カメラを向けるな!
『た子の足跡日記』ー有料老人ホームにてー
老人ホームでの楽しいエピソードを綴っています。
マツさんは写真を撮られるのが大嫌いだ。
理由は知らない。
大抵の方は「写真撮りますよ~」と言うと、にっこり笑ってくださるのだが、マツさんは逆に怒ってしまう。
なのでマツさんには「写真撮りますよ~」とは言わない。
「マツさん、ちょっとこっち向いてくださ~い」と言って振り向いたところをササッと撮るのが精一杯。
それでもカメラを見ると「止めて~」と言って怒ってしまう。
元々マツさんはあまり笑わないから、笑顔を撮るのは奇跡に等しい。
怒っていない普通の顔でも至難の業といえる。
ひな祭りに行事用の写真を撮ることになった。
お内裏様とお雛様の顔の部分を切り抜いて、観光地によくある「顔ハメ版」と言うのを作って、そこから入居者様に顔を出して貰い写真を撮る。
もうおわかりでしょうが、マツさんはとっても嫌がって悲惨なお雛様になった。
例えるなら、浅草雷門の風神雷神が可愛い着物を着ているような、ものまねのコロッケが、美川憲一のまねをしたような、とにかくお雛様の顔とは到底かけ離れている。
だが、その怒った顔のお雛様がもの凄く愛嬌があって、最高に愉快で楽しいのだ!
一人の職員が、「この写真見てるとさ~悩みなんて吹っ飛ぶよな~」と、言い、みんな「うん、うん」と頷いた。
とにかく笑えて・・・本当だ!悩みなんかぶっ飛んじゃう。
本人は全然そんな気なくて逆に怒ってるのに、誰かにとっては癒やしになってるこの不思議。
人は何に癒やされるか分からない、そして誰もが知らないところで誰かを癒やしているのかもしれない。
怒った顔のお雛様は世界を救う・・・かもしれない。
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