が惜しい作品でした。巨大な落選作の亡霊の一つ……となり私を選考会後に悪夢に誘った作品です。
「第49話 衝撃の大団円! さらば超煙合体エンガオン!」/苦草堅一さん
・原作から遠くへ飛んでいる、という意味では一番の作品だとおもいます。面白く読みました。文章も上手いです。試演、挫折されたもしくは堕胎された物語/テキストの群れ、戯曲形式、世界の眼であり蔓延する作品内の規範性である”描写”が口をもち、ガガムジの眼(個→天/客観/三人称、というか移人称的なもののベタな階層への表出?)の設定など、メタフィクションを構成するにあたり十全な用意があったようにおもえ、面白く読みました。メタ的なレイヤーが最終的に作中のベタなレイヤーに重なって(退場し観客席に座って)終わりますが、ただそれだけではメタ的に原作をハックする/解体する、という観点においては少し弱いかなという印象でした。一次読みのときは残し二次で落としてしました。楽屋裏(的な箇所、メタ)を利用した物語は個人的に好きですし面白いですが、であればこそ楽屋裏のさらに奥の奥の闇のなか、もしくは表舞台を蹴ってより遠い階層へ行かなければならないと個人的にはおもいます。
・選考会のときはもちろん話題になっていました。
・余談;タイトルからしてヤバく、公募作が纏まったフォルダ内をみた瞬間に笑ってしまった。苦草さんかな〜とおもいつつ、氏の他作を読むとけっこう(よく読むと)闇の深い作品も多い印象だったので苦草確率90%くらいの感じで読みました。ただ、誰の書いたものかは何となくわかろうがわからなかろうが評価に関係ないよう努めました。(むしろなんとなく予想できてしまったものほど、点数は厳しめにつけてしまったかも……すいません。)
「蝶乙女の舞」/Yoh クモハさん
・エログロ系で、蝶乙女/踊り子(および娼婦)の出生から出産までの物語。焼き増していくような世代(生命)の感覚に敏感な構成、文章や展開の陰鬱さは好意的に読みました。独立した短編として読んだ場合、上手く構成された作品と判断したため一次では落としていません。ただ、美醜の感覚、崩れること、について原作で提示されたものよりか一般性に寄って書かれている点で飛躍力が足らず点数を落としてしまい、二次のときに落としてしまいました(すいません)。【それはまだ、人間の身体が崩れ始めて間もない頃で、余裕のある家庭の親たちは赤子たちに「切除」や「移植」を施し、彼らが本来のものであると信じる形を保とうと試みていた。】の世代を意欲的に見定めて書いているがゆえかとおもいます。原作より上の世代を書いた作品はいくつかあったのですが、完全にリアリズムに振って漠然とした産みの不安を丁寧に書いたものなど、近い設計で他に優れた作品があったことも落選の要因でした。繰り返しになりますが、単一の作品としては優れているとおもいます。
・作中最後にある原作の登場人物が生まれますが、最後にそれを行うのであれば前半でもっとオリジンに繋がる展開をより強く入れてみてもよかったのかな……と個人的にはおもいます。※「蝶乙女」の生き様や父親は別だとしてもマルセルの口笛(踊らせる音)、出産時の唄などの要素としっかり繋がってはいるのですが、モチーフでの合致が多く、展開としての関連は薄くおもえ、二次創作としての驚きには繋がっていないかも……という印象でした(すいません)。
「出遅れ過ぎた卒業と、ある殺人」/九頭見 灯さん
・電子空間(仮想現実)もの!と期待しながら読み進めました。データサイズの圧縮(つまり容量不足)により崩れる体、プランク単位系、無限の時間、学園、まさかのプロレス描写、階層化された世界のレイヤー、そして(結果的に)階層を挟んだ殺人、と読んでいて驚きが多い作品でした。またおそらく公募作の中で一番SF(science fiction)らしい語や設定を導入していた作品であり、二次創作として、原作を自分の作風に取り込んでいく挑戦としてはとても好意的に読みました。
・作中における詩情や情緒的な記述、ユーモラスな記述が単文での魅力や面白さと相反して作品の進行を阻んでいる箇所も散見されるようにおもえました(つまり短編として纏まりがない)。私自身は詩情や文章でぼやけさせる操作自体は好きですが、サイエンスフィクション的語や展開・設定を行っているためこの作品への操作としては相性が悪いかったのではないかとおもいます。
・この作品自体は一次落ちにしてしまいましたが、電子空間およびそこから知覚/描出される世界であるということに集中した解像度の高い短編/かつ特殊な身体への言及や考察・解釈があればもっと上の順位だったとおもいます。
「憧憬の果実」/山口静花さん
・工場の内部、および工員を主軸に書かれた作品です。原作の世界観に寄り添って書いて頂いており、かつ原作のあるシーン(もしくはそれに類似したシーン)につなげる形で展開されており面白かったです。またフィガロはおそらく完全に喋れない設定で、マネは喋れる(フィガロの分まで喋る)対置関係も好きでしたが、ボディーランゲージ的な観点の鋭さがもっと強かったら……と欲張ったことを読みながら考えたりもしてしまいました。
