事業の連続的成長に必要なたった一つのこと
「事業の"非"連続的成長」。事業に携わる多くの人、そしてスタートアップの経営層であればほぼ全ての人が志す言葉だ。
事業の非連続的な成長を追い求める事はスタートアップで絶対に必要だ。
規模の小さいスタートアップ企業が、社会を変える、革新を起こす、大企業に勝つためには「連続的」な成長だけでは決して届かないからだ。
一方で事業を連続的に成長させること。これだけでも非常に難しい。
「非連続的」な成長を掲げながらも、それ以前に「連続的」な成長ができず苦しんでいる会社も多い。
中期的に連続的な成長ができている会社とそうでない会社で何が違うのか。
「連続的な成長」と「非連続的な成長」に必要な手段は何だろう。
多くの人がどのような手段を想起するか。
連続的な成長の手段
数値の可視化/行動量管理等のKPIマネジメント、デジタル広告運用改善、フォーム営業/テレアポ、業務フローのマニュアル化、継続的な採用チャネルの構築etc…
非連続的な成長の手段
新規領域のプロダクト開発、CM等のマスマーケティング、大企業とのアライアンス、AIによる業務プロセスの自動化、海外展開、大物の採用、M&Aetc…
あくまで一例で粒度は様々だが、大抵この様な手段が想起されるはずだ。
今回は非連続的な成長については触れず、
この「連続的な成長」の手段群を抽象化して言語化すると、
連続的な成長の手段
=オペレーションの徹底と、施策やハックの積み重ねによる改善サイクル
のように整理できるだろう。
いや。この整理、本当だろうか。
ここに多くの人が陥りやすい落とし穴がある。
スタートアップ経営を2-3年して、自分自身も穴に陥りながら気付いたことだ。
その落とし穴とは何か。
当社の事業の一つのフリーランスマッチング事業でその穴に陥った話をする。
この事業を一言にすると、「ミドル~シニア層のフリーランス人材を企業に紹介し活躍機会を創出する。」というもので、簡略化して事業ファネルにすると以下のようになる。
丁度一年前、僕らは苦しんでいた。
事業開始から1年で月商4,000万円に乗ったものの、そこから事業が思うように伸びなかったからだ。
いくつか要素はあったが、大きなボトルネックとなっていたのは、
企業と候補者の面接が組まれても一向に成約に結びつかない事。
つまり4.面接→5.成約の「成約率」。ここに大きな課題があった。
フリーランス人材の場合、一次面接からの成約率の業界平均が20%と言われている中で、当時の自社の数値は平均10%強。
業界平均の半分の数値だった。
扱っている人材の特性上、多少成約率が低くなるのは仕方ないと思っていた。ただ改善余地は十分にあると感じていたので改善に取り掛かった。
そこで着手したのが、先ほどの整理で述べた
オペレーションの徹底と、施策やハックの積み重ねによる改善
だった。
具体的には、
-面接対策マニュアルの整備
-面接前日の候補者へのリマインド
-面接5分前に候補者に入室してもらう
-面接後の企業側のフォロー徹底
-事前に候補者の求める条件を握っておく 等。
内定率と受諾率を上げるためにやれることはやった。
そしてこれにより指標が改善した。
……のであれば、良くあるオペレーション改善による美談的な話だ。
現実はうまく行かなかった。
相変わらず内定が出ない、内定が出ても候補者が受諾してくれない。
そうこうしている内に問題は深刻化していった。
メンバーのモチベーションが明らかに低下してきたからだ。
それも当然の話だ。
企業に候補者を紹介する。いくらこのアクションKPIを達成して面接が組まれても、成約というゴールに辿り着かないのだから。
そして成約が出ない事を行動量でカバーしようとした。
更にチームが疲弊していった。
苦悩していた時、相談していた知人の経営者からある質問があった。
「その面接から成約のファネルの究極の状態って何?
実現可能性や制約条件は何も考えずに。」
「採用枠が多く採用に苦戦している企業の現場決裁権者が初回面接官で、かつどこからも内定もらえる候補者が人材データベースに揃っていて、候補者を企業に紹介したら100%成約する状態ですかね。」
「いま行っている改善アクションはその究極の状態に向かってるの?」
「…………」
本質的な問題は何か。
それは面接→成約に至るまでのプロセスではなかった。
顧客の企業と候補者、つまり顧客アセットの質の問題だったのだ。
シンプルに「良い企業に良い候補者を紹介する。」
この状態を作れていない事が根本的な原因だった。
私達が取り組んでいた成約率向上に向けたオペレーションの徹底と、施策やハックの積み重ねによる改善は本質的な事業ファネル改善ではなく、短期的な効率改善施策にしか過ぎなかったのだ。
良い企業に良い候補者を紹介する。この状態を作る必要がある。
とはいえ、顧客企業と候補者アセットの質は短期的に向上させられるものではない。
-中長期で利益を生む顧客の定義とスコアリング
-スコア上位の顧客を獲得する営業戦略
-スコア上位の顧客に人材を紹介し続けるような仕組(例:TopTier企業に対し、人材提案数が不足しているとアラートが出る)
-新規顧客やスコア上位顧客への成約に対するメンバーのインセンティブ
-スコア上位の顧客との会食の開催 等。
この中に1ヶ月後に成果の出る、即効性のある施策は一つもない。
1年間やり続けた。その結果。
3ヶ月の平均値が1年で11.6%から31.4%まで上昇した。
大幅な改善といって差し支えないだろう。
結果として事業も大きくグロースした。
事業のファネルの改善なしに事業の成長はない。
マーケティングも組織も基本的に規模が大きくなるほど効率、生産性が落ちていく。
その規模の不経済に対し、事業のファネル改善で抗っていく必要があるからだ。
冒頭に述べた、
連続的な成長の手段
=オペレーションの徹底と、施策やハックの積み重ねによる改善サイクル
これは勿論大事だ。
しかしながら近視眼的に事業プロセスにおける目の前の行動量達成や短期的な指標改善に囚われてしまいやすい。これが落とし穴だ。
連続的な成長に必要なこと。
それは事業の質が高い状態を言語化し、その状態を実現するための本質的な指標を定め中長期的に改善に取り組むことだ。
その本質的な指標は当然事業によって異なる。1つではないかもしれない。
単純な売上=単価×顧客・・・的な因数分解からは出てこない。
事業ファネル上の分かりやすい数字では表せないことも多い。
そして、その本質的な指標を向上させるには当然時間がかかる。
一つの取り組みで指標が簡単に向上する事もない。
その長く苦しいプロセスを楽しみながら粘り強く向き合い続けられる。
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