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デザイナーの可能性を模索し続けてきた、ほぼ11年をふり返る〜第2章〜

これまで約11年間のデザイナー活動をふり返る連載の第2回。第1章として前回は、ヤフーに新卒で入社してからのモヤモヤ期〜理想のデザインに近づいていった若手時代をふり返りました。

第2章では、UXデザイン、デザイン思考が業界の中で注目を浴びるようになっていったのと同時に、私の活動も広がっていった時期(2013年頃〜)をふり返っていきます。今回は特に、私がこれまで「UXデザイナー」として活動してきた理由にどんな背景があるか、垣間見れるのではないかなと思います。

「デザイン思考」を活用して体験を軸にしたサービス開発を推進

2013年頃から日本でも「デザイン思考」が注目され始めました。そんな矢先、上司から「予算確保したからこのデザイン思考のワークショップ参加してきて。後日社内で展開してほしい。」と言われ、外部のデザイン思考のワークショップに参加しました。参加してみて感じた率直な感想は、「私が今まで大学で学んできたデザイン、仕事で実践してきたデザインを体系化するとこういうことなのか!?」という感触でした。もちろん、デザイン思考はもともとデザイナーがやってきたデザインのやり方や考え方をデザイナー以外にわかりやすいように体系化したものなので、デザイナーとして仕事をしてきた私が自分がやってきたことと近いと感じるのも当然でした。自分のやり方と全く同じではないし、こんな単純なプロセスにはできないと思う部分もあったけれど、確かに初めてデザインに取り組む人には取っ掛かりとしてわかりやすいと思いました。

ワークショップ参加後、社内でデザイン思考をどう展開していくか、上司と相談しながら進めていきました。最初から大々的に全社に展開するつもりはありませんでした。でも、デザイン思考に興味関心を持っていた社員が意外にも多かったので、結果的に徐々に全社向けに展開していくことになっていきました。展開方法の検討過程では、社内でデザイン思考に理解があり、方法論の社内展開に関する知見を持った黒帯※の方々に相談にのってもらえたのも良かったです。まずは事例をつくり、社内セミナーを開催して広く実践ベースで知ってもらうことにしました。社内セミナーでは展開方法を相談していた黒帯※の方に登壇していただいたり、「ユーザーファースト」「課題解決エンジン」など、当時の社内のスローガンだった用語を出しながら、それらとの関係性を示していくようにするなど、社内でも注目を集めやすくする工夫をしていました。

※ヤフーの黒帯について、詳しくはこちらの記事を参照↓


ワーキンググループの立ち上げ

デザイン思考を学ぶワークショップの参加者を全社向けに募集してみたところ応募者が予想以上に多く、月1ペースで継続して何度か開催していきました。この頃は、デザイン思考の知見を持っていた社内のデザイナーに声をかけ、3、4人で一緒にワークショップを運営していました。それでも結局2日間のワークショップの講師は全て私一人でやっていたり、運営作業はだいぶ私の負荷が高い状況でした。第1章で紹介しましたが、このとき私はUXデザインチームのリーダーをやっていて、リーダー業務と自分の担当案件もこなしながら、デザイン思考のワークショップの運営もやるというなかなかの仕事量でした。でも、当時の私はまだ20代後半に差し掛かったくらいで体力もあったので、問題なくこなしてしまっていました。(今ではもうこれだけこなす体力はなさそう..)ですが、上司から「もうワークショップの運営タスクに時間を取られてしまうのは勿体ないから、ワーキンググループを作ってみたら?」と言われました。そこで、全社向けにデザイン思考ワーキンググループのメンバーを募集してみることになりました。(私が全社員向けのメールを出したのは、10年間でこれが最初で最後でした。)

ボトムアップでUXデザイン、デザイン思考を推進

デザイン思考のワーキンググループを立ち上げたのが、ちょうど2014年の1月でした。初期の活動内容は、主にデザイン思考ワークショップの運営、ワーキンググループ内の勉強会の2つでした。ワークショップの運営は、ワーキンググループメンバーにまずワークショップに参加してもらい、その後講師に手を上げてもらう形で徐々に講師ができるメンバーを増やしていきました。2014年は前年から引き続き月1で2日間のワークショップを開催していました。毎回定員を上回る応募があるという状況が1年近く続いたような記憶があります。これは全社向けに誰でも自由に応募できるワークショップですが、他にも個別に特定の部署のメンバー向けに勉強会をやってほしいという相談に応じたり、実際のサービス開発のプロジェクトでデザイン思考のアプローチを活用する際のサポートをする活動もするようになりました。

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活動のしくみをわかりやすく図にすると、こんなイメージです。実際はこんなにきれいにサイクルを回していたわけではなく、そのときどきによる要望や効果的な施策を吟味しつつ、いろんな活動が同時並行に走っていた感じでした。

また、ワーキンググループメンバー内でデザイン思考を推進したい意欲があり、実践経験やワークショップ講師経験があって教えられるメンバーをデザイン思考/UXデザインの推進者として、社内でタグづけする制度を導入しました。(当初「エバンジェリスト」と呼んでいたが、その後社内の諸事情により「サポーター」に変更された。)推進者は、自分が所属する部署内で案件の相談にのったり、ワークショップを開催したりなど、それぞれ自主的に活動を展開していました。タグづけされたことで周囲から理解を得られ、UXデザインの活動がしやすくなった人もいました。

学びと実践の拡大

流れで続けてきたUXデザインの推進活動でしたが、デザイン思考やUXデザインといったユーザーの課題解決に役立つ方法論に対して、関心の高いヤフー社員が思っていた以上に多いことが活動を続ける中でわかってきました。現状のやり方では不十分だと課題感を感じている社員はさまざまな部署にいて、学んで実践したい!推進したい!という思いをもっていた社員をUX推進初期フェーズで一気に見つけることができたことで、短期間でUX推進活動が軌道にのっていったように思います。