・最後、踊り子に対する批評的な展開が可能な視点が描かれているとおもうのですが、せっかく原作のシーンに繋がっているので、原作の展開をもっと大幅に書き換えてしまうなど大胆な操作で書きたかったものを強く書かれたりしたらより刺さっていたとおもいます。
「花言葉など」/中川マルカさん
・機微の細かさに惹かれた作品です。登場人物らのそれぞれの心情的な機微はもちろんですが、登場するモチーフの運用も含めて繊細に処理されているとおもいます。例えば原作では海は出てこない(ので、もしかしたら海はない/もしくは内陸の世界かもしれない)のですが、冒頭から海へ渡った夫からもらった巻貝を登場させ、説明的でない形……つまり所作や登場する物体込みで世界に海があること(小説内空間の拡張)をさらっと行っていたり、また二股の若木(実は二股じゃないけど)も作中の内容に沿うならば夫婦関係……同一の根を張る共同体にみえるが、元々は単一の個人が寄り添った形が夫婦関係ともいえるでしょう……の表象的なモチーフとしても読めます(し、誤認性を含む描写かつ原作の内容に対するオマージュとしても読めるのでダブルイメージ、さらにいうと”二股”の語は不倫・浮気を容易に連想させることをおもえば三重の意味合いで受け取ることも可能だとおもいます)。あとは月の満ち欠けの記述も時間経過と生理現象の経過両方にかかって読めたり、深読み(もしくは好意的な誤読)できる箇所を列挙していくとキリがないですが、とにかく繊細に構築されている印象を受けました。物語の運びも同様で、業者が家にもの(すぐりの若木)をもってくる/肥料や水で育てるのも、夫の不在によりある種膠着した家庭の空間を書き換える処理として後半の展開の流れに心理描写以上に説得力を持たせます。(あと、タイトルにもなっている花のモチーフや、ラストにもかかってくる聖歌など、読むうえで必ず触れるだろうモチーフについてはここでは書きません。もしこれから読む人がいるのであれば、色々と調べながら/考えながら/自分の読みを確かめながら読むと奥行きと楽しみが増すとおもいます。)
・初読はそのまま、それ以降は各モチーフをまとめながら読み進めました。一次は通し、二次で留めました。優れた短編ですし、最終的に繋がる/エシカが願うものの距離の遠さもすばらしいのですが、少なくとも最終に残った公募作がなんらかの方向で爆発力をそれぞれもっており、悩んだ結果派手なものを(少なくとも私は)選んでしまいました。
「水の中に居ります」/茜あゆむさん
・最終候補に残しておりました(ただし、私のみ)。単純に単一の小説として全公募作を読み比べたとき1、2番目に好きだった作品です。エログロが多かった公募作のなかでエログロNo.1(?)の輝きを放っていました。それでいて上品。
・佐伯真洋さん(https://twitter.com/map_sheep/status/1518229653139255296)がTwitterで言及していたように(感想のタダノリ/すいません、まずかったら消します。)原作と細かな対比要素が美しく、そして対比されているから小説として優れているわけでもなく、しっかり独立性を持った強い小説です。
・言及されていない箇所で私が感じ取ったものでいうと、あっているかはわかりませんが(部分的に)ギリシャ神話のセイレーンがモチーフ/下敷きになっているように感じました。セイレーンといえば海で船乗りを誘惑する系のアレ(はしょり)ですが、元は河の神です。また作中で姉妹が出てくるのも納得できます。もしくは人魚/魚人/魚類的なイメージなのだとしたら、【メイドキャップに隠した耳の裏の襞、フラットシューズに押し込めた足指の股、臍のない平坦な腹部を知られるわけにはいかないのです。】も適当に崩れた箇所を決めているのではなく厳密に決めている気がしました。(ちなみに原作では、ギリシャ神話のナルキッソスとニンフのエーコーを下敷きにした箇所があります。モチーフの反転導入というか、しななかったナルキッソスなので気づく気づかないで原作の内容が変わることはありませんが、もしセイレーンなどを下敷きにされているのであればここも細かな原作へのリスペクトだったのかな……と嬉しくおもいました。)また、後半でいうと人魚姫的な喉を損傷した妹が主軸になり、【熱で溶けた肉がくっついて、脚は開くことが出来なくなっていた。】も人魚を想起させます。私の読みがあっているかあっていないかはどうでもよく、想起性の高い要素の円環/連関が素晴らしく、持ち味になっているとおもいます。火の文章上/展開上の扱いも同様です。
