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やまがたで自由に生きることは可能か――「東北の春」に向けて(17)

本を出版することになりそうだ。現在、絶賛編集作業中(!)なのだが、それは、2013年夏から17年冬までの4年間、『山形新聞』紙上で52回にわたって連載した「ヤマガタ青春群像」の書籍化の企画である。

山形県内各地で近年隆盛している若者活動――地域づくり、アート、市民活動など多岐にわたる――の現場を訪ね歩き、その活動者の声を紹介し、そこにある可能性を社会学的に解釈していくという、月一掲載の連載記事だ。全部で50人の活動を紹介した。

中山間集落を美術館に見立てて住民たちとともにアートイベントを行うアートユニット、羽黒山伏の思想をベースに山の恵みを用いて行うソーシャルビジネス、オタクの若者たちが気兼ねなく街中に集えるような場づくりの活動など、その内実は多彩だ。

通常は政府・企業の御用聞きに陥りがちなマスメディアにおいて、かようにマイナーでオルタナティブな諸活動に定期的に誌面を割く――いわば、若者版パブリック・アクセスだ――というのは、かなり奇異で貴重だ。ゆえに書籍化することにしたのである。

では、なぜ筆者はそもそもそうした企画にとりくんできたのか。きっかけとなるできごとは、いまから15年ほど前にさかのぼる。それは、まだ筆者が市民活動の世界に足を踏み入れてまもないころのある出会いに端を発する。15歳の「不登校」少年との出会いだ。

自身の「不登校」体験を受け入れることができずに苦しんでいる――自分を自分で責め苛んでいる――ように、筆者からは見えた。「いいのだ、それでも」と思えないのは、彼の周囲で飛び交っている言葉たちが「それではだめだ」と囁き続けているためである。

「それではだめだ」と思いきれない、どこかで「いいのだ、それでも」と思いたいのに、周囲にはそれを否定・否認する言葉しか存在しない。だから苦しい。そこから自由になるには、一度その揺らぎや葛藤をまるごと受容・許容してくれる言葉が必要である。

当時の筆者はそのように考え、彼にこう声をかけた。「いろんな生きかたがあるよ。これから、ここから自分の人生をつくっていけばいいんだよ」と。しかし、彼からの返答はそっけなかった。「そんなのは東京や仙台でのお話、ここは山形。不可能だよ」と。

「東京や仙台」にあって「山形」にないものとは何か。それは「いろんな生きかた」の可視化された具体例である。確かにユニークな生を選んだ先輩たちのイメージは、私たちのもとにも届いている。しかし、それはあくまで「あちら側」のお話。説得力に乏しい。

では、どうするか。「いろんな生きかたがあるよ」という言葉をちゃんと彼に届けるには、この山形でいま、実際にそうした人生を送っている先輩たちの声を集め、「ほらね、ここにもたくさんいるでしょ?」と示すことができなくてはならない。

もちろん、そうした人びとの声は、2003年当時はまだ可視化されていなかったように思う。だからこそ「不登校」ごときで――とあえていう――ときに死を望むほど苦しむなどということがおこりえたのだ。ではどうするか。なければつくりだすしかない。

かくして筆者らの「いろんな生きかた@やまがた」の具体例さがしとその可視化プロジェクトが始まっていった。以来15年間、県内各地のユニークな実践に耳をすまし、現場におじゃまして話を聞き、それらを冊子にまとめ発行する、というのをくり返してきた。

熱心にとりくんできたのには、もうひとつ理由がある。若者支援NPOという(山形では)前代未聞のとりくみに足を踏み入れたばかりの筆者らには、自身の側にもそれを知りたい動機――こういう人生もアリなのか、確かめたい――があったからである。

ともあれ、そうしたプロセスをくり返していると、筆者らの周りには「いろんな生きかた@やまがた」の多様なデータやつながりが集積するようになっていく。それを可視化すれば、さらにそこに引き寄せられて多様な人びとが集まってくるという、正の循環。

可視化はさらなる資源をも呼び込むことになった。それは、地元メディアである。活動をはじめて10年後の2013年より、「そういう情報を紙面や番組で発信してほしい」との要請が舞い込むようになった。先述の「ヤマガタ青春群像」もそのひとつである。

これまでの歩みを振り返ってみて、改めて思う。15年前の山形ではずいぶん物議をかもしもした筆者らの「はじめの一歩」も、いまでは別に珍しくもなんともない、ごくありふれたものとなった。それだけ私たちのまち/地域は自由になったということだ。

とはいえ、そうした自由を享受できず苦しんでいる人びとが、私たちのまち/地域にはまだまだたくさんいるというのも事実だ。もっともっと、私たちは自由を、そして多様性を求めていく必要がある。貪欲に、ふてぶてしく、そしてのびやかに、楽しげに。

書籍のタイトルは『彼(女)らはヤマガタで何を企てているか? ポスト3・11における若者活動の記録 2013‐2017』にしようと思っている。完成した暁には、ぜひ手にとっていただけたらありがたい。

(『みちのく春秋』2018夏号 所収)

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