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LGBTQQIAAPPO2STUVWXYZ
多様性とか、ジェンダーレスとか、性的マイノリティーとか言われるようになって、「LGBT」なんて言葉が社会に出現したと思ったら、いつの間にか「LGBTQ」になっていた。
最近はその後に「+」が付いていることが多いが、そのプラスとは具体的に何かを調べてみたら、LGBTQの後にはQIAAPPO2Sが続いているのが、見つけた中では1番長かった。
カミングアウトしやすい世の中になってきていて、有名人が「自分もそうです」なんて発言するネット記事を見掛けることがある。
そうすると、私もこれの何かに当てはまるのかな、なんて考えたりする。
自分の体の性と精神的な性に違和感を感じたことはないし、恋愛対象は異性だ。
だが、〝もの〟の嗜好だけが実際の性に当てはまらない。
一般的に女性向けとされている色や柄が、ことごとく苦手だ。
赤、ピンク、オレンジ色が嫌い。
パステルカラーなんかもっと嫌い。
花柄、ハート柄、マカロン柄など全くもって受け付けられない。
リボン柄のエコバッグなんて、ぎょえーと声が出てしまう。
では、どんな色なら受け入れられるのか。
一番好きな色は紺色。
他に心地良いと感じるのは黒、白、グレー。
それ以上あげるとするなら、ブラウン、ベージュと続く。
紳士服の色展開だ。
好きな模様は直線的なもの。
百貨店の1階にある、ハンカチ売り場を思い浮かべてもらうとわかりやすい。
婦人用ハンカチ売り場に、私が受け入れられるものは、ほぼない。
一方、紳士用ハンカチが並ぶ棚は私の好みで溢れている。
紺色と黒が主体となった色展開に、直線的な模様。
理想がそのまま目の前にある。
なのでハンカチは紳士ものを買っている。
ハンカチは良いのだ。
手を拭けるサイズであればいいのだから。
ハンカチの近くには必ず靴下売り場がある、
紳士用靴下の色と柄も、私のタイプだ。
欲しいものだらけだ。
これが自分の家の引き出しの中に入っていたら、これを履けたらどんなに良いか、と思う。
だけど、靴下にはサイズというものがある。
標準よりも足が小さいために、とても紳士用靴下には手が出せない。
理想そのもののヴィジュアルが目の前で売られているのに。
ズボンの裾上げはあるが、靴下のサイズ詰めは聞いたことがない。
スモールライトがあれば、と思う瞬間である。
最初に世間とのズレを感じたのは20代半ば頃だったか、女性誌のインテリア特集だった。
いいな、と少しでも思える部屋がなかった。
白やピンク色のふわふわしたものが部屋の中に溢れている写真だったのだと思う。
一方、男性誌のインテリア特集には、真似してみたいと思う部屋がたくさんあった。
木目が生かされた落ち着いた色の家具。
カーテンは紺色よりもわずかに明るい青。
ソファーは黒のレザー。
家電もとことん黒で、シックにまとめられた部屋。
男性誌には私の憧れが詰まっていたし、今の私の部屋もこんな感じだ。
その後、世間とのズレを強く知ることとなったのは、現代アーティスト・会田誠のインタビュー記事だった。
彼が東京藝術大学時代に、周りの生徒たちの制作風景を見て気づいた事として、女性は曲線的な絵を描き、男性は直線的な絵を描く傾向にある、という内容だった。
これを読んで、自分はマジョリティーの女性とは何かが根本的に違うのではないか、と初めて意識した。
私は曲線が苦手だ。
線はシュッ、とまっすぐであって欲しい。
自分はマジョリティーの女性とは何かが根本的に違うのではないか、と意識し始めると、社会から自分自身に、女性用の色が充てがわれていることに嫌悪感を抱くようになった。
女性用のトイレ表示で一番一般的な、正円の頭の下に、三角形のスカートを配したアイコン。
あれが赤色であることが嫌になった。
白か黒でも問題ないのでは、と思っている。
一般的に女性向けとされる色や柄がことごとく苦手だと、買い物が難しい。
