竹馬(ランダムワード小説)
ランダムに言葉が出てくるアプリを使って出てきた言葉をタイトルにした即興小説
よしこは、目を疑った。両目とも裸眼1.5の愛する二重まぶた(プチ整形)のこの目を疑うなんて、生まれて初のことだ。下手な女優みたいに目をこすってもう一度見た。
確かに竹馬だ。竹馬に乗った背の低い男がそこにはいた。マッチングアプリで身長180センチ以上をマスト条件にして、昨日マッチした男と待ち合わせしていた。プロフィールでは身長195センチとあって、どんな大男かと大きな自慢の胸(豊胸済み)を踊らせて来たのだ。
待ち合わせの銀の鈴の前にいたのは、竹馬に乗った小男だった。白馬ではない、竹馬だ(それもプラスチック製の)。確かに195センチあるだろう。しかしそのうち30センチは竹馬で稼いだ高さだ。
きょろきょろと辺りを見回した。待ち合わせた時間が悪いのか、有名待ち合わせスポットのはずのそこには竹馬に乗って凛と構えた小男(ニックネームはゆうじ)しかいない。
よしこは、勇気を振り絞って、ゆうじに声をかけた。すみません、ゆうじさん、ですか?
まさかな、私が昨日23時まで甘いメッセージを交わしていたのは竹馬込みじゃない、竹馬抜きで195センチだったはずだ。
照れくさそうに竹馬の上で、はい、とうつむき加減にゆうじがはにかんだ。少しよろけそうなものなのに、竹馬の足はしっかり大地を突き刺したままだ(まるで三本足みたいな安定感だ)。
ゆうじさん、195センチって、竹馬込みだったんですか?よしこは歯に衣着せぬ質問を浴びせた(もちろん上下とも歯列矯正済みだ)。
ゆうじは、そのストレートな質問にうろたえることもなく、ハイ、込みです!200センチだって大丈夫ですよ!とのたまった。まるで竹を割ったような爽快な返答だ。まっすぐに伸びた太い眉毛が、らくだみたいな長いまつ毛が、鼻が、口が、顎が、それぞれ愚直に突き出たそれらがまるでクラーク博士の人差し指のように未来を指し示していた。
男は身長じゃない、やっぱり顔ね。よしこはそう確信して、矯正下着のフックをぱちんと外した。