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最後の「あれもEこれもE」展 ー 房総半島の加曽利E式土器の変遷

千葉市立加曽利貝塚博物館は縄文中期の加曽利E式土器・後期の加曽利B式土器の標式遺跡である加曽利貝塚に立地しています。

国指定史跡 加曽利貝塚の石碑、後ろに貝層断面観覧施設が見えます

加曽利貝塚博物館では2018年から毎年、加曽利E式土器をテーマとした連続企画展「あれもEこれもE 加曽利E式土器」を開催してきました。本年度は最後のまとめとなる総括編が昨年10月から開かれていて、残り会期もわずかとなっています(2024.10.8~2025.3.2)。

加曽利貝塚博物館では2018年度から重点研究課題「加曽利E式土器の集成研究」が進められ、「あれもEこれもE」はその成果を公表する場だったとのことです(文献[1]~[5])。この研究の目的は、房総半島で出土した加曽利E式土器について「データベースの作成およびカタログ化を行うことで、土器編年研究上の課題を解決するための基礎資料を提示すること」でした。

総括編の展示では、これまでの研究成果の要点を押さえて、房総半島の加曽利E式土器の変遷が分かりやすくまとめられていました。

加曽利E式土器の流れ(会場パネル)
地文と主文様のいろいろ(会場パネル)

中峠類型~加曽利EⅠ式 加曽利E式土器のはじまり

中峠なかびょう類型は縄文時代中期中葉の土器群と後葉の加曽利E式の要素をあわせ持つ土器群です。交互刺突文や隆線上の刻み目、集合沈線などに特徴があります。口縁部のクランク文や縄文の地文に特徴を持つ「下総台地型」の加曽利EⅠ式土器の起源となったと考えられています。

中峠6次1住型 中峠遺跡(松戸市)
中峠0地点型 中峠遺跡(松戸市)
加曽利EⅠ式土器 荒屋敷遺跡(千葉市)
この土器は加曽利EⅠ式ですが前の時代の要素が強く残っているように思います。
加曽利EⅠ式土器 高根木戸遺跡(船橋市)
加曽利EⅠ式土器 小山台遺跡(柏市)

加曽利EⅡ式 外来土器の影響

加曽利EⅡ式では、頸部の無文帯が消失し、胴部の懸垂文の沈線の間の縄文が磨り消しになります。形や文様の規格化が進み、互いに似通った土器が多くなるようです。

加曽利EⅡ式土器 加曽利貝塚(千葉市)

また加曽利EⅡ式の時期には、曽利式土器・連弧文土器・大木式土器などの外来の土器が房総半島に入ってきます(文献[6])。

外来の土器の影響(展示パネル)

西から土器やその情報が入ってくる場合、北西部から陸路で入るルートと対岸から海を渡って内房に入るルートがあります。内房地域は海路での交流が盛んだったようで、曽利式土器や連弧文土器の影響を強く受けています。

曽利式土器 伊豆山台遺跡(木更津市)
加曽利E式/曽利式折衷土器 台木A遺跡(木更津市)
器形と文様構成は加曽利E式土器の要素を持つ半面、器面を縄文ではなく線刻で埋める、西関東に多い曽利式の影響を色濃く受け継ぐ例です。今のところ君津・安房以外では見つかっていません。

加曽利EⅢ~Ⅳ式 意匠充填と横位連携弧線文

加曽利EⅡ式の新段階になると口縁部文様帯が崩れ始め、加曽利EⅢ式以降は口縁部文様帯がなくなって意匠充填系や横位連携弧線文の土器が中心になります(文献[7])。一見すると、ただ崩れて雑になっていくように見える、この時期の加曽利E式の文様ですが、崩れ方にも順序や法則性が見出せるようです。

大木式にみられる、隆線や沈線で渦巻などを表現する意匠をもとに、加曽利E式の表現の中で創出された文様です。EⅡ式期に文様表現にあらわれ、おもにEⅢ~Ⅳ式期にその表現の幅が広がります。(展示パネル)
隆線や沈線で描いた弧が、横に連続して描かれる文様です。EⅢ式期から広く使われるようになり、EⅣ式期にも引き継がれる文様です。次第に、上段の連続した弧と下段の弧が入組み状態に表現されるようになります。(展示パネル)
加曽利EⅢ式土器(意匠充填系) 飯積原山遺跡(酒々井町)
加曽利EⅣ式土器(入組系横位連携弧線文土器) 武士遺跡(市川市)

加曽利EV式 縄文後期の加曽利E式土器

加曽利E式土器は、縄文時代中期後半の土器で加曽利EⅣ式まで、というのが従来の一般的なとらえ方でした。しかし近年、後期の称名寺式土器成立以降の段階に下る加曽利EⅣ式土器のながれを受け継ぐ土器について、加曽利EV式土器という呼称が定着してきたようです(文献[4])。

加曽利EⅤ式土器 すすき山遺跡(千葉市)
「①意匠施文域下端に横位の区画文を有している。 ②縄文地の方形区画文の効果を有している。これらの特徴には、称名寺式士器や大木10式士器の影響を認められ、後期に下っている可能性を指 摘できることから「加曽利EⅤ式」とした。」(文献[4])

長い間、連続企画展を続けてくださった加曽利貝塚博物館の皆様に深く感謝いたします。
最後までお読み頂き、どうもありがとうございました。

[参考文献]
[1] 佐藤 洋 "加曽利E式土器資料集成研究①(千葉市内編)" 貝塚博物館紀要/千葉市立加曽利貝塚博物館 編 45 (2019): 47-60.
[2] 米倉 貴之 "加曽利E式土器資料集成研究②-印旛地域との比較検討-" 貝塚博物館紀要/千葉市立加曽利貝塚博物館 編 46 (2020): 41-54.
[3] 館 佑樹 "加曽利E式土器資料集成研究③-北西部地域を対象に-" 貝塚博物館紀要/千葉市立加曽利貝塚博物館 編 47 (2021): 53-61.
[4] 館 佑樹 "加曽利E式土器資料集成研究④ -千葉市域の加曽利E式終末期の様相について-" 貝塚博物館紀要/千葉市立加曽利貝塚博物館 編 49 (2023): 41-48.
[5] 渡邊 玲 "加曽利E式土器資料集成研究⑤-内房地域編-" 貝塚博物館紀要/千葉市立加曽利貝塚博物館 編 50 (2024): 115-133.
[6] 大内千年 "房総半島における非在地系土器について: 縄紋時代中期後葉の曽利式系土器のあり方" 国立歴史民俗博物館研究報告 167 (2012): 113-125.
[7] 加納 実 "加曽利EIII・IV式土器の系統分析 - 配列・編年の前提作業として" 貝塚博物館紀要/千葉市立加曽利貝塚博物館 編 21 (1994): 1-41.

千葉市立加曽利貝塚博物館
〒264-0028 千葉市若葉区桜木8-33-1
開館時間:9時~17時(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日(休日を除く)、休日の翌日(土曜日・日曜日・休日・休館日を除く)、年末年始(12月29日から1月3日)
入館料:無料

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