大瀧詠一ファーストアルバム・CDにおけるテイク違い

 さきごろ大瀧詠一のファーストアルバム50周年版が発売されたようである。内容をみるに新たなボーナストラックは数曲しかなく、曲順もかなり変わっているようだ。音質は当然向上しているらしいが、どうも全体的にさほど評判は高くないようだ。そもそも作者本人が監修しているわけではない点が気になるところである。
 
 もともとこれ以前に出されたCDにおいても、たんにリマスターしたというだけでなく、微妙に異なるテイクが収録されているものが2曲ほどある。それを説明するために、以下オリジナルアナログレコードにおける曲順を挙げる。

1.おもい
2.それはぼくぢゃないよ
3.指切り
4.びんぼう
5.五月雨
6.ウララカ
7.あつさのせい
8.朝寝坊
9.水彩画の街
10.乱れ髪
11.恋の汽車ポッポ第二部
12.いかすぜ!この恋

 このオリジナルシークエンスの前後に数曲ずつボーナストラックが収められていて、オリジナルで聴こうとすると頭の数曲をとばさなくてはならないのだが、まずは4曲目の「びんぼう」である。笑っていいともにおけるMs.オクレのテーマソングとなったこの曲、アナログ盤ではエンディングに謎のドラム音に続いて、ラストに聞こえるか聞こえないかの小さな音で人が咳き込むのが入っている。「貧乏なので肺病を患っている」という大瀧一流のよくわからないギャグなのだが、この一連のサウンドがCDではばっさりカットされている。そして後半のボーナストラックのなかに“ヒマダラケバージョン”と称した“びんぼうひまなし”と言う歌詞を“びんぼうひまだらけ”に変えたテイクが収録されており、一連のサウンドはこちらの方につけられている。つまりびんぼうという曲は2曲もはいっているにも関わらず、それぞれが僅かずつ異なっていて完全にオリジナルと同様のテイクは入っていないのだ。

 12曲目の「いかすぜ!この恋」のオリジナルは、わざわざラジカセで録音して最後に7曲目「あつさのせい」がふたたび始まるかと思いきやそこで終了、というウイングスのバンドオンザランのような構成だが、このテイクはCDの一番最後に収められており、もともとの12曲の流れのなかでのその曲は、普通に録音した普通のサウンドで収録されている。

 アナログからCDへの変換において、とくにジャズのアルバムにおいてボーナストラックがオリジナルに続いて収められることが多々あって、普通にアルバムを聴きたい人間にとっては結構じゃまなことがあるが、大瀧詠一のこのアルバムもその例と変わることがない。ボーナストラック込みでなんとか全曲を通して聞かせたい、という意図なのかも知れないが、いささか面倒である。

 私ははっぴいえんどに始まる大瀧詠一の主なアルバムはわりと聴いていると思うが、とにかく一番好きなのがこのファーストアルバム、正確にはアルバムタイトルが「大瀧詠一」、パフォーマーが大瀧詠一というこの1枚なので、もっと聴きやすい形のCDを出して欲しかった。アナログプレーヤーを買いなおしてそっちで聴くしかないかな。

 ちなみに個人的に一番好きなのは3曲目の「指切り」である。大瀧のサウンドは勿論なのだが、何と言っても松本隆の詞が素晴らしい。今回のCDではなんとこの曲の前にわざわざ「恋の汽車ポッポ」が入っているらしい。意味不明である。

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