・前半が一人称複数→一人称の移人称、後半から三人称とトリッキーな作りになっている本作ですが、美点でもあり欠点でもありました(※審査会では指摘がありました)。私が感じた良い点でいうと、まず前半の一人称複数→一人称の人称の細やかな移行は姉妹の自我と生体に沿って妹→姉への変換で行使されており、厳密に行っていることがわかります。特殊な感覚を前半で描出したあとに後半で三人称で種明かししていく構成そのものは面白く読みました。語りにおける誤認性に対して意識的であることも原作へのリスペクトでしょうか。だとしたら嬉しいです。
・欠点としては、トリッキーな構成がゆえに、三人称に移行することで明かされる事実の強度が(前半が魅力的ゆえに)やや弱く映ることでしょうか。おそらく●(ネタバレのため伏せ字)を動物としてみている、とするホラー的要素/構成(人称の移行による誤認の暴かれ)自体は面白いですが、その要素が物語として大きな驚きがあるか、原作の身体の扱いから発展して構成しているか、でいうと、どちらかは満たしていて欲しいところですが、厳しいことをいうと両方やや足りなくおもいます。それが気にならないくらい私は面白く、作品の美しさに惹かれて読んだのですが。
・また、前半の姉妹の総体の感覚(私たち→私)が後半では前半で比重を置いたほどには活用されていない(物語に対して強力には符号しない)ように読めたのも、欠点だとおもいます。(私が読み切れてない可能性もありますので、その場合は謝罪します)
・推し作品がゆえに、感想が少し厳しくなってしまったかもしれませんが、細々と指摘したところで魅力が削がれる作品だとはおもわないがゆえです、すいません。広く読まれて欲しい一作ですし、もしもう数作選んでよかったのならねじ込みたかった一作です。
「輪転回帰」/ミツヤヌスさん
・次点7作(次点多くね?)に残しておいた作品のひとつです。また記憶違いで書き忘れていましたが最終候補に審査員一名が残していた作品です。
・丁寧な筆致で書かれた柔らかな雰囲気で、エログロ渦巻く公募作のなかで逆に際立っていました。”煙”、そして工場でつくられていたものについて独特な解釈で書かれていることも魅力的です。原作では概ね終わりのない工場の煙が書かれていますが、こちらではむしろ工場も廃墟になった先の世界を描いています。
・タイトルはおそらく輪転機と身体の崩れの認識の回帰構造から取られており(さらに先の未来でもし愚行/変容が繰り返されるかもしれないことを考えると永劫回帰的でもあるかもしれません)、オスカー・ワイルドのモチーフ、ことばと遺伝(ゲノム)についての設定、ことばがどう身体を既定しているかのベタ/メタ両方にかかった内容、など読み込んでいくと良さがより増します。
・ただ物語がやや薄く再構築された解釈/概念の提示にとどまってしまっており、他の次点作や最終作に押され、最終候補には残せませんでした。これはほぼ無茶振りですが、語り手側の主体がよりつよく、かつこの世界のこの対話外の空間が広く感じられる(回帰した世界の有り様)展開が挟まっていればより小説として強くなったのではないかとおもいます。
「レンダリング」/鳥原継接さん
・生物濃縮/同物同治的な観点を組み込んで描かれた(そこから出発する)作品です。人肉食的な観点をオチとして終わるシンプルな話ではなく、どういった意識/モチーフを書くか序盤でしっかり理解せしめる構成になっており上手いとおもいます。また、単純に食ったからそうなった、でなく人体が塵になることで生活のなかで取り込んでしまっていることなど、凡庸なモチーフの使い方でなく作中で起こっている現象を再構築し踏み込んで書こうとしている点を好意的に読みました。
・容姿がならされていき、見分けがつかなくなっていく展開も魅力的。
・ただ、5,000字というバランスを取りにくい字数が上限であることが災いしたのか、中盤以降は若干物語と提示される要素のバランスを崩しているようにおもいます。字数を要して書くべき要素とそうでない要素の選定がより厳密で、選ばれた魅力的なモチーフをフルスロットルで回せていたらより魅力的になっていたのではないかと想像します(身勝手にすいません)。逆にいえば+5,000字くらいあればいまの骨格を引き伸ばすままでも面白い地点に着地しつつ物語性もつよく担保できる作品だとおもいます。
公募採用作(2作品)
結果的に公募採用作は、暴力と破滅の運び手さんの『灰は灰へ、塵は塵へ』と野咲タラさんの『透明な鳥の歌い方』の2作品が採用となりました。どちらも別々の理由で優れていましたし、公開にあたり加筆修正されているので、どういったシェアワールド作品になったか実際読んで確かめて頂けるとシェアワの原作者としても嬉しいです。
一旦の終わりへ
めっちゃ疲れた……楽しかったけど、まあ疲れるよね、そりゃ……。
でも楽しいのほうがデカいので、運営各所、および公募投稿者全員、およびぼんやりとでもこの企画を観測してくれていた方へまじでさんきゅーと伝えたいです。まじでさんきゅー(疲労でこれしか書けない)。
ありがとうございました!!!!
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