実際にUXデザインを実践したプロジェクトの中身を見ていくと、ユーザーインタビューをきっかけに、チームメンバーがユーザー理解を深めていき、チームが目指す方向について共通認識が生まれてくるという傾向も見えてきました。共通認識が醸成されてくると、コンセプトに留まらず、プロダクトに落とすまでブレにくくなっていき、技術的な困難はあれど、コンセプトの実現方法をしぶとくこだわるようになっていきます。UXデザインがチームの中でうまく機能してくると、まず初めにこのような変化がチームに現れてくる傾向があることがわかりました。ただ、これだけではUXデザインを取り入れた効果としてなかなか認められません。かといって、このチームの変化を見逃してしまっては期待するような成功には繋がらないので、チームの小さな変化を見逃さないようにしながら地道に活動を続けていました。

社外で登壇するのも社内で信用を得るため

2014年は、さまざまな外部イベントに登壇しました。きっかけは、デザイン思考の取り組みについてヤフーのクリエイティブブログ記事(ブログはいつのまにか消えてなくなっていた…)に書いたことと、schooでUXデザインの授業をやったことあたりだったと思います。これらをきっかけに活動について取材を受けたり、イベントに呼ばれたりすることが増えました。あと、もちろんUX系のイベントに参加者として行くことも多かったので、そこで知り合った人たちと一緒にイベントや勉強会をやることも増えました。外部で情報発信することで、社内で信頼感を高めていくという戦略もあってやっていました。この戦略は、2013年頃からUXやサービスデザインに関心の高い社内のデザイナー数人でも話をしていて、後に「一人から始めるユーザーエクスペリエンス」の翻訳をして出版するに至りました。社内で読書会を実施するなどしてUXの理解浸透のためにも活用していました。

イベント登壇資料で外部公開されているものをいくつかご紹介↓

スマホサービスに最適なUXを考えるアプローチ方法(Slide Share)
第1章で紹介した研究プロジェクトを一部抜粋して紹介した話。

Yahoo! JAPANの"UX Team of One"(Slide Share)
「一人から始めるユーザーエクスペリエンス」出版記念イベントで紹介したUXデザイン実践と推進のポイントの話。

なぜ、UXの推進活動を続けていたのか?

デザイナーであれば、自分でデザインしたいと思う人が大半です。ですが、私はあまりそういうことを意識せずに活動してきました。なぜUXデザインを社内で推進する活動などやろうと思ったのか?それは、私自身が体験を軸としてサービスを開発していくやり方を大学時代、社会人になってから経験して、そのアプローチでいいものが生み出せたと思えたからです(第1章で触れた話)。そして、何より作り手である自分自身が楽しかったと思えたからです。だから、もっとみんなこういうアプローチでサービス開発をすればいいものが作れるし、作り手自身が楽しく納得感が得られるものづくりができるはずだと思ったのです。そして、私だけでなく、ヤフーだけでもなく、日本全体からもっと豊かな体験ができるサービスが生み出されていくようになってほしいと純粋に思ったのです。

もともと私は自ら人前に出て話すようなタイプではないのですが、自分が理想とするデザインのあり方がもっと当たり前にできるようにしたい!その方が作り手にとっても楽しいはず!そのために必要なことなら何でもやるぞ!という思いで活動していました。(逆に言えば、他にやる人がいなかったから自分でやるしかなかったとも言えるのかもしれませんが。)

肩書きが物を言う社会

UXの推進活動をし始めた頃は、肩書きの重要性を実感する場面に度々遭遇しました。UXデザインチームのリーダーになる前、なんの肩書きもなかったとき、初対面の人との打ち合わせで「あなた、まだ若いでしょ?」と見た目でなめられて悔しい思いをしたこともありました。(私は見た目が童顔なのですが、そんなこと気にしてても仕方ないので実力で勝負できるように努力して経験を積んできたつもりでした。)それが、UXデザインチームのリーダーになり、デザイン思考の活用サポートをする役割として、とあるプロジェクトチームに入っていったとき、自分より社歴が長い人から先輩社員を紹介するかのように「UXデザインチームリーダーの瀧さんにサポートいただきます」とメンバーへ紹介されたときは正直驚きました。肩書きひとつでこんなに見られ方が変わるのかと。

他にも外部のイベントに登壇したとき、「2009年入社」と自己紹介したところ、イベントレポート記事で「瀧さんは2009年に中途入社し…」と勝手に中途入社扱いされ、社会人歴はもっと長いように見られることもありました。

肩書きという表面的な情報で判断されることに疑問を感じつつも、UXという不確実性の高い方法論を推進していくために最初に肩書きで少しでも信頼を獲得できるなら、それはそれで利用するのもありなんじゃないか⁉︎とだんだん思うようになりました。そして、黒帯への推薦をいただいたので、それなら黒帯の肩書きを最大限に活用してやろう!という思いで、デザイン思考・UXデザインの黒帯を3年間務めることになりました。(黒帯としてUXの推進活動にフォーカスを移すため、UXデザインチームのリーダーは他のメンバーに引継いで私はメンバーに戻りました。)

第2章はここまで。こうやってふり返ってみると、変化が大きい時期だったと思うのですが、当時の自分としては日々自分にできることをひたすらなんでもやりまくっていただけ、という感覚でした。

次の第3章は、UX推進活動の第2フェーズとしてUXデザインを組織の中で継続的に実践していけるようにするにはどうしたらよいかを考えて模索していった時期(2015年頃~)をふり返ろうと思います。


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