35・イングルヌックとドリトル先生の台所
建築家の中村好文さんの「普段着の住宅術」という本に、
イングルヌック(入込暖炉)というのが出てきた。
暖炉を囲む小さなコーナーで、この小部屋そのものが大きな暖炉にも見えるつくりで、暖炉ひとつじゃ部屋中は暖めきれないのでこの中にもぐり込むということらしい。
これ、どっかに出てきたよなぁ。
そうだ、確かドリトル先生航海記のなかで、ドリトル先生の台所がこんな感じだった。
親が買ってくれた講談社世界少年少女文学全集のなかの ドリトル先生航海記は愛読書のひとつだったが、大人になって 作者のロフティング自身の挿し絵が入ってるドリトル先生シリーズの本を手に入れたので、あまりにボロボロだった文学全集の方は処分してしまった。
同じ井伏鱒二の翻訳だったからいいかなと思ったのだが、慣れ親しんだ文学全集の挿し絵のほうがずっと好きで、シリーズの方は読む気がせず、それも処分してしまった。
こうなったらどうしても、文学全集の本をもう一度見たい。
古本で、千円ちょっとで見つけたので、さっそく購入。
古いが 私の本よりずっと状態はよく、あまりのなつかしさに
「そうそう、これこれ」と感激。
その台所の描写。のちにドリトル先生の助手になる少年が初めてドリトル先生と出会って、先生のお宅におじゃましたときの描写です。
「それは、とてもすてきな台所でした。わたしは、それからのちも、ここでなんどもごちそうになりましたが、世界じゅうでいちばんりっぱな食堂よりも食べもののおいしい場所だと思いました。
それは、たいへんいごごちのよい、あたたかい感じのところでした。」
まったくもって 台所とはこうありたいものですねえ。
「それから、この台所のストーブのことですが――これは世界じゅうで、ずばぬけて大きなストーブといってもいいほどで、それだけで一つのへやといえるくらいでした。火がもえているときでさえ、ストーブの中にはいっていくこともできました。そして両側にできているひろいこしかけにこしをかけ、食事のあとで、クリを焼くこともできました。」
これって、イングルヌックそのものじゃないの!
「それはきもちのいい台所でした。感じがよくって、きちんとして、したしみがあって、どっしりとして――その感じはちょうどドリトル先生の人がらに似ていました。」
ドリトル先生のような台所を目指すなら、まず、人柄をみがけってことか。
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