黒色の無地のポーチを見つけて、大きさも生地感も機能性も良いな、と思っても、中を見てみると内側はピンクの小花柄だったりするケースの多さといったら。
買い物以上に難しいのは、人からものをもらうことだ。
贈ってくれた人の気持ちを一番、尊重しなければいけないことはわかっている。
気持ちだけでなく、時間とお金も費やして買ってくれたんだ。
しかし、私の趣味嗜好をよく理解してくれている人でない限り、一般的に女性向けとされるものが贈られる。
ハート型のポーチ。
ピンク色の花柄のポーチ。
真っ赤なりんごの形をしたケースに入ったボディークリームと、ふちにフリフリの付いたりんご柄のハンドタオルのセット。
ピンク色のビーズで作られた置物。
蝶々の柄がラメでプリントされたハンカチ。
どうしても、これらを受け入れることができなかった。
私の単なるわがままなのか。
私のこだわりが強過ぎるだけなのか。
それとも私の祖先は、狩猟最終時代に果物を探すのが下手だったのか。
|女性がピンク色を好むのは、赤い果物を探す狩猟最終時代の名残という説です。
|赤い果物を探すことのできる女性の方が生存に有利だったという考えです。
(『つくられる子どもの性差』森口祐介著より引用)
でも私の母と妹は、赤色もピンク色も好んでいる。
母は年甲斐もなく、春になると毎年、ピンク色のトレンチコートを着ているし、妹のダウンジャケットの色は赤一色だ。
と考えていくと、アレルギーに似ているかもしれない。
「すごく美味しくパンが焼けたから食べてもらいたくて持ってきたの」と言われても、小麦アレルギーだったら受け付けられない。
それに似ている。
体質なのではないか、と思う。
私には、飛行機のファーストクラスで世界一周する夢がある。
大富豪でないと叶えられそうにもない響きのある夢だが、世界一周航空券を買えばこんな私でも、多少の無理と、清水の舞台から真っ逆さまに飛び降りる覚悟を併せ持てば実現可能な価格である。
しかし、こんな嗜好であるために懸念事項がひとつある。
各航空会社のアメニティーだ。
エコノミークラスでは配られないため、今まで手にしたことはないが、旅行系ユーチューバーの動画を見るとそれは男性用と女性用があるらしい。
私がよく見ているユーチューバーは、夫婦で世界一周していた。
飛行機は6、7回乗り継いでいただろうか。
もちろんすべてファーストクラスで。
搭乗する度に、アメニティーの詰まったポーチをもらっていた。
航空会社によってはポーチがブルガリなど、ブランド品のこともある。
いいな、とも思ったし、飛行機に乗る度に荷物が増えて大変そうだな、とも思いながら見ていた。
しかし、夫婦それぞれが、飛行機に乗る度にポーチとアメニティーを紹介するのを見ていたら、それは自分自身への懸念へとすっかり変わった。
女性向けのアメニティーポーチは、赤を基調としたものを用意している航空会社が多かった。
これは困る。
一方、男性向けは黒やブラウン一色で落ち着いたものだった。
こっちが欲しい。
だが、男性向けのポーチの中身は髭剃りや髭剃りフォーム、それにサイズの大きめの靴下だ。
この中身では困ってしまう。
女性向けポーチの中身は鏡、コーム、リップバーム、ハンドクリームなど。
こっちが欲しい。
わがままである。
ポーチは男性向けのもので、中身は女性向けのものが良いんですけど、なんてわがままな要望は空の上できいてもらえるのだろうか、と夢を実現させる予定はまだ完全白紙であるにも関わらずこんな心配をし始めた。
例え親切な客室乗務員がポーチと中身を入れ替えたものを私にくれたとしても、それと同時に女性用のポーチに男性用のアメニティーの入ったものがひとつ誕生してしまう。
これはこれで問題だから、搭乗までに何か良い策を考えなければ、と悩んでいる。
調べてみても、〝もの〟の嗜好が実際の性と一致しない人に付く名称は、今のところ見付かっていない。
けれど、「LGBTQ」が「LGBTQQIAAPPO2STUVWXYZ」くらいまでに長くなった頃には、その中には私に当てはまるものがあるだろう、と思っている。