だんだん夏が遠ざかる
いつの間にか蝉にも触れなくなって、海も入りたくなくなって、暑いのも嫌になって、夏が夏じゃなくなっていった。
夏らしさを感じなくなったのは、外に出れないからじゃない。
花火がやってなかったり、プールに行けなかったり、縁側のない家に住んでいないからじゃない。
ごらんよ。玄関のドアを開けて、一歩足を踏み出せば、もうそこに夏はあるじゃないか。
蝉の音、ぎらぎらとした陽射し、むんむんとした熱気、入道雲、青々とした緑。
そういう「日常の夏」を聴かないで、見ないで、嗅がないで、触らないで、「今年は夏らしくないな」と思うのは、なんと勝手なことだろう。
夏を感じなくなって当然だろう。
窓を閉め切り、クーラーをかけて、涼しい部屋の中にいるのだから。
汗を流すこともなければ、蚊取り線香の匂いを嗅ぐこともない。
夏を遠ざけたのは、ぼくたちの方だろう。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?